第15話 ミコト
「ひい」
村は魔物の恐怖におびえていた。村の義勇兵たちが侵入を防げなかった魔物達が、村の中に侵入してきてたのだ。
村人は、魔物からある者は逃げまどい、ある者は腰を抜かして動けなかった。
「た、助けてくれ!!!」
腰を抜かした初老の男性は周りに向かってそう叫ぶ。だが、誰も彼を助けようとするものはいない、自分が殺されるのが嫌だからだ。そんな中、彼は魔物を目の前にして死を覚悟した。もう天に召されるのは時間の問題だと。彼は死を前にて、色々なことを振り返った。青年時代に人一倍農作物を耕したこと、結婚して子供が出来た時の事、息子が町に行ったこと、奥さんが病気で亡くなったこと。様々な人生の節目の敵ごとを振り返る。
だが、彼の走馬灯とは裏腹に魔物達が彼のことを襲うことはなかった。他の村人に襲い掛かることもなかった。
その代わりに、魔物達はある方向へと向かっていく。
彼はそれを見て安心するが、周りにいた一人の主婦がとある事実に気づき、声を発する。
「あそこは、村長の村の方向じゃないか?」と。
彼女のその言葉を聞き、周りの人は口々に様々な事を言う。
彼ら、彼女らは村長に多少なりとも音がある。だから村長を助けに行きたいところだが、彼らは戦う術を持たない。行ってもただの足手まといになる可能性が高い。
その思いで全員数秒固まった。
そこで、一人の男が、
「助けに行かないでどうするんだ? 俺たちだって今助けてもらっている側だ。俺たちだけ戦わなくていいという通りはない!!」
と言った。その言葉に周りの人たちも共感し、「そうだ! そうだ!」「やるしかねえ」「村長を助けるんだ!!」などと次々と言いだし、村長の家へと向かって行った。
その頃村長の家ではミコトと村長が魔物達の侵入を許していた。
「なに? こいつら……」
そうミコトは呟く。だが、恐れることはなく、
「おじいちゃんは私が守るから安心してよ」
と、木の棒を持ち、言った。だが、魔物達は金棒を持っているのに対して彼女は木の棒。誰の目にも勝てないことはわかっていた。それはもちろん、村長の目にも。
「そうは言われても、わしも孫を守らなければならない」
「いいから!!」
と言いながらもミコト自身も迫りくる魔物達に対抗する手段を持っていないことはわかっていた。
どうしよう、どうしよう。と思いながら迫りくる魔物達を見つめる。出入口であるドアはすでに魔物達によって占拠されている。かと言って窓を割るにしても、窓は木枠だ。それを破壊できる力なんて二人にはない。
「どうしよう、おじいちゃん」
「むむむ」
その間にも、魔物達はどんどんと近づいていく。時間は待ってはくれない。その当たり前の事実が二人をびくつかせる。
「わしが孫を守る」
そう言って、村長は覚悟を持ってミコトの前に出る。
「私が囮になる。ミコトは今すぐ逃げろ」
「おじいちゃん!! そんなこと言われても」
「いいんだ。若い者が生きなければならない。うおおおお」
村長は机を持ち、単身魔物達に特攻していく。
バキィ
無情にも机はすぐに砕けちり、魔物達は村長に金棒を向ける。
「逃げろ!! ミコト!! 私が引きつけているうちに」
「うん!!!」
そう言ってミコトは一瞬空いた扉を抜けて、外へと駆け出す。
「良かった。これで……ミコトは……」
そう村長が言ったその瞬間、村長は生きることをあきらめていた。だが、孫娘を逃がせたという事実で、すがすがしい気分だった。
「アイナ。ようやく君に会えるな」
そう、今は亡き妻の言葉を口にした。だが、彼の命が奪われることはなかった。魔物達は村長のことを無視して外へと向かって行ったのだ。
「なぜ……だ……?」
村長はそう呟き、その場に倒れた。
「なんでついてくるの?」
ミコトはそう言いながら、必死で向かってくる魔物達から逃げる。今、ユウナたちが戦っている場所、つまり村の入り口付近までは五〇〇メートルほど。そこまで逃げればミコトは助かる。しかし、魔物達の走るスピードの方がミコトのよりも速い。
ミコトは魔物達にどんどんと追い付かれ、逃げ切ることは不可能に近い。
「……どうしよう……」
そう言って、ミコトは走っていく。しかし、足がもつれて倒れてしまった。
「ど……どうしよう」
そう言って迫りくる魔物達から逃げるように、這いつくばって逃げようとする。しかし、すぐに魔物に叩き潰されようとする。
(私、死んだ?)
