第27話 新たな戦場

 そして戦いの詳細を聞いたのち、


「すごいなうちの副総隊長は」


 そうウェルツが言った。


「だったら結構有利になったということ?」

「まあな、そりゃあ敵の二番目に強い敵を討ったんだからな」

「そうなんだ。なら勝つじゃん」

「とは言えないな、次の戦場にいるラドルスもいるし、総隊長マンゴラスもいる。まだまだこれからだ」


 そう、ルベンが言う。実際まだまだ敵はいるし、剣聖が一つの潜像で勝ったとはいえ、その影響で剣聖軍もすぐには別の戦場には参加が出来ない。そのことを考えると、まだまだ予断を許さない局面だ。


「そう。もうそろそろ戦争飽きたな」

「戦争飽きたっておい」


 ウェルツはツッコむ。戦争とはそんな簡単なものではないし、そもそも人の生死がかかわるような戦場に飽きるとはどういう事だ。そうウェルツは思った。


「まあね」

「と、そろそろか」


 ルベンが口を開く。次の戦場へと向かう準備が出来たのだ。


「行くぞ!」

「おー!」


 それに対し、ユウナは元気よく声を上げる。そして移動を始める。



「ここが次の戦場ね」

「そうだな、ここは結構大きな戦場だ。単独行動は慎めよ」


 そう、ここは今までの地味地味とした小さな戦場ではない。敵の三番目に強い実力者、ラドルスがいるのだ。今までの戦場と一緒にしたら火傷することになる。


「はーい」


 そして、「魔法を使えるものは魔導士部隊に入ってほしいそうだ。魔法使いはここに集まってくれ」という声がした。


「ほら、行ってこい」


 そう言うウェルツに対し、ユウナは苦い顔をしながら「なんでよ、私別に自衛の手段ぐらいあるし」と言った。


「それは知っているが、今は従うんだ」

「はーい、分かりましたよーと」


 そしてユウナは魔導士部隊に行こうとする……その前に。


「ウェルツさん死なないでね」

「ああ」


 ユウナにとってウェルツはずっといた仲間であり、家族でもある。そんな彼と離れることに不安を感じると同時に、ウェルツの身を案じる。ウェルツはユウナみたいな完成体候補じゃない。だからこそ、出来ることには限界もある。

 そんな彼を守ることが出来ないことにユウナは歯がゆさを感じる。



「さてとここが今からの私の城ね」


 そしてユウナは不安を押し殺すようにそう言ったが、知り合いがいないので誰もそれには返してくれない。だが、誰も返してくれなくてもいい。独り言なんだから。


「はーウェルツさんがいたらなー」


 だが、無いものねだりしていてもしょうがないところだ。腹をくくるしかない。


「しかし暇だろうなー」


 主戦場にいないで、指揮官に従って魔法を打つだけの仕事、こんなにも面白くないことはない。死のリスクが低いというメリットはあるが、それだけだ。


 元々ユウナが戦争に参加した理由はランクを上げて組織を壊滅させるための依頼を受けたかったのも理由の一つだが、それだけではもちろんない。楽しみたい、それももう一つの理由だったのだ。

 それは完成体の本能なのかもしれない。本来ユウナは戦闘ジャンキーじゃなのだから。


「でも考えていたって仕方ないか」


 そう言って、腕を天に向かって伸ばして体をほぐす。




「ここからの流れを説明する」


 みんな一斉に指揮官のほうへ目をやる。今から説明が始まるのだ。


「これから炎魔法装填と言ったら炎魔法を私が指揮した方角に目指して発射してほしい。水魔法と言ったときも同様だ。ただばらばらに放てと言ったらバラバラに好きなように放て、詳しいことはおいおい説明する。まずはそれだけ理解してほしい」

「はーい」


 と大声で返事する。


「誰だお前は、そんなに大声で返事をしなくてもよいのだが」

「あ、ごめんなさい」

「子どもか……なぜここにいる」

「戦うからです」


 事実ユウナは戦うために来ている。


「そうか、私語は慎めよ」

「はい!」

「とはいえ説明することはほぼこれっで終わりだ。あと一五分後に我が軍は敵の本軍とぶつかり合う。それまで精神力を高めるのでもよし、親睦を深めるのでもよし、祈るでもよしだ」


