第31話 エメリン2

 

「待たせたな」


 と、そこに立っていたのはルベンだった。


「助けに来たぞ」


 その姿を見てウェルツは軽く涙を流した。だが、これで助かったわけではない。ルベンがエメリンを倒すか、しのぐかをしないといけないのだ。


「よく戦ったな。行くぞ!」


 とはいえ、彼の能力としては敵の動きを遅くする。その魔法は剣士には有効だが、魔導士に対してはほぼ何の効力を持たない。ただ、魔法を打つ動作がコンマ0,1秒遅れるから回避が少し簡単になると言ったところか。


「シャインルーア」


 と言って一〇個もの光の光線がルベンに向かう。だが、ルベンは何もないかのように剣を振り回し、それらを防いでいく。


「でも、私には部下がいるわよ。そしてそのすきに魔力をためることもできる」


 と言ってエメリンから光が漏れ出してくる。そしてエメリンを守るように大勢の兵士たちがルベンの方へと向かって行く。


「そう言う事か、確かに混戦においては魔導士が有利だな。だが、味方がいるのはそっちだけじゃあ無い!」


 と言って……


「レナード!」


 と、もう一人の男が参上する。金髪でピアスをつけているいかにもチャラそうな見た目だ。だが、彼は根はまじめだ。

 ギルドでも五本の指に入る実力者だ。


「お前たちの力を見せつけてやれ!」


 いや、レナード一人では無い。多数の人間が向かって行く。


「こいつらは俺の仲間だ。とくにレナードは俺並に強い。こいつらでお前の部下を殺し、お前も殺す」

「良いの? そんな無駄口叩いて!」


 と、極大な光線がルベンを貫く。だが……


「防御の準備もできてるに決まってるだろ!」


 魔力を集中させ、盾を作りその光線を防ぐ。


「待ってろよ!」


 と言って皆で攻撃を開始する。


「ルベンさん。すぐに終わらせますよ」

「ああ頼む!」

「うおおおおお!」


 レナードは剣を振り回し、周りの敵をどんどんと切り伏せる。


「こじゃかしい!」


 だが、エメリンにとって、動き回る敵への攻撃は難しい。下手に放っては部下に当たるからだ。


「だが……」


 エメリンの周りに魔力が始まる。


「私がそんなにノーコンだと思ったか?」


 と、レナードに向けて魔法を放つ。範囲よりも威力を重点に置いた半径五センチほどの光線、それを二十発程度レナードに向けて放つ。

見た目は大したことがなさそうだが、見た目で判断してはいけないとレナードは過去の経験から知っている。


「思ってねえよ!」


 敵を切り伏せながら、光線を上手い事避けていく。


「俺を忘れてないか?」


 と、ルベンも負けじと、別方向……エメリンの横からエメリンを打とうと走ってゆく。


「ちい、数が多いな!」


 と、エメリンは焦りの表情を出す。


「こちらにも援軍がいたら良いのだが……」


 エメリンは少しだけ考え込む。こちらにはろくな兵がいない。こちらに唯一いた実力者はもう敗れてしまった。もはや援軍はいない。だが、そんな状況で絶望しているような女ではない。ここから逆転できる方法。それをエメリンは必死に考えているのだ。


