第23話 ケルミネ

 

「なるほど、この先にヒュウギリがいるんだな」


 剣聖は部下に聞く。


「ええ、たしかにそのはずです」


 ヒョウギリは、敵の副隊長である。彼は十二の時から軍の一員として戦って、子供ながらに戦いで活躍していったのだ。


 その活躍は大人にも引けを取らなかった。その快進撃はすぐに軍の上昇部に伝わり、親が国王であったこともあり、二十一歳という若さで軍の副隊長になった。その強さはただの剣の強さだけではない。その剣とその氷属性の力。その力で勝ってきたと言ってもいいだろう。


 今までに彼が負けたことはなく、まさしく、最強格の一人と言ってもいいだろう。かの国では彼のことはこういわれている、才能に愛されし奇跡の人と。


「そういう事であれば、苦戦は間違いないだろうな」

「ええ」

「苦戦? 剣聖ならそんなもんしないでしょ」

「私とて、ただの人間だ。それには限界がある。絶対は言い切れないさ」

「まあしかし、俺にとっちゃ剣聖にケンカを売って勝てる人がいるとは思えんけどな」

「まあ、今まで図ってきた。だが、彼とは一回も戦ったことがない。結果はわからんさ。行くぞ」


 そして剣聖ハールンクラインは出撃した。


「ヒョウギリ様、剣聖が率いる軍が向かってきます」

「あわてるな。俺は誰だ?」

「奇跡の人です」

「そうだ。何も恐れるにたることはない。俺、いや俺たちは強い。大手柄を取って俺を総隊長にしてくれ!」

「うおおおおおおおお」


 軍がわく。軍の力、それは軍の勢いに現れる。俺たちの軍は強い、俺たちの軍は最強だ、俺たちが負けるわけがない。そう思うことで軍は強くなれる。


 そう、勢いとは自信だ。自信があるからこそ強い。そのことはヒュウギリにとって好都合である。彼には無敗という自負と奇跡の人という二つ名がある。それこそが軍を最強たらしめているのだ。


「いくぞ!」


 ヒュウギリは剣聖軍に向かっていく。


「剣聖の名のもとにすすめ!」


 剣聖の軍も向っていき、両軍はその中心で向かい合う。


「うおおおおお」

「うおおおおお」


 両軍は剣をぶつけ合う。それだけではない、魔導士は魔法を打ち始める。その魔法をうまく受けれたら生存し、受け止められなければ死ぬ。戦場は魔法技術の発展により姿を変えたのだ。


「ファイヤーブレス」


 そうした中ヒュウギリ軍の魔導士の一人が呪文を唱えた。すると、魔導士の姿が竜に変わり炎を吐き始めた。それを後衛にいた魔法使いが「ファイヤーボール」と唱えぶつける。結果は相打ちとなり、呪文は不発した。そう、このような魔法のぶつかり合いがいつ起きるのかわからない、そんな極限状態で戦う。それが現代の戦争だ。


 戦場は均衡が続いている。なかなか情勢が変わらない。ただ大事なのは将だけではない、その間の軍隊長それも大事なのだ。


「うおお!」


 剣聖側の軍隊長のランドケル。彼は御年四十八歳のベテランの兵士である。


 今まで目立った活躍はないが、その実力が認められ軍隊長にまで上り詰めたのだ。


 彼は、その研ぎ澄まされた剣技で敵をガンガン切り刻んでいく。一人斬ると次の敵を斬り、その敵を殺すとまた次といったようにだ。


 今彼の脳内にはどのように敵を斬るかしかない。もう老いが始まっている体。戦えなくなっては生きている価値がないのだ。あくまでも戦争で手柄を得なければ、金は入ってこないのだ。


「ふん」


 どんどんとまたまた切っていく。彼に続いてどんどん兵士が前にすすんでいく。だが、その快進撃を止めるのもまた軍隊長の仕事、今度はその快進撃にヒュウギリ軍の軍隊長、ケルミネが立ちふさがる。


