第17話 ミコト2

 そして翌日、ユウナを置いて、ウェルツは一人でギルドへと向かった。ユウナがこれからも戦うのか戦わないのかは別としてもお金がいる。その事実は変わらない。



「ちょっといいか?」


 ギルドに行くと、ルベンから話しかけられた。


「あれ、もう一人はどうした?」

「今日は休ませました。疲れていたので」


 ルベンはそれを聞き、咳払いをして、


「お前たちが助けにいっあたと村のこと何だが」


 と、言い出した。


「どうしたんですか?」


 ウェルツが訊き返す。すると、


「あの村が壊滅したんだ」


 と、ルベンは真剣な顔で言った。村が壊滅した。その言葉がウェルツの表情を曇らせる。だが、ら弁は容赦することなく、話を続ける。


「組織だ。奴らが動き、あの村は壊滅した」


 ウェルツはそれを聴いてすぐに察した。あの村に完成体の原石なる子供がいたのかもしれないと。その時にウェルツは一人の少女のことを思い返した。あの時、ユウナが助けた少女、ミコトだ。

 確かになんでミコトが狙われていたかわからなかったが、完成体の素質があるとなれば別だ。


「誰かさらわれたんですか?」

「それはわからない」


 だが、もうウェルツはほぼ確信している。さらわれたのがミコトであることを。


「ちょっといいですか? ユウナを連れてきます」


 そう言って、ウェルツは宿へと走って戻って行った。


 そしてウェルツは、部屋でゴロゴロしているユウナに話しかける。


「少しだけいいか?」


 そう、真剣な顔で。

 ユウナがウェルツの方を向く。


「ユウナ、お前にとってはしんどい話かもしれない。けど、一ついいか?」

「う、うん」

「ユウナ……ミコトはおそらくさらわれた」


 それを聞いた途端、ミコトは手に持っていたおもちゃを手放した。


「あの後、組織があの村を襲撃したらしい。それによって村は壊滅した。全てはミコトをさらうためだ。そのために、そのためだけに、村は滅ぼされた。俺は知っている、奴らの手口を、奴らの槍口を。実際こんな形で滅ぼされた村を知っている。おそらくやつらは魔物での襲撃が失敗したから直接出向いたんだろう」

「……許せない。またあの悲劇を繰り返すの?」


 ユウナは震えながらそう言った。ユウナはその後おもちゃを強く握りしめてたことに気付き、力を緩める。


「おれの知っているあいつらはそういう奴らだ。昔の俺と同じで、道徳感情が欠如してる。俺はお前のおかげでそういう感情を取り戻したが、あいつらは違う。完全に洗脳されてるんだ」

「……私は……」

「昨日行った通りお前は戦わなくていい。ただ、お前に伝えないのもどうかと思っただけだ」

「私は戦いたく無い、戦いたい?」


 ユウナは頭を抱える。ユウナは自分の感情がもはやわからなくなっていた。

 真の完成体になるのは嫌だ、でも組織を許せない。そのチグハグな感情ががんじがらめとなり、彼女の思考を鈍らせる。


「変なことを言って悪かったな。忘れてくれ」


 ウェルツはそう言った。このことをユウナに伝えたことで、ユウナがパニックになってしまった。ウェルツはそんな程度のことで真の完成体になるとは思ってはいないが、もしもということもある。

そう言って、宿から再び出ようとしたときに、


「私だったらミコトちゃんを救える?」


ユウナがそうウェルツに訊いた。


「は?」

「私だったらミコトちゃんを救えると思うって訊いてるの」

「……」

「私は使命とか考えずにぐうたらして、自由に過ごしたい。でも、それだけじゃあだめなの。私は……私みたいな人をもう生み出したくない」

「……」

「だからさ、私やっぱり組織を滅ぼすよ。組織を滅ぼしてからぐうたらするよ」

「……ユウナはそれでもいいのか? その戦いの果てにお前の人格が消えても」

「……私はそんな話してない。私の人格を守って、組織を滅ぼす。それにまだそこまで行ってる人はいないんでしょ? じゃあ、大丈夫じゃない? 私はさ、頑張ってそんなものにならないように頑張る!!」


 そう言って、ユウナは、服を持ってきた。


「私出かけてくる。ギルドに」

「ああ」


 そしてユウナとウェルツはギルドへと向かった。


「君は休んでたんじゃないのか?」

「……休んでたけど、村のことを訊いたらいてもたってもいられなくて」


「来ちゃった」と言ってユウナは笑った。


「ただ、今は情報が少ない。今の状態だと、君たちにできる仕事はないな」

「これは?」


 ユウナは組織の依頼書を指さす。


「悪いが、それはランク上君たちには受けることが出来ない」

「そうですか……」

「だが、もし君たちがいいのなら、とっておきのものがあるかもしれないんだ」

「それは、どういう?」

「今、隣国、アスティニアとこの国イングリティアとの緊張が高まっている。だから、もうすぐ戦争が起こるかもしれない。その時には我々は国からの依頼を受けるだろう。その時に依頼に参加するのなら、その戦果によってランクが上がる。そしたらその依頼もこなせるだろう」

「分かった。じゃあその時には呼んでね」

「ああ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る