第20話 リンド2

「ねえ、私に出来ることってあるかな?」


 そんなリンドとウェルツの激闘のさなか、ユウナはウェルツに訊く。


「魔法をぶつけて、あの長身の体勢を崩すくらいだな。だが、今は所謂一騎打ちって言うやつだ。そこに魔法をぶつけるっていうのは、野暮な行為になる可能性がある。敵の兵士が魔法をぶつけてないと言うことからもわかるだろう」


 ユウナはその言葉に対して頷いた。ユウナ自身そういうシーンを異世界情報で見てるのだ。そこにあった所謂漫画と言われるものにそういうシーンがあった。一騎打ちの中、そこに弓矢を放って、歴史的に悪役になった人が。

 だから、ウェルツの言ったことに対して、なるほどと思った。だが、何もできないで、歯痒さを感じないわけではない。


 何か行動に移さないといけない。ユウナはそう思った。


「じゃあ、今のうちに敵陣を攻撃することは?」

「それは指揮官の命令自体だな。今は何の命令も出ていない。だが、俺たちの身分を忘れるな、今は俺たちはまだEランクの冒険者なんだ。そんな人たちが単独行動して、どう思う。そもそも俺たちは援軍であり、正規軍ですらない。だから今はここで見ているこどかことが最善の策なんだ」

「はーい」


 ユウナは渋々納得をする。だが、今見ているだけでいられるわけがないというのは変わらない。


「ユウナ、焦る気持ちはわかるが、今は落ち着くんだ。魔力回復に務める。それだけでいいんだ」

「でも、今、こうしてルベンさんが戦ってるのに、私一人ただ休んでるだけってそんなのできないよ。私指揮官さんに聞いてみる」

「お、おい!」


 ウェルツが止める間もなく、ユウナは指揮官の元に走って行った。


「ねえ、私も手伝いに行っていい?」

「だめだ、一騎打ちに手を出してはいかん。見ているんだ」

「えー、だめー?」

「全く、子ども相手だと調子が狂うな。とりあえず行ったら命令違反として処罰するからな」

「じゃあ、今のうちに敵の本山攻めていい?」

「だめだ、まあ、その時になったら言うから」

「はーい」


 そう、ユウナの提言は流されるのであった。


「ダメだった!」

「だろうな」

「だろうなとか言わないでよ」

「当たり前だろ」

「じゃあ待つしかないのかー」

「ああ」





「うおおおおおお!」

「むう、埒があかんな。貴様は魔法を剣を覆うぐらいにしか使わないのか?」

「それはこちらのセリフだ」

「なら魔法を使おう」


 そしてリンドの周りに赤色の複数の魔法が浮かぶ。魔力で作られた弾丸だ。


「なるほどそうきたか」


 副支部長は青色の魔法を生み出す。


「ぶつけ合いといこうか」

「そうだな」


 魔法がバンバンとぶつかり合い、衝撃波を生み出す。


「うわあ!!!」


 周りの兵士たちは腕で顔を守る。衝撃波と砂煙が激しいのだ。だが、踏ん張り切れずに、吹き飛ぶ兵士もいる。


「それだけではないだろ、俺たちは武闘派とは言え、魔法にも精通しているはずだ」

「たしかに貴様の言うとおり、これが全力ではない」

「ならそれでこい!」

「ああ!」

「スモーク」


 そして周りは煙に覆われた。それにより、ルベンの視界は一時的に封じ込められた。


「なるほど」


 状況を理解したルベンはすぐさま風で煙を吹き飛ばし、目の前に来てた剣を剣で受け止める。


「スモーク」


 すぐさままたリンドは体から煙を出す。


「同じ手はきかんさ!」


 そう言って、風で煙を全てリンドの方に向ける。煙を使うならこちらが利用してやろうということだ。


「ふむ」


 だが、リンドの周りにバリアのようなものが貼られる。


「なるほどな、自分の放った攻撃を喰らうほど馬鹿ではないか」


 そしてリンドがルベンに斬りかかったことを契機に再び剣のぶつけ合いが始まる。


「うおおおおおお!」

「まったく叫ばないと貴様は剣も振れんのか」


 そう言って、リンドが剣に向けて全力で剣を振り下ろす。


「ふん」


 ルベンはそれを受ける。


 そして剣のぶつけ合いが続く、続く、続く、続く。


「だいぶ体があったまってきたな」


 リンドがそう、小声でつぶやく。


「何か言ったか?」

「いや、別に何も。ただそろそろ本気を出していいかなと言っただけだ」

「なんだ?」


 そして周りが重くなる。だが、そんな何十倍とかいう話ではなく、違和感があると感じ取れるレベルだ。だが、それによってルベンの動きは確実に遅く、鈍くなっている。


「成程、周りの重力を上げたのか」

「ああ、その通りだ。卑怯とは言わせないぞ」

「……卑怯とは言わない。こちらも似たような手を使うからな」

「そちらも隠しているのか」

「もう発動はしているがな」

「なんだと?」

「さあ、解放だ」


 そして周りの動きが遅くなる。


「そちらはそういう能力か」

「ああ、お前の動きを若干遅くした。お前は終わりだ」

「そちらもこの重力で動けるかな?」

「行くぞ!」


 そしてリンドは向かっていく。


「悪いな、こっちの勝ちだ」


 ルベンは剣を振り、リンドの攻撃を軽く受け流す。


「くらえ」


 さらに、剣をリンドの肩を突き刺す。


「何だと!?」

「お前の体はまだ自分の体が遅くなったことに対しての慣れができていないんだ。だから簡単な攻撃も食らってしまう。今の俺の遅くなった体でもな。お前が速い世界で剣をふるっていた分、遅い世界で剣をふるうことになれていないというわけだ。残念だったな」

「だが、まだ終わってはいない」


 そう言って、リンドは体勢を取り直し、ルベンに向かって剣を振る。ルベンもそれを受け、再び斬り合いが始まる。

 しかし、リンドの負った傷は深かった。


 それは一瞬だった。一瞬リンドは意識が飛んだ。だが、その一瞬がいけなかった。剣はリンドの目の前に来てしまっていた。リンドも何とか受けようとするが、間に合わず、肩から斜めにルベンによって斬られた。



(お母さん)


 リンドは死の刹那に脳裏に母親の姿を思い浮かべた。

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