第26話 ヒョウギリ2
数十分前
アトランタが猛進していた時。
「ラトス」
「なんです?」
「そろそろ出番になりそうだ」
「……」
「今、一つの部隊が猛進している。お前はそこに行け」
「援護という意味ですか?」
「ああ。だが、その戦場は激しくなるだろう。気を見て私が助けに入ろう」
「わかりました」
そして今。
「はあ!」
剣聖は二つの剣に対して一つの剣で捌く。ヒョウギリが氷の剣で斬りに行くが、それを剣聖は全て受け止めていく。
「二つの剣を一つの剣で捌くか」
ヒョウギリは氷の礫を複数生み出し、ぶつけようとする。それに合わせて、剣聖も複数の剣を
生み出し、全て氷の剣にぶつけにいく。そして、剣聖自らも、剣で、ヒョウギリの首を斬ろうとし、ヒョウギリはそれを間一髪で受け止めた。
剣聖とヒョウギリの剣が数回ぶつかり合い、カティンという音が数回なり、そして二人は再び距離を取る。
そして、剣聖は周りにいた兵士を斬り、そのままの勢いで空に向かって飛び跳ねて、剣をヒョウギリに向け、斜めに斬り込もうとする。
「させるか!」
ヒョウギリはその攻撃に向かって氷の礫を数発発射する。
「ふん!」
剣聖はその礫を剣で斬る。
「もらったー!」
ヒョウギリは礫で軌道を逸らした剣を避けるように剣を突き出す。剣聖をシンプルに刺し殺すために。今のまま行けば剣聖の剣が届く前に、ヒョウギリの剣が先に剣聖の命を刈り取る。
だが、それは剣聖にとってもちろん分かっていた。
彼はすぐに剣を左手に持ち替えて、ヒョウギリの剣に合わせて、剣で受ける。
ヒョウギリは剣を弾かれたのを見て、少し距離を取る。
「なるほどなあ、流石剣聖と呼ばれることはある」
「お褒めに預かれて結構。だが、手を緩める気は無い」
「気が合うな。こちらもだ」
その会話が終わるや否や、剣聖は再び斬りかかる。
「ふん!」
ヒョウギリはその剣を受け、今度は地面から氷を突き出す。
それに対し、剣聖は魔法生み出した剣を足場にして、その氷から逃げる。
「まだまだ!」
ヒョウギリはその氷を複数方向に伸ばし、剣聖を追うが、剣聖は剣で氷を切り取り、再び剣を踏み台にしてさらに上へと飛ぶ。
そして、ある程度の高度まで至った後、空高くからヒョウギリに真っ直ぐに斬りかかろうとする。
「そんな単調な攻めで俺が攻略出来ると思うな!」
ヒョウギリは氷の槍を剣聖方面に放つ。剣聖をしとめるために。
実際、空にいる人は身動きがとりにくい。そのため、ヒョウギリの行動は合理的と言える。だが、もちろん剣聖はそんなことを分からずに空へと移動したわけではない。
「はあ!」
彼は数発の剣を生み出し、その剣の刃を瞬時になくし、ただの板とした後、それを自身にぶつけて自分の落ちる方向を変えて別方向から斬りかかろうとする。その氷の槍の届かない場所へ。
それに対してヒョウギリは氷の槍を変形させ、それをくねくねと剣聖方向に動かせた。
剣聖を追うようにして。
「ふん!」
剣聖は創造した剣に炎を纏わせ、その剣で氷を溶かしながら切る。
「はあ!」
ヒョウギリは剣を向ける。剣聖の剣を受けるようにと。
「ふん!」
剣がぶつかる。剣聖は体を地に落とし、斬りかかりに行くが、ヒョウギリは地面から氷を生み出し、壁を作る。
剣聖はそれをよけながら走り、再びヒョウギリに斬りかかると同時に、空に炎を生み出し、ヒョウギリの動きをけん制をしにかかる。
と、そこに雨が降り出してくる。と同時に炎の火力が弱まった。
「残念だったな」
ヒョウギリはその光景を見てそう呟く。
「そうだな」
剣聖はそう返す。
そして剣聖は炎剣を閉じ、その代わりにしっかりとした刃のついた剣を生み出し、ヒョウギリもそれを見て氷の剣を生み出す。
そして二人の剣士は再び激突すると同時に剣もぶつかり合う。
剣聖はまず上に飛び、氷の剣を全部自分の剣で叩き割り、空に浮かしていた剣でヒョウギリを狙う。
「くう!」
だが、ヒョウギリもヒョウギリで執拗に粘り、次の氷剣を製造しようとする。だが、
「終わりだ」
剣聖がそう言って剣を手放した瞬間雷が落ち、剣聖が製造した剣を伝ってヒョウギリの剣に雷が落ちる。しかし、ヒョウギリもヒョウギリで、剣に雷が伝わる前に、剣を手放した。
それにより、ヒョウギリの体にまで雷が伝うことはなかった。だが、その瞬間ヒョウギリには隙が生まれた。その瞬間を狙って、剣聖は自分が投げた剣を取り、そのままヒョウギリに振り落とした。その一撃でヒョウギリの右腕は落とされた。
「……くそ、まだだああああ」
そう言ってヒョウギリは再び剣を製造しようとするが、その前に製造が完了していた剣聖の剣によってすべて叩き落され、氷の槍で剣聖をしたから串刺しにしようとしても、それは全て剣で斬られた。
そう、もうヒョウギリが取る手は、全て剣聖が手に取るように分かるようになっているのだ。
ヒョウギリが悪い訳ではない。ヒョウギリの体から大分血は抜け出ており、もう思考する能力が無くなってしまって、攻めが単調になっているのだ。
「こんなはずがああ」
「悪いな」
そう言って、剣聖はヒョウギリの首を切る。
「ヒョウギリの首はとった! この戦場は私たちの勝ちだ」
そしてそう宣誓した。
その声により、味方の兵士は完成を上げ、敵の兵士たちはみな膝から崩れ落ちる。戦意消失したのだ。
ヒョウギリは国王の息子として英才教育を受けてきた。 彼には元々王位継承権一位の優秀な兄がおり、その兄を支える剣となると誓ったのだ。
彼がそう決意するとすぐに戦争が始まった。
当然ヒョウギリは自分の国を守るためにそこへと向かった。
その戦場で、ヒョウギリは早速名のある将を倒し、その実力を周りに知らしめた。そこからは連戦連勝で、その名前は国内だけではなく、国外にまで伝わり、ヒョウギリという名前は、周りの国では恐怖の対象となっていった。
彼は正直気分が良かった。自分の力で国を守れていると。
そして、ホーランド包囲戦では彼を若くして隊長クラスへとのしあがらせるほどの活躍をしてみせた。
周りの人たちはそれを見て思った。ヒョウギリ様こそが後の総隊長になる男だと。
今、そんな彼が敗れた。
兵士たちはすぐさま退却し、その土地は剣聖軍が陣取ることになった。
その情報はすぐにいくつかの場所は伝わった。
「ふむ、そうか……」
その情報を聞いた一人、マンゴラスは嘆き悲しんだ。実のところヒョウギリはマンゴラスの弟子だった。そんな彼が討ち取られて、平気で入れるわけではない。
だが、今は戦争中だ。彼は泣くのをやめ、指示に専念した。
それはマンゴラスの軍だけじゃない。別の戦場でも同じ様な声はあった。
優秀な若い兵士を失った。それは多くの兵士にショックを与えるのに十分だった。
だが、一方イングリティア軍では多くの兵士が歓声をあげた。これでこの戦争は半分もらった様なものだと。
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