第5話 動乱

「今聞く? 痛いのに馬鹿なの?」


 話すつもりなんて全くないし、自分で察してほしい。


「馬鹿とはなんだ」

「どうせあなたは親の仇なんだから」


 行ってしまった。察してもらおうとしたのに私の馬鹿。まあ言ってしまったものは仕方がない。


「やっぱりそのことか」

「うん」

「あいつの言っていることが噓だという可能性はないのか?」

「そのことは考えてなかった。まさか噓ってこと?」


 嘘だとしたらそれが一番いい。私だって好きで看守のことを嫌いたいわけじゃない。でも、もしこの地獄の元凶がこの人なんだとしたら……私は許したくはない。


「いや……正直に言おう。本当のことだ」

「え? 噓じゃないってこと」

「ああ」

「じゃあ私を見つけたのも?」

「俺だ」

「じゃあ私がこんな苦しい目に合ってるのも?」

「俺のせいだ。すまん、痛みが来るぞ」

「痛!]


 思わず顔をゆがめてしまう。やっぱりすべて本当だったんだ……。


「じゃあ私にやさしくしていたのも?」

「いやそれは罪悪感とかではない」

「じゃあなんで?」


 罪悪感以外の理由が思いつかない。そうでなければあの行動の数々は説明出来ないだろう。村を燃やし私をこんな目に合わせた張本人なのに、この組織で私にこんなに味方をしてくれている訳なんて……


「愛着がわいたからだ、俺はもともと実験体になんて興味がなかったんだ、人間だとも思っていなかっただがなお前を実験し続けていくうちにかわいくなってきたんだ」

「ロリコン?」

「違うわ。てかまずロリコンってなんだ?」

「ロリータコンプレックスで言って、小さい子どもに興奮する人のことだよ」

「なら尚更違うわ!」

「ふーん」

「まあとりあえずだ、えこひいきだと言われたら仕方ないが、お前のことは大事に思っている、それは罪悪感とは違うと思っている」

「じゃあなんで今まで拷問みたいなことしてるの?」


 本当に私のことを大事に思ってくれているのなら、組織の意向なんて無視して私を解放してくれたら良いのに。


「仕方ないことなんだそれは、世界を救うことにつながるんだ」

「どういうこと?」

「もうすぐ世界に危機が起こるそのためにお前の力がいるんだ」

「どんな?」

「詳しいことはわかっていないが、ここ10年で世界が混沌に包まれるという予言があると聞いている」

「そっか、でもさ私がこういう状態であっていい理由にはなってないよね」


 私が地獄を味わってまで世界を救いたくない。それはどっかの人がやってくれれば良いのだ。


「それは悪いと思っている」

「おかしくない?世界がやばくなりそうとはいえ家族皆殺しで連れ去られて、こんな拷問みたいな日々送ってるって、あなたなら耐えられる?」

「無理だな」

「じゃあ出してよ、ここから出してよ」

「すまん無理だ」

「いつもそればっかり」



「すまん」

「先輩変わってください」


 と、メルスが看守を押しのける。


「おいちょっと待て」

「今の先輩だと無理でしょ、完成体に手を下すの、代わりにやりますよ」

「おい」


 メルスはそんな看守の言葉を無視して割入り、ボタンを押した。


「痛!」

「本当は時間をおく必要なんてないでしょ、それは今日は休ませたろうていう詭弁すよね」


 そう、別に 連続でやりすぎてはいけないことはあるが、時間を置く必要などない。すべては看守のやさしさと言うことだ。


「痛い! 痛い!」


 少女は泣き叫ぶ。


「先輩の生ぬるいやり方にはうんざりしてたんすよ、今度上に話しておきますよ、あなたはもう使えないって」

「俺は……」



「あなたは?」


 少女がメルスに聞く。多少なりとも会話は聞こえていた。それによれば看守が使えないという事らしい。


「うるさい黙れ、実験体はおとなしくしとけ」

「うう」


 また痛みが加わる。


「お前! お前はしょせん補佐役だったはずだ」

「ああ、ですが。あなたがあまりにも完成体に情を感じていたら、無理やりにでも変われと言われていたんだ。上からな」


 と、上の署名入りの勅命書を看守に見せた。それを見て……


「……そういうことか。俺はもう信用されていないんだな」


 と、一言呟く。


「そういうことだ、十年前ならともかく今のお前は甘すぎる、上の人たちは心配していたんだぜ、お前がいつ裏切るのか」

「お前は上の人間からそう言われたのか」

「そういうことすね」

「なるほど俺には拒否権はないってことかことか、なら従わざるを得んな」


 (私……こんな人に実験されなきゃいけないの?)


