第14話 覚醒

「よし、ユウナ頼む!」

「オッケー! 援護射撃は任せて!」


 ウェルツが前衛、ユウナが後衛で魔物と戦い始める。最初は好調だった。しかし、数分戦った時にユウナは違和感に気づく。


「なに? こいつ全然倒れないんだけど」 


 そう、ユウナの魔法でもなかなか倒れないのだ。

 ユウナが魔力が無くならないように加減して撃っているというのもあるが、それを踏まえても今度の魔物は硬い、硬すぎるのだ。先程の魔物とは段違いに。



「もう、ムカつく! これでも食らえ!」


 ユウナは雷を降らして、魔物達に当てる。魔物達はそれでようやく倒れた。だが、強い魔法を撃つと魔力がその分減る。魔物の残量を考えると、どこまで魔力が持つのだろうか。


「やっと倒せたのか」

「うん、結構本気でやったからね、たぶん燃えるよ」


 ユウナのその言葉通り草原に火がつく。しかし生き残った魔物達はそれに臆することなく進んでゆく。まるで何かを追い求めるかのように。


「てか私強いんじゃなかった?」

「ああ、単体に対してはな。お前の場合まだ魔法の使い方に上手くなれてないんだ。だからあんまり大技を連発できないだろ」

「それもそっか」


 ユウナは数秒考え込む。どの魔法が最適か考えているのだ。



「これでどうだ!」


 ユウナは今度は巨大な火球を生み出す。もう倒すにはこれしかないと踏んだようだ。


「いけえええええ!」


 火球が敵陣のど真ん中にいく。魔力消費量がとんでもないが、威力も半端ない。魔力を気にしていて細かい攻撃をするよりもこれが最適だと。

 その攻撃によって大勢の魔物どもは吹き飛んだ。


「ハアハア」


 ユウナは疲弊している。無理もないだろう。

 さっきほども戦った、昨日も戦った。そろそろ魔力が切れてきててもおかしくないだろう。

 この様子を見てウェルツは「魔力が昨日から回復してないのか」と呟いた。もしかしたら今日は休むべきだったのかもしれない。まだユウナは戦い始めたばかりで、魔法のコントロールが下手と言うこともあり、魔力の消費が著しいのだ。


「ハアハア」


 ユウナはもう魔法を作るのがキツくなっている。簡単な物だったら作れるのだが、そうじゃない魔法だともう無理だ。

 状況はさらに悪いことに、群れのボスと思われる魔物が現れた。ツノがあり、巨大な体で、カラダは緑色のいかにも強そうな魔物だ。おそらくこれが村長が言っていたボスだろう。



「クソ、まだいるのか」


 ウェルツは呟く。もうウェルツもかなり疲弊している。魔物の残党に必死で立ち向かうが、数の暴力で段々と、傷を負っていく。


 そして、あのそれにあのボスだ。どんどんと近づいてくる。

 ただの魔物さえ、ぎりぎりなのだ。もうウェルツには、あのボスに勝てるビジョンが見えていなかった。

 だが、そんな間にも、魔物たちはどんどんユウナや、村に近づいてくる。


「くそ、どけえ!」


 ウェルツや村の義勇兵が必死で攻撃を加えても、魔物たちは怯むことなく向かってくる。ただの義勇兵である村人たちにはボスじゃなくても、厳しい相手なのだ。


「ハアハア」


 ユウナは相変わらず息切れしてまともに動けない。その光景を見て、ウェルツはユウナを助けようと向かって行き、そして、その椅子を動かした。

 しかし、ユウナを狙っていたボスはユウナの方向に迷わず進んでいく。


「くそ、こいつの狙いはユウナか」


 ウェルツは悟った。確かにおかしい話じゃない。

 ユウナは完成体、つまり大量の魔力を持っていると言うことだ。

 そのユウナを狙おうとする奴がいても何も不思議ではない。ウェルツは必死にユウナを連れて逃げて行くが、ボスが、どんどんと猛スピードで追いかけてくる。


「ハアハアハアハア」


 その間にもユウナの動悸が早くなっていく。


「おい大丈夫か?」

「大丈夫。……私のことは心配しないで」


 そう、ユウナは笑顔で言う。だが、ウェルツにはすぐに分かった。これが無理して作られた笑いだということを。


「まさかまた魔力欠乏症になったんじゃないだろうな」

「たぶん違うと思う。たぶん」


 ユウナ自身もわからないようだ。無理もないだろう、彼女の身体は彼女自身でもわからないのだ。


「お前の身体は普通じゃあない。俺もお前の身体のことを深く理解してるわけじゃない。だが、心配しないで落ち着いてくれ」

「無理、無理」

「今は窮地だ。こんなことを言うのもあれなんだが、今足手纏いがいて勝てるとは思えない。だから頑張って持ち堪えてくれ」


 ウェルツは自分がいかに酷いことを言っているのかは把握していた。だが、それでも彼には言わなくてはならなかった。もし、ユウナが復活しなかったら、もう終わりかもしれない、全滅かもしれない。

 だからこそユウナに復活してもらわないといけないのだ。


「無理だよ」

「わかった。俺がなんとかする」


 そしてウェルツはボスの前に立ち塞がる。ユウナを守るために。ボスは早速こぶしをウェルツの頭上から思い切り振り下ろそうとする。


「ふん!」


 ウェルツは剣を振って、その攻撃を防ぐ。しかし、その衝撃を完全には防ぎきれない。ウェルツはその拳に押しつぶされようとした。なので、すぐさま受け受けきることを諦め、後ろへと下がった。


