第28話 戦闘



「突撃!!!」


 その軍隊長の言葉に合わせてウェルツは攻撃を開始する。ここにはユウナもルベンもいない。(そばにいないだけで、近くには居るのだが)


 つまり、孤独での戦いだ。ユウナはうまくやれてるのだろうかと心配するが、まずはこっちの心配だ。敵が向かってきている。


「はあ!」


 別にここでは力をセーブしておく必要もない、剣に炎を纏い、向かってくる兵士たちを丁寧に一人ずつ切っていく。


「どがーん!」


 次の瞬間巨大な炎の球が目の前に落ちた。


「ユウナのやつめ」


 ウェルツはそう呟く。こんなでかい球を作れるのはユウナしかいない。完成体の魔力量から考えたらこうできるのも不思議なことでもない。


 そして看守はユウナの攻撃で開いた隙を狙って敵軍の中にどんどんとどんどんと侵入していく。


(しかし、敵が多いな)


 とウェルツは思った。無理もないであろう。ここは戦場の主戦場のうちの一つ、今までの戦場とはまるで違うのだ。


 だがいい点もある。魔法攻撃というのはそこまでコントロールよく放てないものだ。だから今前線にいる今滅多に攻撃が来ないのだ。


「うおお!」

「邪魔だ」


 ウェルツはどんどんと敵を倒していく。


「これは……」


 味方の魔法が一斉に飛んでくる。


「確かに進み過ぎたな」


 ウェルツはそう呟き、魔法から逃げるようにして自陣に戻っていった。


 自陣に戻ってしまえばあとは暇になる。後衛に下がるということだから。また攻めてもいいのだが、それでは体力が持ちそうにない。もともとランクを上げるためとはいえウェルツはこの戦争に参加するのはどちらかと言えば否定的だったし。


 そしてウェルツが少し下がっている間も味方の軍は進んでいった。破竹の勢いだ。はたから見ると、明らかにこちらの方が優勢だ。これだったらあまり戦いに参加しなくても勝てるな。そうウェルツが胸をなでおろした。まさにその瞬間だった。前衛が雷で全滅したのは。


(これは、恐ろしいやつが敵にいるな)


 さすがにこの威力の雷、場所の正確さ。それだけでも放った術者がとんでもない実力だというのはうかがえる。

 総合力で言えばユウナよりもだいぶ格上になる。


「みんないったん引け―!」


 軍隊長が言った。そのまま硬直状態をキープして一日目は終わった。


「ウェルツさーん、ただいまー!」


 ユウナがウェルツにハグをしようとする。それをウェルツは横に軽く動いて避け、ユウナは虚無の空間に手を伸ばすこととなった。


「なんでよ!?」

「……いや、急だったから」


そしてユウナはそれを聞いてそっとウェルツの背中に手をやって、「寂しかったんだよ」と言って抱き着く。


「たったの六時間とかだろ」

「でも寂しかったんだもん」

「それでそっちはどうだった?」

「暇だった、そっちの戦いに加わってもいい?」

「だめだ。指揮官の命令には従いなさい」

「はーい……ところでウェルツさんはどうだったの?」

「俺は、そこそこやってたよ」

「ねえやっぱりまた戦いに加わってもいい? ウェルツさんのことが心配だし」

「俺は死なん。安心しろ」


 そう言ってウェルツはユウナの頭をなでる。


「うん!」



 そして翌日……


「着ちゃった」


 ユウナは前線に来た。魔法部隊ではなくまさに前衛に。


「お前何をやっているんだ。戻るんだ」

「大丈夫だよ。私だって戦えるよ」


 ユウナはそう言って炎で剣を作る。それはウェルツの持っているそれよりもはるかに質のいい炎で、かなりの切れ味だろうことは見るだけでわかる。


「別にこれで相手の剣をたたききったらいいんでしょ?」

「お前簡単に言うけどな。ここは前の戦場とは違うんだ。そこらへんから剣が振り下ろされるんだぞ。帰れ」


確かに剣は他の剣士たちよりもいいかもしれないが、ユウナの剣は初心者そのもののはずだ。何しろ、剣の特訓をほとんどしてないのだ。


「もう帰れないよ。もう人が多いもん」

「あーもう!」


 ウェルツはいらいらとする。自分の使命はユウナを守ること。だが、いま彼女が危険な状況にいる。いや! とウェルツは頬をたたく。自分がやることは変わっていない、そうじゃないかと。

ユウナを守る。それだけだ。それだけを考えればいいのだ。


「突撃ー!」


 そして今日も戦闘が始まる。


「ねえこれどうしたらいいの?」


 ユウナはあまりにもたくさん人の突撃に慌てていた。これではすぐにやられてしまう。何とかしないと。


「俺の後ろにいろ!」

「はい!」


 そしてユウナはウェルツの後ろに行き、ウェルツが戦う。炎の剣でばっさばっさと敵を斬りながら。

そしてユウナはそのウェルツを守るために魔法攻撃で斬り残した敵をやっつけていく。


「えい!」


そして、ユウナは空に炎の球を浮かしぶつけ、気を取り直したユウナはウェルツの横に立ち、目の前の敵を炎の剣で斬る。忘れていたがユウナには完成体補正で筋力があるのだ。これなら大丈夫であろうと、目の前の敵に集中する。


「私思ったよりいけるよ!」

「そうか、でも気をつけろよ」

「はーい」


 とユウナは元気よく返事をする。


「うおおおお!」


 二人の剣士は両人とも敵をきっていく。


「はあ!」


 と、ユウナは巨大な炎の球を作り、敵陣へとぶつける。そりゃあ敵の近くにいた方が命中精度は上がる。よって一寸の隙無く、敵陣の最も重要っぽい所にぶつかった。


「さすがはユウナだ」


 ウェルツはユウナを褒める。確かに魔法陣営にいるとこんなに制度のいい魔法は打てない。ウェルツがそんなことを考えていると、


「戦いに集中してよ! ウェルツさん!」


その声が聞こえ、「分かったよ」と言ってウェルツは戦闘に気持ちを集中させる。


 ただ一つ、ウェルツはユウナをたくましいなと思った。


 二人が敵を斬っていって少し経った頃……


「よう! 調子良さそうだなあ、俺と勝負してくれよ」


 ユウナと看守が多人数を殺し過ぎたのか、部隊長クラスの人が来た、来てしまった。


(まずいな、ここでこいつが来るか)


 そうこいつは部隊長クラスの敵で最強レベルの敵、つまり、側近を除けば一番強い敵ということになる。


 ユウナは直感で不味いなと思った。完成体であるユウナにとってはわかる。こいつは強いと。


「看守さん」

「ああ、油断はするな。こいつは強いぞ」


 そして二人は剣を構える。


「行くぞおおおおああ!」


 と、敵の部隊長メルセスは向かってくる。

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