第19話 リンド

「しかし、それにしても敵が多いな」


 ウェルツがぼやく。ルベンの突撃によって敵はだいぶ減って行ったが、それでもなかなか数は減っていない。何より。こちらが優勢であるのは変わらないが、それでも、時間はかかりそうだ。


「うん。多すぎるね。これ私の魔法で一掃できないかな?」

「お前はそんなに魔力がないだろ。温存するのが賢いやり方だ」

「うん……」


 そしてユウナは最低限の魔法で敵陣の敵を少しずつ倒していく。


「きりがないね」

「だな」


 こんな状況では、個人の力など塵芥に過ぎない。特にユウナの場合先ほどはあんなことを言ったのだが本気の魔法を使ってしまったら、敵味方問わずやっつけてしまう。

 戦争というものはほぼ初めての経験だが、ここまでの者とは思ってはいなかった。



 そして二人ははぐれてしまった。その戦果の中で。


 そしてユウナはウェルツと離れた場所で必死に戦う。


「はあ、はあ」


 この状況を一言で表すと、地獄だろう。こちらの陣形も完全に崩れ、どちらの軍も上手く指揮系統が取れていない。要するに混戦だ。看守は周りにいる敵を倒すので精いっぱいだし、ユウナも全力を出せない。ウェルツが来る前のもともとの指揮官は今敵に囲まれているようで、命令を出せるような状況ではない。


 そして、「ファイヤーボール!! 10連発!!!」


 と言って、炎の球を投げて、一人でも多くの敵を倒そうとするが、なかなか敵の数は減る傾向が見えない。

 ウェルツの方をふと、見るが、そこまでたどり着くことなどできそうには思えない。

 そんな中、ユウナはふと、ルベンの方を見る。あちらの方が交流が楽そうだと思った。

 そして、ユウナがそこへと向かおうとした、まさにその時、


「おい、聞こえるか」


 ルベンが大声で叫んだ。


「お前たち、そしてアランダ指揮官! 体勢を戻さないか。今の状況、確かに混戦となっていて、上手く支持は出せない。ただ、俺はこの譲許冷静な方が勝つと思う。だから敵には常に優位をもつように、戦略的に戦うんだ」