「俺の選択は上の選択になるからな」

「ああ」

「お前は今から補佐役に回れ」

「ああ、分かった」

「えっていうことは私を実験するのは」

「俺だ」

「いやだ! いやだ! まだあの人がいい」

「我慢しろ!騒がしい、先輩殴ってください」


「は?」

「え?」


 少女と看守が驚く反応を見せる。


「聞こえなかったんすか? これを殴ってください」


 と言って、メルスは少女を指差す。


「いや……でも」

「先輩忘れたんすか? 俺の命令は=上の命令って、殴ってください」


 と、再び勅命書を見せる。


「すまん」


 と、一言謝り……少女を殴る。


「痛、何するの!?」

「しゃべるな、しゃべるごとに先輩に殴らせる」


 また痛みが来る。


「痛!」

「先輩お願いします」


 その言葉に従い看守は少女を殴る。


「もう……もう……やめて……」

「先輩お願いします」

「この行為に何の意味があるんだ!」

「あれ先輩怒りました?」

「当たり前だろ。何の意味があるのかわからない」

「意味ならありますよ……」


 と、一言貯め……


「こいつが絶望することですよ」


 と、メルスは言った。


「なんだと!」

「最近ののこいつは希望にあふれていたからな。その希望は完成体になるのに邪魔になる。だから絶望させたのだ」

「そうなのか」

「ああ、だから殴れ、もともとお前のせいだからな」

「分かった」


 とはいうものの、看守は納得していない。


「痛!」

「どうだ? お前が信用していた人に殴られる気持ちは?」


 と、目隠しされている少女に向けて言う。


「楽しんでるとしか思えないんだがな」

「そんなことないですよ。せーんぱい」


 と、実験が続いていく……と思われたが……。


「敵襲です!」


 と、部下が看守、メルスの両名に伝える。



「完成体を連れて逃げろと支部長が」

「分かった。俺がこの子を連れて逃げる」

「忘れたのですか先輩今は私のほうが立場が上なんすよ、俺が連れていく」

「逆らえないっていうことか」

「はい」

「分かった、俺もついて行っていいか? 護衛は一人でも多いほうがいいだろ」

「まあいいでしょう、ですが俺が完成体を連れていきますよ」

「ああ」


 十五分前



「うわああ」

「クソ、ボスに伝えろ」


 研究員が騒いでいる。


「おい逃がすなよ、上の奴らに伝えられたらめんどくさい、ただこいつらでも人間だ、殺すなよ」


 男は剣聖。この国の第二隊の隊長であり周辺諸国から恐れられている存在であり国のナンバー2だ。


「ああわかっている、ただ生かす価値あんのかこいつら」


 男はラトス。第二隊の副隊長でありその腕力でここまで成り上がってきた。


「国に生かせと言われているからな」

「まあそうだよな」

「何喋っているんだ、死ねぇ」


 と、男の背後から組織の一員の男が斬りかかりに来る。


「気づいてるよ」

「ぐああ」


 と、切り伏せられた。


「殺してないだろうな」

「あたりめえだ、みねうちだ」

「くらえ」


 また別の男が剣聖の首を狙ってくる。


「遅い」


 そういい剣聖は敵の攻撃をよけてその体を打った。


「ぐああ」

「しかしこいつら何人いんだよ」

「知らん。ただ……ここは大事な拠点のはずだ。きをつけろよ」

「わーてるよ剣聖さんよ」

「後ろ来てるぞ」

「わかってるよ」


 と、すぐに斬る。


「俺は研究所のほうに行く、お前はこのまま注意をひきつけとけ、お前だったら得意だろ」

「へいへい」

「行ってくる」


 と、剣聖は歩き出し、


「ここは通さねえ!」


 ラトスはそう叫び、その場で来る組織の一員を切っていく。

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