第6話 脱出

 

「研究所か」


 と、剣聖は呟き、そのまま奥へと進んでいく。


「くさいな。これは……薬品のにおいか。気色悪いな」


 そう言い剣聖は苦い顔をする。ここの空気は様々な変な薬品のにおいが入っており、かなりの激臭となっている。


 また、大量の薬品や大量の拘束された実験体、雑に処理された死体などがあり

 見るからに胸糞悪い光景だった。


「行くか」


 剣聖はこの状況をなんとかせねばと思いながら先へと進む。軍人として、この状況を黙ってみることは出来ない。





「敵襲だー!!」


 組織の人員が叫ぶ。その声でそこにいた研究員たちが目を向ける。するとそこには剣聖がいた。


「く、こっちにも来たか」

「消えろ」


 そう言いながら炎をまとった剣で敵を切り伏せる。


「来るぞ」


 一人の男が行く手を阻むが……


「どけ」

「ぐああ」


 すぐに斬り伏せ去れる。剣聖にはそこらの雑魚にかまっている暇はない。早くこの現状を打破しなければならないのだ。


「おいジャスパ。実験体2,7、19,27、118,217を連れて逃げろ。私はここで敵を抑える」

「はい!」

「そして、アントニア。あいつらに伝えろ! 完成体は守れと……分かったな!」

「はい」


 と、言って、ジャスパは出口へと走る。その一方アントニアは別の方向へと走っていく。と走っていく、メルスと看守のもとへと。剣聖はアントニアの方向へと走っていこうとするが、それを男がそれを遮る。


