第38話 鬼ごっご
そして、その後、ユウナとウェルツは数日間の待機が命じられた。理由はもう一人の参加者が戻っていないからである。
それに対してユウナは不満だ。ユウナにとってこの依頼は今すぐ行きたいのだ。早くミコトを助けたいし、あの残虐な組織を自分とウェルツの手でつぶしたい。待っている余裕なんてない!!
だが、そんなことを言ったら怒られそうなのでそのことは心にとどめる。しかし、少しいらいらは止まらないので、指遊びをし始める。そんなユウナに対し、ウェルツは少し背中をさする。それを受けてユウナは少しだけストレスが吹き飛んだ気がした。
「でも三日かあ」
「大丈夫だ。まだ無事なはずだ」
「……うん……」
そしてユウナの中にあることが思い浮かんだ。
「ウェルツさんは組織の味方をしなくてもいいの? 今更だけど」
「大丈夫だ。組織のことは俺も見限っている。今まで裏切っていなかったのはきっかけがなかっただけだ。きっかけがあったからちゃんと裏切ることが出来る。今、組織の人間がお前を渡せなんて言っても、俺はお前のことを守り抜くさ」
「ありがとう。ウェルツさん」
そして、二人はとりあえず別の依頼を受けた。シンプルな魔物退治だ。もちろん二人の実力からしても一般の魔物など敵ではない。
「ねえ、これで終わり?」
ユウナはウェルツに聞く。思ってたよりも敵が弱いのだ。小さな魔法一発で魔物それぞれが沈む。
一応かなりの難易度の依頼だ。しかし、今やもう敵ではない。ユウナはその事に疑問を感じた。
「ねえ、私が強いだけ?」
「まあ、そうだが、なんだかムカつくな。その言い方」
「えー、ウェルツさんは私を全肯定してよ」
「流石にそれは無理だ。嫌われるやつだぞ」
「だって異世界の作品ではこういう時にこういうのが決まりみたいな感じあるからなあ」
ユウナが見てきた異世界の作品では、勝った時にイキッた事を言うのが決まりなのだ。そう言う言葉が異世界の読者に刺さると、あの時の景色で見た。
「はあ、なんか乗らないなあ」
「仕事が楽なのはいい事じゃないか」
「でも……もっと戦いたい!」
体の中で熱が溢れる。まだ戦い足りない。こんな、ただの蹂躙で満ち足りるわけがない。ユウナ自身も戦闘狂というわけではないが、これでは戦わない方が良いまである。
「ユウナ!」
だが、それはウェルツがユウナの背中を叩いた事で止まった。
「ユウナ。これも大事な依頼であり、仕事だ。確かに、しょうもない仕事だ。だが、これによって魔物によって被害を受けていた人達は助かるんだ」
「理屈は分かるよ! でも私は……この力をフルで使ってミコトを含めたみんなを助けたいの、あの戦争の時みたいに! あの時は主戦場では大した活躍はできなかった。でも、その前の戦場では敵を殺してみんなを助けた!! こんな小さな依頼をこなしてて良いのかって……」
ユウナにはある迷いがある。ミコトを守りたいのはそうだが、自分には使命があると思ってしまっている。確かに、自分の命を犠牲にしてまでも世界を救いたいわけではない。だが、自分の力に酔っているのだ。
「ユウナ! この依頼は小さくない。お前が強くなってるだけなんだ。完成体の仕組みとして最初は溜め込んだエネルギーを放出して強いが、その後は弱くなる。その後の成長速度は組織としても未知の世界だ。だが、お前の成長スピードは凄まじい。それにルベンさんも言ってただろ。本当ならもう一ランク上でも出来そうだが、念の為一ランク下にしといたって言ってただろ。そういう事なんだ。だから今しばらくは我慢の時間だ」
「むう」
ユウナは全てを飲み込めたわけではなかった。だが、自分の感情さえ理解できてない今、反論などできるはずがなかった。今の状態で反論なんてしたら、それこそお粗末な反論になるだろう。それどころか、我儘みたいたものに捉えられるかもしれない。
それは嫌だ。そうなるくらいならこのよく分からない気持ちを押し込めてた方が良いのかもしれない。そう思い、ユウナはウェルツに大人しく着いて行った。
「はあ」
とはいえユウナもストレスが晴れてはいない。戦いに飢える。その意味を必死に探している。単に強敵と戦えばそれで良いのか……それとも前みたいに大きな戦場で戦った方が良いのか……どちらなのかはゆうなにとって、よくは分からなかった。
「ねえ、ウェルツさん……」
ユウナはウェルツに決意を持って話しかけた。
「鬼ごっこ……しない?」
そう告げた。運動すればストレス解消になると思ったからだ。
「鬼ごっこってなんだ?」
「え?」
そうだったとユウナは気づく。鬼ごっこは異世界の遊びだ。ウェルツさんが知っているわけが無い。その事に気づいたユウナは慌てて説明をする。とはいえルールは単純なので、すぐに説明は終わったのだが。
「分かった」
ウェルツは秒で飲み込んだ。そしてユウナは「じゃあウェルツさんが鬼ね!」と言って、走る。ウェルツはそんなユウナに対し「ずるいぞ!」と言うが、もうユウナはだいぶ先まで行ってしまった。
ユウナはそんな中、楽しいなと感じた。異世界では子どもがやるようなくだらない遊びだが、ずっと牢に閉じ込められていた自分にとっては楽しい遊びだ。
そしてしばらく走ったところでユウナはウェルツに捕まってしまった。大人の男と少女とでは力の差は歴然なのだ。これは仕方ない事だ。だが、ユウナは捕まってもなお笑っていた。それに対して不思議に思ったウェルツが「なんで笑ってるんだ?」と聞いた。すると、
「楽しいから!」
ユウナはシンプルに答えた。とにかく楽しくてたまらないのだ。もうストレスのことを忘れるくらい。これでしばらくこのいまいちな依頼でも何とかやっていける気がする。そう感じた。
これで、気を取り直し、ミコト救出に尽力を尽くそうとも思った。
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