「ならば」


 と、エメリンは力をため……



「はあ!」


 と、味方ごと、業火で焼き尽くした。エメリンの濃厚な魔力を込めた一撃。味方を巻き込むとは思っていなかったルベンとレナードに直撃した。だが、


「くそ、まさか焼いてくるとは」


 と、いいつつ、レナードは立ち上がる。


「効いていない……だと?」

「お前は優しいな。味方が全焼しないように手が弦してたんだろ」

「まさかそんなわけは……」


 エメリンは周りを見渡す。すると、重症と思わしき人もいず、皆軽傷のようだった。傷も皆軽いやけど程度で収まっている。

エメリンはレナードが言う通り手加減してしまったのかもしれない。


「私は……いや、こんなはずはない! 私は非道なんだ! 戦争は情がないものが勝つ、そう言うものなのだ! フレイムメルストリーム!」



 と、やけになりながら周り一面を炎が覆い包もうとした。今度はまずいと思ったレナード、副ギルド長はとっさに後ろに跳ね返るが、大ダメージを負ってしまう。


「はあはあ……やったか?」


 エメリンはつぶっていた眼を開け、レナードの方を見る。大量の焼死体が転がる。敵味方問わず大量の死体が。それを見てエメリンはほっとするが、視界に飛び込んできたのは生存しているレナードとルベンの姿だった、


 そう、二人は傷を負うも何とか生存していた。

 エメリンは気を取り直し、


「フレイムショット!」


 と、炎をレナードの方向に猛スピードで放つ。レナードは傷を負い、避けるすべを持たない。レナードは肩を若干右に曲げ、直撃を避けるが、肩に当たり、肩から血を流す。


「終わりね!」


 次はルベンのもとに魔法が発射される。しかし、ルベンはぎりぎりで魔法を剣で受ける。


「そっちはまだ動けたみたいね……でももう一発撃てばどうでしょうね! フレイムストーム!」


 と、再び炎の渦が二人めかげて発射される。


「もう……だめか」


 と、ルベンは目をつぶろうとする。魔法で対抗したいところなのだが、魔導士と、剣士じゃ魔力の質に違いがありすぎる。おそらく相殺など出来ないだろう。


だが、その瞬間、


「サンダーヘッドルーズ!」


 と言う声がして、雷で炎の渦が消された。


「はあはあ。間に合った」


 そこに立っていたのはユウナだった。


「なぜここに?」

「走ってきた」

「いや、そうじゃなくて、もう傷は大丈夫なのか?」

「私は回復力が高いからね……だから後は任せて」

「そうは言われてもだなあ」

「大丈夫。あとウェルツさんは遅れてくるらしいからそこもよろしく」

「あ、ああ」

「行くよ! サンダールースボルト!」


 と、雷が一直線にエメリンに向かう。


「私はそんなもので負けない!」


 と、エメリンはエメリンで光を生み出し、相殺される。


「たぶんだけど」


 炎を放ちながら言う。


「もう魔力あまり残ってないよね」


 完成体として桁外れの魔力を持つユウナでもわかる。魔法は魔力を喰う。


 こんな大規模な魔法を発射しまくったのならなおさらだ。


前、魔物との戦いでユウナも魔力がなくなった。完成体でも、魔力切れがあるのだからそれはエメリンも同様だろう。


 それにもともと魔法使いが後衛なのは、魔力切れによる無駄な死傷者を出さないためでもある。

魔力が切れて何もできなくなった魔導士を嬲り殺されないように。


 となれば前衛に出てきたエメリンはユウナ同様に魔力総量に自信があるとみていいと思うが、それを完備しても、魔力の使い過ぎには弱いはず。


 もうユウナにウェルツ、そしてルベンたちとの連戦。これで魔力が尽きないはずがない。

 ユウナ自身も魔力はそこまで残ってはいないが、いける! そうユウナは考え、


「フレイムブレスト!」


 と、魔力を炎に全力で込めて、発射する。


「これは……まずいか」


 エメリンは炎を間一髪でよけ、後衛にどんどんと下がっていく。


「あ、卑怯者!」


 ユウナはエメリンを追いかけようとするが……


「魔て」


 ルベンに呼び止められる。


「追わなくていい。お前も魔力は回復しきってないだろ」

「まあそうだけど」

「だから、とりあえずは休め。俺たちと一緒にな」

「うん」

「あと、ありがとう。お前が来なかったら俺たちは死んでたかもしれない」

「え? 逆にルベンさんたちが来なかったら私たちも死んでたかもしれないし、お互い様だよ」

「そうか」

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