「……完成体とやらはどこだ?」

「教えるわけがないだろ」

「ならお前に興味はない、どいてくれ」

「そういわれて大人しくどくと思ったか?」

「思わないな」

「そういうことだ、ここを通るには私、カミンを倒すしかないということだ」

「そのようだな!」


 と、剣聖は剣を引き抜く。


「お前はここで俺が抑える、ファイヤーフレイム!」


 と、カミンは炎を放ち、


「ふん」


 と、剣聖は炎をきった。


「いかせるか、サンダーウォール」


 雷の壁が出来上がりさその壁から雷が剣聖に向かっていく。


「ふん」


 雷を切りながら剣に炎をまとカミンの元に向かっていく。


「通せ、お前にかまっている暇はない」

「強いなだが通さん」

「通せ!」






「というわけだ、完成体、逃げるぞ」

「はい」

「手足は拘束させてもらうぞ、来い」

「う、うん」


 と、両手両足を拘束される。


「今回この研究所が襲撃された、この台車で連れていく、乗れ」


 と、看守さんが私に乗るように促す。


「いやどうしたらいいの手足動かせないんだけど」

「ああすまない、いまのせる」

「お前は護衛だろう、勝手にこいつとしゃべるな」

「分かった」


 と、看守は二つ返事でメルスの言うことに従う。


「何でよー」

「勝手にしゃべるな」

「うるさい!」

「こいつ、勝手にしゃべるな」

「誰が言うこと聞くかよーだ」

「なめやがって」


 と、メルスは少女に対して手を上げようとする。しかし、はっと我に返り、


「俺は別にやることがある。お前にこいつは預ける」

「わかった」


 と、メルスは向こうへと行く。それを見て少女は安堵した。そしてそのまま看守が車いすを引き、


「わ、速い」

「当たり前だ」


 移動していく。だが、


「おいおいこんな所に残党がいるじゃねえかよ」


 と、ラトスが少女と看守の前に現れた。


「もう来たか、逃げるぞ」

「うん」

「おいおいその子縛られてるじゃねえか、お前らひでえな、おい、そこの娘、俺のところに来れば助けてやれるぞ」

「え?」

「……聞くな」


 と、看守が少女を制する。


「おいおいまてっつってんだろ、ファイヤー」


 と、火球が飛んでくる。


「ふん」


 看守はその攻撃を何とか剣で受けるが、


「オラオラオラァ」


 畳みかけるようにいくつもの火炎球が、看守めがけて飛んでくる。


「くそ! 避けきれん。ぐああ」


 看守はその猛攻に耐えきれず、体に直撃した。


「弱いな、それそれそれぇ」

「くぅ」

「そうだ!」


 火球が少女めがげて飛んできた。


「いいこと考えた」


 と、ラトスは少女へとむけて炎を放つ。完成体は丈夫である。故に当たってもそう簡単に死なん。だが、それは看守に対しては絶大な効果がある。ラトスはそう考えた。


「その完成体とやらを守ってみろよ」

「くそ!」


 と、看守はその剣で攻撃を受けきろうとするが、その炎の猛攻により、ラトスが放った炎の半分程度当たってしまう。


「お願い私は大丈夫だからよけて」

「だめだ! お前は守る」

「なら手枷を外して」

「それは無理だ」



「てかそこの完成体、お前この男を信頼しているのか」

「どういうこと?」

「そいつらはお前をさらうためにお前の両親を殺している、記録が確かならお前の父親と母親を撲殺したのはそいつだ」

「知ってる」


 少女はその前に看守からそのことを聞いていた。だからそれを聞いても、少女には何も感じない。もうすでに事実だから。


「知ってるのか。だが、そいつらはお前にひどいことをしてきたじゃねえか、そんなにやせ細って、ケガばかりで、それでもそいつを信用できるのか?」

「……それは……」

「こちらにきたら国で保護してやるぞ」

「いやだ」

「なぜだ?」

「この人は信じるって決めたから。それにこんな火球うってくる人が正義とは思わないし。てかそもそもなんとなくあなたは信用できない」

「お前!」


 と、少女に向かってさらに大量の炎球が飛んできた。その光景を見て……


「だけどこの状況どうしよう」


 と、少女は考える。明らかに絶望的な状況だ。こうなってはもう……


「手枷外して」


 自分の完成体としての力を発するしかない。ついでに自分の拘束も外れれば万々歳だ。


「……」

「お願い。看守さんには決して攻撃しないし、そもそも私の敵はあいつだから」

「……」

「看守さんが言うんだったらまだ拘束されるから」


 本当はそんな契約なんてしたくはない。ただ、少女は交渉を有利に進めるにはそう言うしかない。


「……分かった」


 看守は考えた末、そのお願いに乗ることにした。もし仮に少女が言うことを聞かなかったとても、それはもう仕方ない。それにそもそも


 そして看守の手によって少女の手枷、足枷や首枷が外れる。


「手が動く……これは……」


 不思議な感じだ。手が縛られていない。自由。何も手足の動きを妨げるものはない。何と幸せなんだ。だが、手が思うようには動かない。仕方ない、今まで動かしたことがなかったんだから。


「おらあ!」


 炎が飛んでくる。そうだった、戦闘中だったんだ。


「よし! はあ!」


 己のすべての力を解放する。なんだこれ、エネルギーがあふれてて止まらない。この力だったらなんでもできそうだ。


「く、何て圧だ」


 周りの者が吹き飛んでく。当然あのゴリラも。


「行って来い」

「うん」

「くそ、かなう訳ねえ。だが……」


 と、ゴリラは剣を大きく振りかぶり、少女の方へと向かってこようとするが……


「くああああ!」


 拭き取んだ。少女は何もしてないのに。


「行け!」


 と少女はそのオーラのようなものをゴリラに向けて発射する。すると、勢いよく白いオーラがラトスに向かい……その体を覆いつくす。


「死んで!」

「死ぬか……死ぬわけねえ」


 と、ゴリラは体に覆いかかるオーラをなんとか振り払い逃走しようとした。


「待って!」


 だが、足は少女の意思を無地してわずかしか動かない。


「足が……動かない?」

「じゃあな、気が変わったらおしえてくれよ」



 と、ラトスは向こうへと去って行ってしまった。


「ごめん逃がした」

「そんなのいいさ、別に。それよりいいのか? 俺に復讐しなくて」

「いいよ別にあの人とかは別だけど、あなたはいい人だし、あ、また拘束する?」

「まさか、わざわざ自由になったお前をまた不自由の鎖で縛るつもりはない。そもそも組織自体が崩壊しかけている今、お前をどこに閉じ込めておくのかと言う話だしな」

「ありがとう!」


 と少女は看守さんに抱き着こう……


「あう」


 としたが、その場で倒れてしまった。


「無茶をするな。お前の筋肉は一〇年間動いてなかったんだ。そんないきなり動くわけがない」

「あ、でも私に名前つけてよ。いつまでも完成体なんて物みたいに言われるのも嫌だし」

「わかった。じゃあユウナで」

「うんじゃあそれで」

「じゃあ俺もいつも役職で呼ばれるのも嫌だし、俺も言うわ。俺の名前はウェルツだ」

「ウェルツさんね。わかった!」

「ああ、ユウナ」


 と、二人で呼び合い、そのまま組織を脱出した。





 そのころ実験室。



「お前の魔法は俺には通用しない」


 そう言い剣聖は文字のごとく魔法を切っていき、そのままカミンの首へと剣を向ける。カミンは剣聖アレネス ハーレンクラインと言う強者によく立ち向かえたと言えよう。


「くそ! ただもう重要物、研究材料などは運び終えただろう。これで俺の任務は完了だ。さあ殺すなら殺せ!」

「いや……お前にはまだ利用価値がある、研究材料……特に完成体。それをどこに連れて行った」

「……」

「答えろ!」


 そう言って剣聖はカミンの足に剣を思い切り突き刺す。


「ぐぁあ」


 するとい、カミンは苦痛の声を上げるが、剣聖は容赦せず、さらに剣に力を込め、


「言え!」


 と、力強く言葉を発した。


「そう言われても知らないもんは知らない。俺はただ、完成体を逃がせと命じただけだ」

「じゃあ、もういいか」


 と、剣聖はカミンの心臓部分に剣を突き刺し、そのままカミンを絶命させた。


「おい剣聖」

「なんだ?」

「わりいな。完成体を覚醒させてしまった」

「そうか……何をやっているんだ」

「すまねえ」


 と、ラトスは軽く頭を下げる。


「それで、逃げられたのか?」

「ああ。自分の意志でついて行ってた……だが残りの実験体は保護しときましたぜ」

「助かる。これでまだ戦果があった。だが……奴は……完成体はぜひこの国の戦力にしたかった」

「この国、メルサイア王国はアスティニア王国と緊張状態にあるからな」

「ああ。彼女さえ、わが軍に入ってくれれば、かなりの戦力となっただろうに。惜しいことをした」

「ああ、すまねえ」

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