(はーい)


 今度はユウナは心で呟くにとどめておいた。怒られるのは嫌だ。


「ねえ、頭なでていい?」

「あ、いいですよ」


 急に言われてユウナはなんで? と思ったがなでられること自体は好きなのでおとなしく頭を貸した。


「かわいい」

「え? かわいい」


 そう言われた経験などほとんどない。何しろ親がいないのだ。かと言って看守がそんな気が利く人でもない。なので言われたとたんうれしい感情があふれた。


「うんかわいいよ。なんでここに来たの?」

「復讐するためです」

「戦場にいるの?」

「いや、この戦争でランクを上げてそれからみたいな感じ」

「手柄ってことね」

「うん!」


 魔導士部隊は女性の方が多い、これは生まれつきの性質によるものだ。男性は筋力がつきやすい代わりに魔力が少なく生まれる。別に男性だからとはいえ魔法が使えないわけではないが、それでも女性には劣るというわけだ。


「私はねユウナちゃん」

「うん」


 ユウナは相槌を打つ。


「怖いの」

「怖い?」

「もし戦争に負けたらどうなるかって思って」

「大丈夫だよ。きっと。負けないよ」

「そうだよね」

「皆の者。そろそろ突撃に入る。魔法の準備をしておけ」

「は!」


 そしてみんな魔法の準備をする。



「放てー!」


 その指揮官の言葉に合わせて、突撃場所の少し後ろに向かって魔法を連発する。


「いけー!」


 そんな中ユウナは叫んだ瞬間みんながユウナの方向を見た。声が大きかったから、それもあるが、それが本当の理由ではない、デカかったからだ、他の誰よりも。


 ユウナが作り出した火球は横幅一〇メートル縦幅七メートルの大きさになった。このデカさだと多数の敵を殺せる。


 ユウナは早速それを放った。他のみんなとはワンテンポ遅く。


 その威力は絶大であった。敵の前線の兵士が多数死亡したからだ。それに乗じて味方の兵士が突撃する。当然敵の魔導士も魔法をぶつけるわけだが……前哨戦の魔法の撃ち合いは味方の方の勝ちのようだ。


「ハアハア」


 そんな中ユウナは疲れていた。無理もないだろう。あんなに大きい球を作ったんだ、疲れていなくては不公平だ。それに、ユウナはここ数日魔法をかなり頻繁に使っていた。体力自体が擦切っていっていたのだ。


「もう少し体力あると思ってたんだけどなー」


 そう言って、周りのみんなが魔法を打っているのを横目に少し三角座りをした。ここは学校でも無くては、会社でもない、休んでても文句は言えないだろう。


「疲れたら休め、その間体力あるものは打ち続けろ」

「は!」


 その指揮官の声と契機に休む人が出てきた。魔力の総量なんて人によるものなのだ。


「よし!」


 少し体力が回復したので、再びユウナは立ち上がる。


「大丈夫?」


 彼女が聞く。


「さっきは飛ばしすぎただけ。大丈夫!」


 そう言ってユウナは複数の炎球を作り上げ、ぶつける。


「すごいね」

「こんなの全然本気じゃないし」


 とか言いつつも満更ではない。


「えい!」


 と再び魔法を放つ。だが、つまらない。ただ魔法を放ってるだけだ。


「はあ、戦いたい」


 そう呟くも誰も聞こえていない。


「えい!」


 再び指揮官の命令通りに岩を作り出し発射する。これで敵の兵士はやられてるのかもしれないが、ユウナにはその実感がない。つまり貢献しているという感じがしないのだ。

 前の二つの戦場みたいに明らかに活躍! みたいな感じでやれるのならば良いのだが。


「えい!」

「えい!」

「えい!」

「えい!」


 何度も魔法を放つが、所詮放つだけだ。日本の子どもが漢字の書き写しが嫌いなのと同じ理由だろう。魔法を放つのは単純作業なのだ。

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