「ハアハア、くそ」


 そして体勢を取り直し、


「うおおおおおおお」


 ウェルツは再びボスに向かっていく。


「ありゃあああああ」


 魔物の拳に合わせて剣を振り、攻撃をぎりぎりでいなす。そして、怯んだ隙に。


「ありゃあ」


 魔物の身体に炎を纏った剣をぶつけた。その攻撃はウェルツの全力を込めた攻撃だった。しかし、魔物は普通に起き上がった。何もなかったように。

 これではまずいとウェルツは思った。これでだめならウェルツの攻撃はもうほぼ効かないということになる。これではこちらの体力が減っていくだけだ。


「うおおおおお!」


 だが、諦めずに、またボスにぶつかっていく。ユウナを守るために。しかし、ボスの速い攻撃についていけずにすぐにやられる。先程までとは違い、体力が残っていないのだ。そのせいで、体が、まともに動かない。

 そして、動きが鈍っているウェルツに何発も何発も、不条理にボスが攻撃を加えていく。

 もはやウェルツは立つのがしんどいくらいにやられて、もはやフラフラだった。だが、彼はユウナを守らなければならない。完成体として、彼女の保護者として。


「ハアハア」


 なんとかウェルツはボスに向かっていくが、もう剣を構えるのが精一杯だ。






 (なんで私のためにここまで戦うの? なんでこんな状況で私は倒れているの? 看守さんがここまで頑張ってくれているのに)


 ユウナにとって、彼女がなんとかしないとダメなのはわかってる。しかし、体がほぼ動かない。それところか、不通に座っているだけでもかなりしんどい。

 その間にも、ウェルツはどんどんとボスにボコられている。このままでは、ウェルツが死んでしまうかもしれない。それに、ユウナを放って村に入って行った魔物も、今、魔物と戦っている義勇兵のみんなも心配だ。

 だが、そんな状況下で、ユウナは動けていないでいる。

 これでは思い切り足て惑いだ。これではいけない。

 ユウナはそんな自分を呪い、そんな自分に絶望していく。

 本当なら、無双しているはずだった。自分の力を回りに誇示できるはずだった。何しろあんな絶望的な日々に耐えたのだから。いや、そうでなくてはおかしい。

 いや、それよりもだ、まず、ウェルツを守らなくてはならない。そんなことを考えていたら、ユウナの体がもう勝手に動いていた。


 ユウナは精一杯の力で車椅子を自分で動かした。それを見たウェルツが、驚いて、ユウナに「おい! ユウナ」と言う。


 だが、よそ見をしたウェルツは無情にも踏まれる。


 それを見たユウナは思った。今ここでウェルツを守らないでどうするんだと。絶対に!


「私があ! ウェルツさんを守るんだー!」


 ユウナの身体は気がつけば動いていた。自分の意思を介さず、無我夢中で。


「はあああああああ!」


 ユウナは巨大な球を生産した。その形状はシンプルな炎ではない、何か似た別の物だった。明らかに炎の質が違う。

 ユウナはその球をボスに全力でぶつける!


「うおおおおお! 届けー!」


 ユウナは叫び、その球はユウナの思惑通りにボスに当たる。ボスは最初はそれに対抗しようと、力を込め、受け止めようとする。しかし、対抗できたのは一瞬だった。すぐにボスはその火球の勢いに押し負けて、火球がボスの体に直撃した。それにより、その体は、どんどんと焼き付いていき、最後は灰となって消滅した。


 ユウナに向かっていた魔物達はその光景を目の当たりにし、すぐに逃げるように荒野の方へと帰って行った。


「ハアハア」


 ユウナはその場に倒れ、過呼吸を見せた。


「おい大丈夫か?」


 ユウナの魔法に気を取られていたウェルツが平常を取り戻し、心配しながらユウナに話しかける。


「うん、大丈夫。……なんとかだけど」


 と言って、何とか起き上がる。


「調子はどうだ?」

「たぶん大丈夫だと思う。しんどかったけど結構治った」

「それは良かった」

「なんか歩けそうかも」


 そう言って、ユウナは立ち上がった。


「おい無茶するな!」


 だが、ユウナはそのウェルツの言葉を無視して、一歩ずつ、一歩ずつ歩き出した。


「なんか全然いける!」

「それは良かった」


 さっきの覚醒のおかげなのか、ユウナの筋力が増強されている。これはどういう原理なのか、ウェルツにも分かっていなかった。だが、「おーい、ウェルツさーん!」と言って、向こうで走りまくっているユウナを見たらそんなことはどうでもよく思えてきた。ユウナの笑顔を見ているそれが一番の幸せだからだ。


「ウェルツさん、鬼ごっこしよー?」

「鬼ごっこってなんだ? それはともかく調子に乗るな」

「はーい」


「大変です! 魔物が数体村に入ってしまいました」

「なんだと!」


 ウェルツが村の方をじっと見る。


「分かったすぐ行く。ユウナはここで休んでおけ」

「いや、私が行く!!!」


 と、ユウナはウェルツが動く前に走っていった。


「急に元気すぎだろ」


 そう言ってウェルツも村の方へと向かって行く。村人を助けるために。

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