第25話 ヒョウギリ

 およそ十分前。


「さてとラトス様が引き付けている間に行くぞ!」


 そう言ってアトランタたちは進む。


「どけえええええ!」


 彼はその片手しかない手で敵を切り裂いていく。


「次、かかってこい!!!!」


 アトランタは前に立ち塞がる敵も次々と切り裂いていく。斬り殺しては進み、斬り殺しては進みといった感じで。


「アトランタ様凄まじいな……」

「ああ……」


 そうアトランタの部下が呟く。


「集中しろ!」


 ケルミネが叫ぶ。その次の瞬間部下が二名切り裂かれた。先程呟いていた部下たちだ。


「馬鹿か。クソ!」


 アトランタは後ろを振り返り、叫ぶ。だが、前の敵が見えるとすぐに前に顔を戻し、


「うおりゃあ! お前らもう少しだ! 気を抜くなよ」


 そう言って、どんどんと、先へと進む。

 もう気がつけば部下の数はもう四分の一、いや六分の一くらいになっている。


 つまりもう四千人は死んでしまっている。彼はその犠牲に報いなければならない。魔導士部隊を壊滅させなければならない。


「うおおおおお! 次だああああああああああ!」


 アトランタはどんどんと殺していく。


 そして、ついに魔導士部隊のところに辿り着く。


「え?」

「どけえええええ!」


 そしてアトランタは魔導士を数人ずつ、残酷に斬り殺していき、アトランタが通った道に死体の道ができる。


 その修羅の勢いのアトランタに殺されぬように魔導士たちは逃げていく。


(え? 私どうなってしまうの)


 一人の魔導士は心の中で考える。


(私、ここだったら安全と思ってたのに、まさかこんななすすべなく前衛がやられるなんて。逃げられるわけがない)


 実際、後衛なんて、兵士たちに守ってもらえる。そう考えるものだ。だが、その守ってくれるはずの兵士がどんどんと殺されている。もはやどうしようもない。


「やめて、来ないで!」


 彼女は叫ぶ。もうそこまでアトランタが来ているのだ。


「あう」


 だが、アトランタに斬り殺される前に、

 彼女は踏まれてしまった。

 逃げ惑う魔導士たちに踏まれ、彼女は今命を落とした。敵の魔法では無く、敵の剣では無く、味方の足によって。


 彼女だけじゃない、そんな魔導士が何人もいるのだ。


「隊長!」

「ああ」


 アトランタはその残状を目に写す。


「この状況にしたのは俺たちだ。それを忘れるな」


 そう部下に告げる。敵とはいえ皆人間なのだ。


「誰だ、こんな状況にしたのは」


 そこに立っていたのは青髪の目がバッチリとした、所謂イケメンであった。


「おい、あの青髪って」

「ああ、ヒョウギリだ」


 まさか敵の隊長が出てくるなんてと息を呑んだ。

 アトランタとって勝てる可能性はゼロに近かった。元々ここに攻め入った時点で死は覚悟していた。だが、


「俺だああああああ。このアトランタがやった!」


 ケルミネは潔く名乗りをあげた。これでもし彼が死んでも、歴史に名は残るだろう。


「覚悟しろ」

「来い!」


 アトランタはヒョウギリに一騎打ちを仕掛けた。彼はこれが最期の一騎討ちと捉えている。


 結果はすぐに終わった。アトランタの負けである。


 そして地面に這いつくばるアトランタを、ヒョウギリは剣を振ってトドメを刺そうとする。


「こいつを殺させるわけにはいかない」


 そう言って乱入したラトスは剣でその攻撃を防ぐ。


「邪魔をするな!」

「邪魔は当然するぜ。 行くぞ!!!」


 そしてラトスとヒョウギリの一騎打ちが始まった。


「ファイヤー」


 まずラトスが炎球を数発製造し、ヒョウギリにぶつける。


「アイスシールド!」


 ヒョウギリはすぐさま氷の盾を製造し、炎を受け止め、斬り返しとばかりに、すぐさま剣でラトスに斬りかかろうとし、


「ふん!」


 ラトスはそれを受け止める。


「はあ!」


 ラトスはヒョウギリの背中の方に炎球を作り、ぶつけようとするが、再び氷の盾に塞がれた。


(あの氷の盾をなんとかせねばな)


 ラトスはそう、考える。


「ふん」


 二人は数秒剣を打ち合う。


「はあ!」


 するとラトスは炎の壁を製造し、ヒョウギリにぶつけようとする。


「くだらん」


 ヒョウギリはそう吐き捨てる。そして氷の剣を空中に創造し、それで思い切り切る。そして炎の壁は真っ二つになり。


「ふん」


 そこ氷の剣を自分の近くに持ってくる。


「なるほど、実質二刀流という訳か」

「そうだ!」


 そして二本の剣で襲いかかってくる。


「なら俺はこれだ」


 ラトス周りに炎の球が複数個できる。


「なるほど」

「うおおおおお」


 すぐさまラトスは斬りかかろうとする。


「ふん」


 ヒョウギリは剣で受け止め、氷の剣でラトスを打とうとする。だが、ラトスは炎玉を操作し、氷の剣を食い止める。


「何?」


 ヒョウギリの剣が伸び、ラトスの肩を貫いた。


(なるほど、そういう事かよ)


 ラトスはその場で倒れこむ。


「終わりにしよう」


 ヒョウギリが剣を振り落とそうとした。


「ふん!」

「なるほど、貴様が来たか。剣聖!」


 そう、そこにいたのは、剣聖だった。


「間に合ったか」

「ギリギリだぜ」


 数十分前


 アトランタが猛進していた時。


「ラトス」

「なんです?」

「そろそろ出番になりそうだ」

「……」

「今、一つの部隊が猛進している。お前はそこに行け」

「援護という意味ですか?」

「ああ。だが、その戦場は激しくなるだろう。気を見て私が助けに入ろう」

「わかりました」


 そんな会話があった。

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