 そうルベンが言って、一旦味方同士で固まるように促す。


「うん! 分かった!」 


 ユウナはその声に対し大声で返す。


「というわけで、ウェルツさん加勢に行くぞー」


 そして、味方が大勢いるところに行こうとする。必死で魔力を存分に使いながら、ウェルツたち味方がいっぱいいるところに向かって。


 そして魔力が半分ほど無くなったところで、ようやくウェルツにたどり着いた。


「よし、私が来たぞ!」

「そんなことを言ってる暇はないんだ、さっさと手伝え」


 そうその場にいた兵士は文句を言う。


「ごめんなさーい」

「まあとりあえず、君は接近型? 遠距離型?」

「私は遠距離型だけど」

「分かった。上手く俺の攻撃の邪魔が来ないようにしてくれ」

「はーい」

「俺も手伝う」


 ウェルツが言う。ユウナが合流していたことに気づき、駆け寄ってきたのだった。


「分かった君も頼む。おい、他の人たちも剣士は魔法使いを守り、魔導士は剣士を守るんだ」

「おー」


「よーし、援護しちゃうよー」


 そしてユウナは大量の火の玉を生み出す。


「いっけー!」


 そして、数十名の敵の兵士を狙い、無事当てた。


「相変わらず恐ろしいやつだ」


 そうルベンは呟いた。いくらこっちが試験で本気を出していなかったとはいえ、俺相手に一瞬やられると思わせたのだ。これくらいはやってくれないと困る。


「さーて、次行くぞー」

「危ない!」


 そしてウェルツがユウナの前に行き、剣を振る。敵がもう直ぐ先に迫っていたのだ。


「ありがとう」

「良いからお前は魔法を放つことに集中しろ」

「はーい」


 そしてユウナの魔法によって敵はどんどんどんどんと倒れていく。


「もしかして、私って強い?」

「ああ、強い」

「恐るべき強さだ」


 アランダも頷く。


「うおおおおおお、この機だ、攻め落とせー!!!」


 ルベンが敵の側に突っ込んでいく。


「全くあの人は……全軍、進めー! 魔導士は突っ込みすぎるなよ!」


 アランダが、ルベンの勢いに合わせ指示を出す。


「はーい!」


 ユウナは叫ぶ。




「むう」


 敵の指揮官、マドラクは考え込む。最初こちらが優勢だと思っていた。このまま制圧できると思っていた。

 だが、敵に援軍三〇〇程度が参戦しただけで、ここまで追い込まれているのだ。

 戦争とは数ではないが、まさか三〇〇程度加わった程度でこちらの優勢が翻されるとは思っていなかった。

 あちらのルベンという男がこちらの想定よりも強かった。それだけだ。

 しかし勢いとは恐ろしいものだ、しかもほとんど一人の男が加わっただけなのに、敵全体が強くなっている気もする。


「私が行きましょうか?」


 そんな考え込むよううすを見せているマドラクに対してリンドという男が提言をした。


「ああ、頼む」


 リンドは、ただの農民から騎士団に入り、実力だけでここまで来た実力の持ち主だ。この国、アスティニア王国では貴族文化が盛んであり、コネクションこそが出世の第一歩なのだ。

 もちろん実力だけではないが、それでも貴族や、騎士、有力商人の子供が出世しやすい。

 このリンドも、もし貴族の子どもだったら今頃はマドラクを超えて、軍の総大将とまでは行かなくとも、大きな隊の隊長にはなれると思われる実力がある。その彼が今、動く。



「殲滅してきます」




「うおおおおおお、行けるぞ、行けるぞおおおおお」


 ルベンが率いる前衛の兵士が叫ぶ。勢いが勝ってる今、敵をガンガンと倒していけるのだ。そんな中、敵の本拠地の近くまで来た軍は「あと少しだ」「あと少しだ」と言いあって、最後の砦を破ろうとする。そんなときに、


「ふん!」


 身長百九十七センチメートルの銀髪の兵士が、こちらの前衛を人たちで薙ぎ払った。その剣には赤いオーラが纏われている。


「ねえ、あれって」


 ユウナがその姿を見てウェルツに訊く。


「知らん。ただ、強いやつということは確かだろう」


 そうウェルツは分析する。彼自体、組織の命令で強そうな奴らの情報は集めていた。だが、その情報網にかからなかった強者も少なからずいる。

 彼はその一人だろう。同然知らないから弱いというわけではない。ウェルツが見るにその雰囲気や、動き、さらに剣に覆われている魔力。


 只者では無い。


「来るぞ!」


 ルベンが叫ぶ、その声が前衛の兵士たちに届く前にリンドは数人の首を刎ねた。同然ここまで来た兵士だ。魔法の使い方にも慣れているはずだ。


 実際、体を常に魔力で覆っている。だが、それでもなんともならない実力差、そんなもので防ぎがれるのならがない。


「ふん、イングリティア国の兵士もこの程度か」


 リンドは首をゴキゴキと鳴らす。リンドは油断している。だが、そこに誰も踏み込めないでいる。踏み込めば、そこに待っているのは死だ。誰もそこに踏み込む勇気がない。


「俺が出る!」


 その状況の中、ルベンがそう言って剣を握りしめながら、リンドに向かって一歩ずつ歩いていく。そのルベンの姿をリンドはまっすぐと見つめる。もう、いつ戦いが起きてもおかしくない状況だ。

 そして先に仕掛けたのはルベンだった。地面を蹴って剣を振りかぶり、リンドに上から振り下ろす。


「ふん!」


 そして二人の剣はぶつかり合い、ガキンと音が鳴った。リンドの剣の赤いオーラと、ルベンの剣の青いオーラがぶつかり合う。


「とう!」


 再びぶつかり合う。その衝撃で空気が周りに軽く吹いた。その場にいた兵士は愚か、アランダやユウナやウェルツでさえその場には踏み込めない。


「うおおりゃああああ」


 そしてまたぶつかり合う。

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