第32話 休息

「ユウナ!」


 と、ウェルツさんが私の名前を呼びながら走ってきた。


「エメリンは?」

「何とか倒せそうなところまで来たが、逃げられてしまった」


 ルベンがその事実を伝えた。


「そうか……ありがとうございます。ルベンさん」


 勿論、助けてくれてという事だ。


「ああ」

「一応俺もいるんだけどな」

「あなたは?」

「俺はレナード……一応S級だ」

「なるほど……あなたが俺たちを助けてくれたという訳ですか」

「そうなるな……と、敵がまた来たな。俺たちはしばらく動けそうにはない。二人とも頼めるか?」

「うん!」


 と、ユウナとウェルツで敵の兵士を迎え撃つ。


「またエメリンようなやつが出てきたらかなわん。進み過ぎないようにな」

「うん!」

「とりあえず、目の前の敵だけを倒すんだ」

「わかった」


 ユウナは目の前の敵をウェルツに身を任せながら最低限の魔力だけを使いつつ、倒していく。


「敵……多すぎない?」

「ユウナお前魔力はあまり残ってないんだろ」

「うん」


 何しろ、ユウナはここ最近の戦場で大量の魔力を使っている。そろそろ限界が近い。そのことは本人が一番わかっている。


「とりあえずやばいと思ったらすぐに下がれ……忘れるなよ。俺たちにはこの国のために戦う義理はないんだ」

「それはわかっている。でも、もし負けたらこの国の民がやられる。そしたら私が知ってる人が危機に陥る可能性もあるから」


 メリーや今生きているのかわからないミコト、そしてルベンなどたくさんの人が死んでしまう。それはユウナにとっては嫌な事なのだ。


「そうだな。だが、お前が犠牲になることはないんだぞ」

「世界にために私を犠牲にしようとした人が言うセリフじゃないと思うけど」

「それもそうだな。悪かった」

「謝ってほしい訳じゃないのに。




「あれ?」


 魔力がなくなった。ユウナは順調に敵を倒していっていたのだが。


「おい、ユウナ。魔力がなくなったのか?」

「うん。そうみたい」

「なら。援護するからお前はとっとと逃げろ!」

「わかった」


 ユウナは後ろに下がる。


「俺たちはもうここまでだな」

「うん」

「今日は別の人たちに任せよう」

「そうだね。バチは当たらないと思うし」



 そしてその日は休んだ。


 幸いルベンたちとと共に前線を離れることが出来たのだ。


「ねえ」

「ん?」

「なんかさあ、悪いことしてる気分」

「仕方ないだろ。俺たちは十分戦った。四人がかりとはいえ、エメリンをしのいだんだ。それにその前にメルセンという敵を倒してるしな。それ以上を望まれても困るだろ」

「そうだけどさあ……」


 ユウナはなんとなく不本意そうだった。ユウナは不完全ながら完成体だ。世界を救うために死ねというのは嫌だが、せっかくならフルで使いたいという気持ちだ。

 ウェルツはその様子を見て、これは説得するのは時間がかかると思った。だが、


「あ! なんか遊ぼう?」


 ユウナは唐突に言った。


「遊ぼうってどういう風にだ?」

「にらめっこ!」

「にらめっこ?」

「そう、変顔して先に笑ったほうが負けなの」

「それも異世界の遊びか?」

「うん。楽しいらしいよ」

「ならやるか」


 ウェルツがそう言った瞬間、ユウナは「やったー!」と全力でバンザイした。




「じゃあ……にらめっこしましょ。あっぷっぷ」


 と、ユウナは変顔する、それに呼応してウェルツも変顔を作った。ユウナはシンプルに顔を膨らませて、ウェルツは困惑したようにベロを出しながら白目を作った。


 そして一五秒経過……そろそろユウナの限界が近い。そろそろ吹き出してしまいそうだった。理由は単純、いつもまじめなウェルツが戸惑いながら変顔してるのだから。


「あはは」


 ウェルツがユウナの笑いのツボが破壊される寸前に笑い出した。


「まいったわ。俺の負けだ」

「やったね!」


 と、ガッツポーズをする。すると……


「おいおい、変顔? 戦場で不謹慎な」

「ガッツポーズって死んだ人もいるというのに」

「それにそもそも子供が戦場に出てくるなんて」


 向こうでこそこそ話が聞こえる。


「おい!」


 と、ウェルツがその方向に歩き出した。


「何だよ」

「こっちが何をやろうがこっちの自由だろ!」

「自由? こっちはすでに親友を戦場で亡くしてるんだ。そんな中変顔なんてされたらたまったもんじゃねえ。変顔なんてするんなら帰れ!」


 ユウナはそれを聞き、立ち上がり……



「そんなこと言うことないでしょ」


 と言った。もう我慢なんてできなかった。こっちはただ遊んでただけなのだ。不謹慎なんて知らないし、そもそも他人の死なんてこっちには関係がない。確かに悪いとは思うけど、ユウナたちに謝る理由なんてない。


「ああ、何だよ、反抗しようってのか? 俺たちのほうが被害者なんだよ」

「そんなことないでしょ!」

「やるのか?」

「え? 戦うの? 望む通りだけど」


 と、手で炎の弾を作り出す。それもかなり巨大な。


「っち、魔導士かよ」



「ねえやるの? やらないの?」

「おい! やめろ!」

「いた!」


 ユウナはウェルツに頭をごつんとされた。


「何するの?」

「お前なあ。魔法まで使ったらそれはもう口論ではないぞ」

「だってあっちがやるかって言ってきたんだもん」

「そうだが、戦いになったら俺たちまで悪くなってしまうかもしれないだろ」

「でも、ムカつくじゃん」

「俺としては平和的な解決法を探してただけなんだが」

「そう、じゃあ平和的な解決方法があるよ。私たちがここじゃないところに移動する。それでいいでしょ!」

「ああ、分かったよ」


 と、その場は丸く収まった。ユウナが冷静だったのだ。


「お前。やけに大人だな」

「でしょ! 私頑張って怒りを抑えたんだ。偉いでしょ!」

「ああ、偉い」


 と、ウェルツがユウナの頭をなでる。


「えへへ」

「うれしそうだな」

「だって気持ちいいもん。これがご褒美なら明日も頑張れるよ」

「そうか。なら明日もよしよしするか」

「やったー!」


 そしてユウナは再びバンザイをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る