第39話 ミア

 そして三日ほどユウナにとって面白くない依頼を解決したのち、ついに組織をつぶすための依頼が始まった。今回狙うのは組織の、ミルという都市にある支部だ。ここに組織の重要な支部がある。ここにはユウナとウェルツの二人の他にも数名のギルドメンバーが参加している。


 そして、集まってのち、それぞれのメンバーで自己紹介をした。そこには戦争で活躍した人や、過去に組織作戦で活躍した人などがいた。だが、一番注目すべきなのはアトランタだろう。彼は戦争時に魔法部隊を壊滅まで追い込むという破竹の大活躍をしたのだ。おそらくこの中ではユウナを含めても、アトランタが一の実力者だろう。ちなみにルベンやルイス達は別の依頼があるので不参加だ。各々戦争時に現れた魔王軍の対応に忙しいのだ。


「おい、女なんて珍しいな。しかも子どもかよ」


 そんな中、一人の男にユウナが話しかけられた。筋肉もりもりの男だ。


「私魔法得意だよ。ほら」


 ユウナは軽く炎を生み出した。


「そういう事じゃねえ。運動に向かない女はこういう乱戦には向かねえってことだよ。遠距離攻撃できなきゃ魔法職なんてしょせん捨て職なんだから」

「へー。でも私は強いから別に何でもいいけど。近接戦もできるしね。てかそっちこそ誰よ?」

「はあ、俺のこと知らないのか?」

「うん」


ユウナがあまりにもあっけからんにこたえるもので、男も調子が狂う。


「こりゃあ驚いた。俺はアトランタだ。かの戦争でかなり活躍したはずだぜ」

「私は別にそう言うの興味ないから」

「ますます珍しいな……」


 そう言い、アトランタは神妙な顔をした。まさか自分のことを知らない冒険家がいるとは思っていなかった。自分は冒険家ではなく軍に入ったが……


 しかし、活躍すれば皆が知る有名人になれるとも思っていたのだ。


「まあ、でも。この中だと、一番実績はあると思うから、お前は俺に従えよ」

「うん! わかった!」


 そして、移動が始まった。アトランタが宣言したとおり、この依頼の中では、アトランタがリーダーとなった。リーダと言っても、ギルドメンバーは皆自由なので、すぐに名だけのリーダーになる恐れもあるが。


 そしてその中アトランタはユウナにあることを告げた。それに対して「はあ!!」とユウナは切れ、アトランタに殴り掛かろうとするが、それをウェルツに止められた。


 その告げられた内容とは……後方支援と言うものだった。魔力を保ちながらいざと言う時にしか魔力は使わず、前には出ず、現れた敵に関しては前衛に回すというものだった。

 ユウナは少し納得がいかなかった。だが、それはこの世界では当たり前のことなのだ。魔導士はうまい状況で使えば強いものだが、いい状況で使わないと、ただの的となってしまうのだ。


 こういう組織殲滅戦のような戦闘では向いていない。それは明白だが、やはり納得がいかない。戦いたいという熱が出てるのだ。しかもなぜ命令されなくてはならないのか……

 だけど、それがミコトを助けるためになるのならと、とりあえずユウナはその命令を呑み込み、いざとなれば命令無視してしてもいいやと言う気持ちで戦いに臨む。

 リーダとは言え、命令違反しても別に罰則なんてない。


 そしてしばらくたってのち、組織に着いた。この場所にミコトがいる。ミコトがひどいことをされている。そう思うと、少し興奮してきた。

必ず、ミコトを助ける。ユウナは拳をぎゅっと握りしめた。

アトランタが入り口を守る構成員の首を剣で斬り落とし、


「行くぞおおおおおおおお」


と、叫び中に入っていく。


 建物の中では、ウェルツがユウナを守る形で後衛として待機し、他はみんなどんどん進んでいくという形で進んでいった。

 ウェルツは、ユウナが不満げにしていることに気づき、ウェルツは言う。


「ユウナ、お前の手番は絶対あるはずだから。今は我慢しろ」

「はーーーーーーい」


 ユウナは若干毒気な言葉を吐いた。やっぱり自分の手で、ミコトを取り戻したいという気持ちが大きいのだ。


 そして、前衛がどんどんと、組織の構成員と戦いをしていく。それを見つめてユウナは「いいなあ」と呟く。本当は自分も戦いたい。その思いがやはり自分の中にあるのだ。

 なぜあの時もっと抗議しなかったんだろうと、別の後悔の念が出てくる。


 そして、前衛が安全を確保してから先へと進んでいく。すると、後ろから……


「うおおおおお!! 死ねええええ」


 と、ユウナの背中を狙った攻撃が来た。それを見て、来たと思ったユウナはウェルツが動く前に、魔法をぶつけ、その敵を倒した。


「お前の力はいざと言う時にとっとけと言っただろうが」

「私魔力が高いから無くならないよ。そんな簡単には……」


 実際今使った魔力なんてフルの一〇〇分の一にも満たない。そしてこんなの自然に五分程度で回復するような量だ。


「さあって、暇だなあ。私だってもうこの建物燃やしたいくらいのムカつきあるのに」

「落ち着け、そしたら関係ないお前みたいな被害者も死んでしまうぞ」

「もう! 正論やめてよ!」


 そして、しばらくたち、どんどん先へと進んでいく。アトランタは上手く敵を倒してるみたいで、ユウナたちは心配せずに先を進むことが出来た。


「これは……」


 ユウナはその光景を見て吐き気がした。そこには大量の死体が転がっていたのだ。見るからに失敗作とか、実験に耐えきれずに死んだ人たちだろう。ユウナにとって、ユウナにとってこのような光景は無理だった。耐えきることなど。


「はあ、はあ、はあ」

「おい!ユウナ大丈夫か?」


 とはいうものの、ウェルツにもユウナが吐き気を催している理由など考えなくてもわかる。そして、それを責めることなどできない。ユウナにとって、自分が迎えたかもしれないもう一つの自分を見ているようなものだから。


「ユウナ、耐えろ。先へ進んでる前の人たちを追わなければ」

「うん……」


 だが、ユウナにとって歩くことはもはや不可能に近かった。


「わかった。乗れ」


 ウェルツは下がり、ユウナに背中に乗るように促した。


「わかった」


 ユウナはウェルツにおぶられて先の部屋に行く。するとそこには一人の少女がいた。ミコトとは違う少女だ。

だが、拘束はされていない、自由な形となっている。


「あ! 子供?」


 アトランタはそれを見て呟いた。すると、少女はアトランタあの方へ向かって素早く拳を突き出してきた。


「っうお、何だよ!」


アトランタはそれをぎりぎりでよけた。


「私のにはミアと言う名前があるのです。まあそれはいいのですが、私はあなた達が許せないのです」

「なぜだ?」

「私をここまで強くしてくれた組織をここまで壊滅して、本当に! 許せないのです!」


 彼女、ミアは拳を振り回し、そのままアトランタ目掛けてこぶしを伸ばす。アトランタはぎりぎりでそれをよけるが、すぐに次に拳が振るわれ、アトランタは吹き飛ばされる。


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