第21話 リンド3

 

(お母さん)


 リンドは脳裏に彼の母親の姿を思い浮かべた。彼の家は貧しかった。彼の父親は戦争に駆り出され、そして戦地で命を落とした。その後、彼の母親は必死で彼を育てた。女身一つでリンドを育てる傍ら、農作物を育てる。彼はその姿を見て、お金を稼いで母親を楽にさせたいと思うようになった。


 彼は、十二で軍に入った。家が貧乏で、周りより若い年齢で軍に入った彼は、周りから馬鹿にされることも多々あった。


 だが、彼はめげなかった。戦地で誰よりも戦果を挙げ、敵の有名な兵士の首を取ることもあった。


 だが、彼は周りから認められなかった。彼は所詮貧乏な農民出身。昇進していくのは彼を馬鹿にしてた有力な家出身の兵士ばかり。彼はそれが認められなかった。「なぜ、俺じゃなくてあいつらが!」と、怒りに狂う日もあった。

 だが、彼はそれでもあきらめなかった。彼は必死で敵兵の首を切って行った。だが、彼の名は有名になることもなく、目立った昇進をすることもなかった。


 その内、自分の功績をお偉いさんの子どもに取られているという事が発覚した。


 軍の上の方が、彼の情報を意図的に隠し、自分のお気に入りにリンドの功績が与えられていた。


 彼が訴えてもそれは無駄だった。何も変わる事は無かった。

 だが、彼は自分の国が好きだった。彼の国をあきらめたくなかった。その思いで必死に戦い続けた。

 そして、ようやく、小さな戦場とは言え、二番目の地位に上げられた。この戦争で勝てば、ついに認められると思った。だがその戦争で彼を待っていたのは強者ルベンだった。

 彼はルベンに首を斬られ、死んだ。愛する母親に再び会う事無く。





「これは手土産として持っておく」


 そうルベンが敵兵に向かって言い放った。


「ルベンさんかっこいい!」

「おいお前」


 ウェルツが止める間もなくユウナはルベンに抱き着く。


「飛びつかないでくれ、俺の体も結構ギリギリなんだ」

「そうなんだ」


 それを聞いて、ユウナは力を緩める。


「それよりもだ、お前たち降伏するか?」


 そう、敵の残党に向かってルベンが言った。


「いや、降伏しない」

「ならこれみたいになるけどいいのか?」


 ルベンはリンド髪の毛を持ってぶらぶらと首を持つ。


「ひいい」


 そして敵兵達は青い顔になり、戦意を焼失した。この瞬間、こちらの勝ちがほぼ確定した。





「マドリク様、リンドが、リンドが、討たれました」

「何だと、あのリンドがだと!?」


 そう驚きの表情を見せるマドリクに、伝令役は細かい経緯を伝える。

 そしてそれを聞いてマドリクが思ったことは一言でまとめると、想定外だということだ。まさかあのリンドが打たれようことがあるとはマドリクは全く思っていなかったのだ。

 リンドをここの戦場に呼んだのはマドリクだ。彼だけはリンドの実力を認めていた。その実力は自分よりもはるかに上だと。

 マドリクは、どちらかといえば、コネで昇格した方の人間だ。自分で自分の実力のなさは把握している。

 だからこそ、リンドの使い方が大事だと思っていた。

 そんな切り札が今破れた。もう負けは確定だろう。


「マドリク様、命令を出してください」

「あ、ああわかった」

「マドリク様! 前衛の兵士がみな降伏しました」

「なんだど!」

「ええ、聞いた話によると、ルベンがリンドの首を見せ降伏を狙ったようです」

「わかった、ただ降伏するわけにはいかない。一騎打ちだ!!!」


 大人しく負けてやるつもりはない。ここで粘れば国の為になる。


「マドリク、覚悟しろ」


 マドリクが外に出るとすぐにルベンにそう言われた。


「一騎打ちを申し込む」


 そう、ルベンに剣が向けられる。あのリンドを倒した相手に自分の剣が届くはずもないが、


「なるほど、だが俺はもう体が限界だ。こちらの少女に任せる」

「え?」


 ユウナにとってはそんな発言をされるとは全く思っていなかった。


「なんで?」


 自分より指揮官さんの方が適任な気がするのに。



「俺はお前があの時に出した力を知っている。その力を見込んで頼む」

「わかった」


「なめているのか?」


 そうマドリクが厳しい目で言う。

 そのころマドリクは内心焦っていた。まさか少女を当てられるとは思っていなかったのだ。これでは一騎打ちになどなりえない。もし彼女を倒したところで、相手の戦意を喪失させることなどできるはずもない。


「俺は舐めていない。今の俺の状態だと、一騎打ちなどできるはずがない。そちらのリンドとやらに大分斬られてしまったからなあ。どうするか? もし受け入れないなら俺たち全員でお前を襲うぞ」


 そうる番はニヤリとする。実のところ彼は知っていた。自分を除いてここで一番強いのは間違いなくユウナであると。


「どうした? お前はこんな少女一人すら倒せないような間抜けなのか?」

「っふざけるなあああ」


 そう逆上したマドリクは剣をふるってユウナに斬りかかる。


「えっと、えい!」


 そしてユウナは魔法で剣を作ってそれを受けた。


「これって魔法使っていいの?」

「ああ、いいぞ」

「分かった」


 そう言って、ユウナは魔法で空に多種多様の魔法を生み出し、それをマドリクにぶつけようとする。マドリクはそれを、横に移動して避けるが、それはユウナの計画通りだった。ユウナはその魔法の球を爆発させ、煙を生み出し、それでマドリクの目の前に行く。

 マドリクはユウナに気づき、ユウナを切り裂こうとするが、そのユウナはただの偽物だった。

 マドリクがあっけにとられる中、ユウナは背後からマドリクの首を取った。

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