第18話 戦争

 

「緊急自体だ!」


 翌日、ユウナとウェルツがギルドに入った途端、ルベンがそう言った。


「なんですか?」


 ウェルツは聞く。


「ついに、アスティニアがこの国に攻めてきた」

「なるほど」

「じゃあ、私の出番だね!!」


 そうユウナは張り切って言う。


「あと少しで第一弾の馬車が来るはずだ。それに乗って俺と一緒に戦場に向かってくれ」

「はい!!」


 ユウナは元気で言う。


「ユウナ、ちゃんとわかってるかは分からないが、戦争は恐ろしいものだ。それは分かってるな」

「分かってるよ。私は、別におままごとをやりにここにいる訳じゃないから」


 とたんにユウナの顔が真剣なものになる。


「それに……私は大丈夫。そんなもので絶望なんかしないよ」

「偉いぞ」


 そう、ウェルツがユウナの頭をなでる。それに対してユウナが「やめてよ」とは言うものの、うれしそうな顔をする。


 そんな中、ルベンが口を開く。


「俺は……お前たちの実力には一目置いている。お前たちは強い、だからこそ油断しないでほしい。油断してやられるなんてことはあってほしくない。君たちはこのギルドの未来なんだから」


「……分かってるよ。私は強いから絶対に死なない。それだけは約束するよ」

「お前生意気だぞ」

「いいじゃん」


 そのやり取りを見てルベンはよしと思った。ユウナ、彼女なら大丈夫だと。


 そして、ドアが開かれる。そこには若い兵士が入ってきた。青髪の年齢は二十台前半と言ったところか。



「迎えのものだ。ここに戦争に参加してくれる勇敢な若者はいるか?」

「はーい、ここにいまーす」


 と、ユウナが大声で言った。ウェルツは慌てて止めようとするが、


「む? 小さいな。本当に戦えるのか?」


 と、兵士が言った。


「戦えるよ。私魔力すごいからね」

「ほう、じゃあ期待してるよ」


 そしてルベンの号令と共にギルドで待機していた大勢の冒険家が馬車に乗った。その数およそ五〇にも及ぶ。

 そしてそれぞれの者が実力者なのだ。


「なんか楽しみだね」

「だからそんなこと言うな。今から向かうのは戦場だ。日に数百、数千の兵が死ぬようなところだぞ」

「大丈夫だよ。私死なないし」

「そうじゃなくてだなあ」


 看守はユウナのものの知らな加減にため息を吐いた。先程の話でウェルツもユウナを大丈夫だと思っているが、それでも、この感じのユウナを見ていると、心配になってくるのだ。


 だが、ユウナもその恐ろしさを知らないわけではない、あの夢で異世界の戦争をよく知っているのだ。塹、空襲、原子爆弾。その戦争の被害もあの時の夢でよく知っている。

 夢の中で戦争の様子がテレビの中に映っていたのだ。


 ユウナが今生きている世界、そこでも悲惨さが同じとは限らない。だが、ユウナは自分が死ぬなんて微塵も思っていない。ユウナ自身強いからだ。


「さてと」


 ユウナは床でゴロンとする。


「緊張感のないやつだな。お前は」

「仕方ないでしょ、私初経験なんだよ」

「それは俺もだ」


 まあ対人戦は複数回したことがあるがなと、ウェルツは心の中で付け加える。


「そう言えばルベンさんはどうなの?」

「俺か……確か八年前のホーランド包囲戦で戦争に参加してるな。たしかあの時はまだ弱かったから、食糧補給部隊に回っていたな」


 ホーランド包囲戦。それは八年前にアスティニア王国が隣国のネストランド王国に戦争を仕掛けた際にネストランド王国の同盟国であったこの国、イングリディア王国がアスティニア王国の商業地帯ホーランドを攻めた時のことだ。

 この国は地理的にホーランドの北南を取り囲む形であったためにそう言われる。

 戦争の結果としてはアスティニア王国の勝ちに終わり、ネストランド王国はその土地を半分以上も失い。さらに、この国もホーランド周辺の土地を少し失うこととなった。


「あの戦争って確かひどい戦場だったと聞いたが、よく生き残れましたね」

「ああ、後衛だったからな。幸い主戦場にはほとんど参加してない感じだ」

「そう言えばさ、ギルドのリーダーの人ってこの戦争には参加しないの?」

「ああ、あの人は組織をつぶす計画に参加している」

「そういうことね」


 ユウナは少しの沈黙をする。


「なにがそういう事ね、なんだ?」

「えーと、その依頼だったら別にいいかなって」

「お前も組織の被害を受けたのか?」

「うん、村が全焼して、その時に親が殺されちゃったの」


 それを聞いてウェルツは若干苦い顔をする。まさか自分がその犯人だというわけにはいかない。その顔を見てユウナは少しニヤリとする。ウェルツの良い顔が見れたと。


「そうかつらいことがあったんだな」

「ありがとう」


 そして一時間後。


「そろそろつくぞ!」


 と兵士が言った。



「ここが戦場……」


 ユウナはその光景を見て少し神妙な顔をする。そこには数百、数千の魔法がバンバンとうち放たれている。前に行こうとする兵士がいようものなら、魔法の集中攻撃をされて倒される。そのおかげで誰も進めなく、ただ魔法の打ち合いをしているだけという現状である。


「なるほど、この状況を俺たちに打破してほしいということか?」


 ルベンは訊いた。


「ええ、そういう事です」

「ではやってみよう」


 そう言ってルベンは走り出した。敵の魔法攻撃が盛んな場所へと。


「危ない!」


 ユウナはその光景を見て叫んだ。


「大丈夫だ。あの人はタフネスで有名だからな」

「でも」

「見とけ」



「うおおおおお!」


 副支部長は体に魔法で作ったオーラを纏い、正面突破に踏み切った。そのオーラがバリア代わりになって身に受ける攻撃の魔法の威力を下げてくれるのだ。


「うおおおお」


 そして、向かってくる攻撃など全くないかのように攻撃してくる。そしてついにルベンは魔法の主力部隊のもとへと行き、


「うわあああああああ」


 ルベンの剣の一振りで敵の陣営の魔法使い達が吹き飛んだ。


「いまだ、続けええええ」


 その戦場の指揮官がそう叫んだ。


「うおおお、あの人がいれば大丈夫だあああ」

「おう」


 そしてみな敵の陣営になだれ込む。ルベンが士気を挙げたのだ。


「ユウナ行くぞ」

「うん!」


 二人はその陣営の流れに続く。

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