「ふん」


 ケルミネが見事にランドケルの剣を受け止める。ケルミネはいわゆるパワータイプだ。


 彼はまだ若く、出世街道を歩んでいる最中だ。だが、彼自身、早くこの地位に来たが、その後なかなか戦争で戦果を挙げられなかったことでイライラしていた。

 だが、そこで敵の軍隊長がやってきた。まずはこいつをしとめる。ケルミネは心の中でそう念じた。


「うおおお」


 力でゴリ押すケルミネの一方、ランドケルは相手の攻撃をいなし後ろに下がりながら、ケルミネを討つチャンスをうかがう。


 このような戦闘は、他のところでも起きていた。それぞれ戦果を上げるために、戦争を有利にするために、勝つために、それぞれの誇りをかけて戦ってた。

 だが、それを無にするものがある。それは魔導士の存在だ。


 魔導士の力は剣士よりも強大だ。タイマンで剣士に勝つのは難しい。だが、その力は上手く使えば、戦況を一人で変えることも可能だ。まさに先程のユウナみたいにだ。


「大魔法ファイヤーバーニング」


 そして巨大な火球が生み出され、火球が落とされる。また、剣聖軍の魔導士が魔法を放つも、完全に勢いを殺せなかった。


「バカな」


 そう言ってランドケルは魔法から退避しようとする。しかし、前衛に出てしまった今できることはほとんどない。


「皆、ひけー!」


 ランドケルは叫ぶ。だが、彼には分かっている。もう誰も助からないと。助かったとしてもそこに待っているのはケルミネの追撃だ。魔法から退避し、体勢が崩れた状態でケルミネを向かい打てるのか。


 いや、出来るわけがない。待つのは無慈悲な死しかない。まさか、剣で斬られるのではなく、魔法で死を迎えるとは。


 そしてランドケル以下前衛にいた兵士たちは炎に飲み込まれ死んでいった。


「たく、手助けなんていらないのにさ」


 ケルミネは呟く。このままゴリ押していったら勝てた、その自信があった。


 今の彼にとってはあの魔導士の炎は手柄を奪われた。そういう形になる。だが、残念がるのは今この瞬間ではない、追撃したらまた手柄を貰えるかもしれない、そう思い、ケルミネは攻め続ける。


「止めろー!」


 軍隊長の一人ラスカルが叫ぶ。ケルミネにこれ以上、上手く攻められるわけにはいかない。


「ふん」

「ぐああ」


 止めに入った兵士がどんどんとやられていく。


「軟弱者が!」


 ラスカルが止めに入る。


「ふん」

「おりゃあ」


 剣の戦いが始まる。


「ファイヤ!」


 そうケルミネが叫ぶ。


「ふん」


 ラスカルはその攻撃を首を傾けて避けた。そしてそのファイヤはその後続の兵士にあたり、命を奪った。


「なるほど、魔法もそこそこ使えるというわけか」

「呑気に解説してるんじゃねえよ!」


 ケルミネはそう言い放ち、怒涛の追撃をする。


「うおおおおおおおおおお」


 ケルミネは叫びながら斬りかかる。


「ふん」


 だが、ラスカルはそれに冷静に県を合わせて受ける。


「ち、めんどくせえな」


 ケルミネは舌打ちをする。


「そう焦るな」


 そう、ラスカルはケルミネを挑発する。


「あ!!」


 ケルミネは目に見えるようにキレる。


「オッケー。すぐに天国に送ってやるよ」

「やってみなさい」

「うおりゃあ」


 ケルミネは剣を振り回す。


「ふん」


 ラスカルはそれを受け、「うおおお」と言って、ケルミネは片手で火球を生成する。


「成程、その球を私に当てようというわけですか」

「そうだ!」

「まあいいでしょう、私に当てられるというものならあててみてください」


 そしてラスカルは攻撃のテンポ速める。


「ほい!」


 ラスカルは氷のつぶてを複数発射する。それを見てケルミネは腕に持っていた炎で氷を解かす。


「成程相性ですか」

「ああ」


 ここでラスカルは少考する。すでにケルミネの炎は大きくなっている。魔法に精通していないラスカルでは炎を消すというのは現実的ではない。そうなれば選択は一つ。ケルミネにあの炎を使わせる前にその息の根を止めることだ。


「うおおおおおおお!」

「なんだよあんた、あんたもあせってんじゃねえか。いいぜ、付き合ってやる」


 そして剣で受ける。


「うおおおお」


 ラスカルは依然として剣で切りに行く。


「うおおおおお!」

「おっさん。焦りすぎだよ」


 そしてラスカルはケルミネにあっさりと斬られる。


「さてと、次相手になるのはどいつだあああああああああ?」


 しかし誰も名乗りを上げない。


「なるほど、俺に勝てると思っている奴はいないってことか。なら俺から行くぞ!」


 ケルミネは向かっていく。


「うわあああ」

「どけええ雑魚どもおお」


 ケルミネは破竹の勢いで進んでいく。



「剣聖、俺が出ましょうか?」

「いや、いい。あんな雑魚にかまっている暇はない。もっと先を見据えて体力を温存するんだ」

「そうは言っても、うちの軍押されていますぜ。これを俺が出ないでどう止めろっていうんだ」

「やはり許可はできない。ここで待機だ。他の者も待機だ」

「はは」


 しかしラトスは少しだけ納得がいかなかった。そもそもラトスはフィジカルで勝負するタイプ、そんなに体力は使わないはずだ。しかし、剣聖の命令に背くわけにはいかない。

 剣聖には彼の考えがあるのだろう。そう思い、待機をした。

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