そう思ったが、痛みはこなかった。ふと、上を見ると、村人が桑で魔物の攻撃を間一髪で止めた。
「ルイさん!!」
「間に合ったか?」
「……うん!」
だが、状況は何一つ変わらなかった。彼らにもこの状況を変える力を持っていなかった。
「どうしよう」
ミコトは呟く。ミコトを助けに来た人たちが、今魔物にやられようとしている。自分にできることはあるのか……その思考が脳内でいろいろと流れる。
そんな時に、一人の農民が、魔物の持つ目で思い切り斬られ、その場に血を流し倒れた。ミコトはその光景を見て、気持ちが動転した。
今目の前で血が流れている、その事実が彼女の気持ちを動かした。その瞬間、ミコトの体が光り、周りの魔物達を吹き飛ばす。
魔物達は、吹き飛ばされ、周りの田畑の上に倒れた。
「これは何?」
ミコトにもその力はわかってはいなかった。唯一分かるのは、今目の前の魔物達が、魔物達だけが吹き飛んだという事実だけだ。
だが、魔物達はまだ生きていた。
魔物達は再び立ち上がりミコトの方へと向かってくる。ミコトはなんとか踏ん張るも、先程みたいな力はもう出なかった。
「どうしよう」
今度こそ魔物達がミコトの体に向け金棒を振り落とそうとしたとき、
「大丈夫?」
魔物は高火力の炎によりすぐに消滅した。ミコトが上を見上げると、そこに立っていたのはユウナだった
「お……姉ちゃん?」
ミコトは上を見上げながらそう言った。
「うん。お姉ちゃんだよ!」
「良かったー」
と言ってミコトは泣いてユウナに抱き着いた。
「怖かった……本当に怖かった」
そう言って、ユウナに抱き着きながら泣くミコトをユウナは背中を優しくなでた。二分後、村長やウェルツが駆けつけた時に、ミコトはふと我を取り戻し、ユウナにくっつくのをやめ、
「お姉ちゃんありがとう」
と言った。ユウナはそれに対し、優しく、
「どういたしまして」
と言った。
「それはいいが」
割り込むようにウェルツが話をし始める。
「この依頼はどう考えてもEランクの領域を超えてると思うんだが」
そう、村長に向けて言った。
ウェルツ自身もそこまでギルドの仕組みを知っているわけではないが、この依頼がFランクの依頼に比べて敵が強すぎると感じていた。果たしてこれが給料に合う難易度なのかと。ウェルツ自身、最近までは剣をまともに振っていなかったとはいえ、もともとは組織の構成員。一般人に比べたら強い。それにユウナ、完成体だ。その二人がいてここまで苦戦するような依頼。 例のFランクの敵。それはユウナが魔法を一つ放てば優に全滅するレベルの敵だった。しかし、今回の依頼は違う。現にユウナの実力は副ギルド長が油断していたとはいえ、傷をつけたレベルだ。
しかし、今回の依頼、おそらく覚醒前のユウナの魔力だと、例の敵に対して大した傷を負わせられないだろう。それだけ実力差があるとウェルツには分かっている。ただの依頼ではない。
ウェルツ自身、この空気の中これを言うのも多少はばかられたが、言っておかなくてはならない。そう感じたのだ。
「……それは……お金がなかったからです。Dランクで依頼すれば、お金はその分高くつき、我々が全員で出し合っても出せなくなります。それで仕方なくランクを下げたというわけです」
「なるほどな。まあこのことをギルドの人に伝えたら……」
「やめて下さい。我々はもう二度と依頼することができなくなります。それどころか、違約金まで……私はどうなってもいいですから……言わないでください」
そう言って村長は土下座した。
「どうしようか」
ウェルツはニヤリとしながら、口止め料を貰おうと試みる。
「黙っているには条件があるな」
「なんですか?」
「物が欲しい。この村にあるお金だ。知っての通り、仲介料だとか色々で俺たちがもらえるのは四割ほどのお金だ。そしてランク差による報酬の変化は2.5倍だ。だから今回、この依頼の二割分のお金をあなたから貰えないか?」
ウェルツは提案をする。相手の傷口を痛めるずるいやり方だ。
「ウェルツさん! それはやめようよ。私たちお金が無い訳じゃないでしょ。それにそれって異世界では賄賂? 脅し? 分かんないけど悪いことらしいよ。それこそ悪役がやるような」
ミコトの手を優しく握っていたユウナが手をそっと放し、ウェルツのもとへ行って言った。
「だが、お前は不満を持たないのか?」
「なんで?」
「報酬が2.5分の一なんだぞ。悔しいと思わないか?」
「でも、仕方ないじゃん。人助けは後に自分に回ってくるものじゃない」
その後もユウナとウェルツは口論を重ね。
「はあ、仕方ないな。引き下がるとするか……」
ついにウェルツが折れた。
「ありがとうウェルツさん!」
「ありがとうございます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます