第29話 メルセン

 

「俺が受ける。お前はサポートを頼む」

「分かった!」


 とはウェルツは言ったが、全く勝てるビジョンが見えない。敵は最強角の一人、ウェルツ程度の実力だとすぐに剣を捌ききれなくなって終わるのが落ちであろう。

 しかし、ユウナの援護があれば戦いになるかもしれない。そう考える。

 だが、


「はあ!」


 そんな中、ユウナはウェルツの指示を無視してメルセスに斬りかかる。それを見てウェルツは「はあ!」と叫んだ。ユウナがもしやられたら全て終わりだ。


 そしてユウナの攻撃は簡単に受け止められた。そして、「ありゃあ!」とメルセスが暴力的な筋力で剣を振り、ユウナは弾き飛ばされる。


「馬鹿! サポートに回れって言っただろうが」

「ごめん」


 そして今度は入れ替わりでウェルツが斬りに行く。ウェルツの剣とメルセンの剣がぶつかった瞬間、ユウナが言われた通り魔法を作りだす。巨大な雷の球だ。ユウナの魔力をふんだんに使用したこともあり、威力は十分なものとなった。


「なるほどお前……魔法を使ってこちらの動きを牽制しようってことか?」

「いや違うけど」


 ユウナにとっては普通にぶつけようと思ってただけだ。牽制でも何でもない。


「まあなんでもいい。ただ目の前の敵を切るだけだ」


 と、ウェルツの剣を捌く。


「はあ!」


 ウェルツはメルセンの剣に斬り入れようとするが、メルセンはその攻撃を剣でいなし、即、次の攻撃を入れようとする。ウェルツはそれを読み、足で地面を蹴って後ろに下がり、その攻撃をよけ、剣の振り終わりを見てすぐに再突撃をする。


 そしてメルセンうまくその攻撃を剣で合わし、地面を隆起させ、ウェルツの体勢を崩し、動きの取れないウェルツを斬る。しかし、ウェルツは間一髪のところでなんとか体勢を整え、その攻撃を受け斬り、地面に転がりながら距離を取った。

 ウェルツ自体も元は組織の戦闘者、実力はそこそこ兼ね備えている。


「ユウナ」

「何?」

「俺が合図したらあいつに魔法をぶつけろ」

「はーい」


 そしてウェルツは再び突撃し始めた。その剣の連続のさばきでメルセンの攻撃を受け、責め立てる。しかし、実力の差は顕著に出始める。


 ウェルツの剣はメルセンには届かない一方、ウェルツには細かい傷がつき始める。このままでは、ウェルツが先に体力を失う羽目になってしまう。それをただだって見ているユウナは歯がゆさを感じる。だが、


「ここだ!」


 ウェルツが叫んだ。その瞬間、ユウナはその雷の球をメルセンめがけてはなった。


「ふん!」


 メルセンはその魔法を大剣で受け止めた。だが、その瞬間ユウナはその球を離散させた。その影響でメルセンに雷の攻撃が来る。メルセンがしびれていると、「私だって戦えるんだよ!」と言いながらユウナが炎の剣を纏って、メルセンに斬りかかる。


 だが、メルセンはその瞬間にやりと笑った。実のところメルセンは雷によるしびれからは一瞬で立ち直っていたのだ。ユウナはすぐに剣ではじかれ、それを負うようにメルセンが剣でユウナを刺し殺そうとする。


「嫌だ!」


 とユウナは叫ぶ。


(また、覚醒しないと!)


 覚醒とは、村で起こったあの出来事のことだ。あれさえ起きれば今の状況からでも戦えるかもしれない。逆転できるかもしれない。だが、ユウナの思考とは裏腹にそれは起こらなかった。

 そしてそのままメルセンの剣がユウナの腹を突き刺した……かに思えた。

 そかし、その剣は止められた。


「ふう、間に合ったか」


 そこにいたのは大賀あrの一九〇センチにもわたる大男だった。名をマルス アクティムという。彼は貴族出身だ。実力ならば十分にある。


 いや、今は彼のことなどどうでもいい。それこそユウナにとっては。


「ありがとう」

「いいってことさ。で、こいつが敵だな」

「うん」


 ユウナはそう答える。


「分かった。俺がすぐに殺すさ」


 とは言ったものの、マルスにも自信はなかった。実力としては自分よりも上だ。後ろにユウナとウェルツがいるとはいえ、勝てるとは思えない。


 マルスはとにかくメルセンに斬りかかりに行く。その裏で「ユウナ準備しとけよ」


「うん。分かった」


 そして戦闘が始まる。マルスとウェルツがメルセンと剣をぶつけ合い、ユウナが援護射撃だ。二人の実力はメルセンには遠く及ばないが、ユウナは炎の小さな球をぶつけていく。そのたびにメルセンの顔が軽くゆがみ、そのすきに二人が攻撃を与えていく。


 本来メルセンの攻撃なら必ず勝てるはずだった。しかし、多対一の状況で冷静ではなかった。

 ユウナの地味地味とした攻撃によって、メルセンイライラとし始めている。


 元来メルセンは手柄を取りに、この戦場……大した敵のいる場所ではないと思っていた。だが、ふたを開けてみたらかなり追い込まれていく。もう少し簡単に終わる戦場だと思っていたのに。


「ふざけるなああああ」


 メルセンは激怒し、大きく剣を振り下ろした。するとその先にいたマルスに攻撃が当たった。

 マルスの腹は引き裂かれ、その場に血を流して倒れた。


「はあはあ」


 メルセンは確かな手ごたえを感じる。これで勝ちだと。だが、その瞬間目の前に炎のたあmが飛んできた。勝利を確信したメルセンにとってそれが不意の一撃となったのは言うまではない。その炎の球によってマルセンの肌は軽く焼け、火傷の症状が出た。


「くそが。俺は!」


 メルセンは何もなかったように再び向かってくる。火傷の痛みなんてないように。


「え?」


 ユウナが気づいた時には目の前にまで来ていた。

 その不意の一撃はユウナの意識を深淵にまで閉ざした。


「ユウナあああ!」



 ウェルツは叫び、その、メルセンの背中を剣で斬る。その一撃でメルセンは倒れかけるが、踏ん張り、ウェルツに体を向けなおす。


「まだ死んでいないのか」


 もうゴリゴリだ。流石にもう終わっていてほしかった。


「ああ、まだだあ」


 二人は数太刀ぶつかり合う。だが、メルセンの体力はほとんど限界に近かった。結局最後にはウェルツの勝ちに終わった。


「はあはあ。ようやく勝ったぞ」


 そしてウェルツはユウナを連れて、自陣へと向かった。マルスの心臓はすでに止まっていたが、ユウナはまだ生きているのだ。

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