第4話 不和

 

「おはよう」


 看守さんの声で目が覚める


「やっと朝か。夜中に七回くらい起きたと思う」

「そうか」


 相変わらず一つ返事をされる。もっと大きい反応を見せてよ!


「やっぱ寝ずらいんだけど」

「我慢しろ」

「ひど」


 もうちょっと同情してくれてもいいと思うのに。


「今日は暇だろうから本を持ってきたぞ」

「やった! もっと早く見せてくれていたらよかったのに」

「文句言うな」

「文句言うなっていうの好きなの?」


 気がつけば看守さんは毎日そう言っている気がする。


「いやそういうわけじゃないが」

「まあいい読ませてちょうだい」

「上から目線だな、まあいい」


 と言って看守さんは本を背中に背負ってる鞄から取り出す。

「よっしゃ」


「昔々……世を脅かす魔王がいました。その魔王は欲望のままに人を殺し食べ物を食らい、金品を奪い、人々から恐れられていました。そこで王様は魔王を倒す勇者を集めました。そこには何千人もの勇者を名乗る者たちが集まった。

 しかし、その勇者たちはみな、尽く殺されました。もうだめかと思われたその時、勇者が天から舞い降りてきた。彼は不思議な力を使い、魔物を倒し、幹部を倒し、魔王に挑みました。しかし、魔王は他の敵よりも遥かに強かった。それこそ勇者並みに。なので勇者は考えを変えて、倒すことではなく、封印することに挑戦しました。彼は強大な封印術を使い、魔王を封印術で捕らえ、そのまま魔王は地の底に沈みました。勇者はその結果強力な封印術の代償に、再び天に帰っていきました。めでたしめでたし」



「なるほどねー、それで魔王は封印されたのか、面白い話だったね」

「面白かったならよかった」

「で、また暇なんだけど」

「すまんなまた用事があるから行くわ」

「じゃあまた私暇なんだけど、私の相手をしてよー」


 拘束されてるのにさ。これじゃあ四十分程度しか暇が解消されないじゃない。


「仕方ないだろ、忙しいんだから」

「私の相手するのが仕事じゃないの?」


 なら私を楽しませてほしい。


「いや違うけど、お前を見張るのが仕事だけど」

「私が逃げられると思う?」

「いや俺がいないときにもお前見張られてるぞ」

「知ってるけど、それがどうしたの?」

「そいつにお前の相手できるか聞いておこう」

「やったー」


 まさかの救世主現るだ。普通にうれしい。


「無理かもしれんがな」

「そんなこと言わないでよ」


 諦めたらもう何も生まれないし。


「まあ、頼んでみるよ」

「分かった、行ってらっしゃい」

「ああ」






「聞いてたか?」

「ええ先輩」

「というわけで頼めるか」

「先輩甘くないですか? 仲よくしたってあの子はすぐに死にますよ」


 と、メルスが看守に念を押す。


「短い命を有意義にしたいだけだ」

「先輩、自分が救われたいだけでは?」

「違う!」

「いや、そうだ! 逃げてるんすよ。俺たちの責任から!

 俺たちは散々ひどいことをしてる、今更許されると思っているんですか? いや違う、俺たちが救われていいわけないんすよ、俺たちの手はすでに汚れているんだ」

「俺はただあの子を救ってやるつもりで」

「あなたなんでしょ? 完成体の両親を殺してさらってきたのって」


 そう言われ、看守はビクっとする。


「知っていたんだな。たしかに俺は許されないことをした、罪滅ぼしの意味もある。だが俺は本当にあの子に天命を全うしてほしいんだ」

「いえ、先輩はいいかもしれないですが、俺はどうせいなくなる人間に感情移入したくないんで。完成体とは遊ぶつもりはないです」

「ああ分かった。じゃあ残念な結果だか、あの子に伝えに行くか」


 と、看守が牢獄の方に戻ろうとすると……


「いや、俺が伝えときますよ」


 と、メルスが看守を止める。


「ありがとう」

「いやいやいいっすよ、あっ、そうだ何回も言いますけど先輩裏切らないでくださいね」


 それに対して看守は自信のない声で「ああ」と言った。




「やあ完成体」

「その言い方好きじゃない」


 この人か……他の人のほうがまだましだったな。


「まあいいじゃないか」

「遊んでくれるの?」


 暇をつぶしてくれるのなら、どんな人でも構わない。


「いやこれだけ言いに来た、実験が終わったらお前は死ぬ」

「え?」

「正確に言うとお前の自我が消えるんだ」

「え?」


 どういうこと? 自我が消える?


「いい加減気づけよ、お前は実験が終わっても自由になんかなれやしない、まあ天国に行くことが自由になるということだったらお前は確かに自由にはなるがな」

「あの人は隠してたってこと?」

「ああ、先輩は救われたかっただけだ、お前になつかれることで、自分の罪を精算しあかっただけなんだ、だってお前の親を亡き者にしてお前をさらったのは先輩だからな」

「……」

「もっと言えばお前を見出して、あの村を襲ったのも先輩だがな」

「どうして?」


 ……信じていたのに。本当だったら私がここにいるのって……看守さんのせい?


「まあそういうことなんでじゃあね」

「ちょっと待って」


 詳しく聞かなきゃ。私が死ぬということも、看守さんのことも。


「待たねえ、じゃあな詳しいことは先輩に聞け」


 と言ってむなしくも彼は去って行ってしまった、今も私の見えないところで私を監視しているのだろうか……いや、そんなことよりもさっき言ったことだ。つまり、あいつの言うことが本当だとしたら私の味方だったわけじゃなくてただの罪滅ぼしのため? てか私死ぬの? もうわからない。




「せーんぱい伝えときましたよ」

「ああ、ありがとう」


(先輩が完成体の両親を殺したことをな)と、メルスは小声で看守に聞こえない程度の声でつぶやいた。




 その頃 地上


「ここがあの組織の支部か」

「ああそうだ俺たちはここをつぶす」

「突入するぞ」

「ちょっと待て、そんな早く突入出来るわけがねえ」

「何分で支度が出来る?」


 横に体がでかい方の男性……ラトス コルベールはため息をつく。


「全く、剣聖お前というやつは戦うことしか脳がないな」

「仕方ない。私の存在意義は戦うことなんだからな」


 剣聖……アレネス ハールンクラインは元は孤児だった。名門であるハールンクライン家に拾われてからは戦いの術のみを学んだ。


 戦い以外のことができない彼は戦う事でしかハールンクライン家の役には立てない。それは彼が一番知っている。


「まあでも、こんな組織ほっておけないというのも事実だし、さっさと潰した方が救える命が多くなるというのも事実だ。俺もさっさと支度をするよ」

「頼んだ」

「へいへい」


 再び地下。




「そろそろ行く時間だ」

「……」

「今日はえらく元気がないな。いつもみたいに文句言っていいんだぞ」

「……」

「のせるぞ」

「うん」


 と言って看守は私を椅子に乗せる。


「なんかあったのか」

「なんで?」

「口数が少ないから」

「そう思うんだったらそうじゃないの?」


 本当、今まで信じていたのになんでそんなこと言ってくれなかったの? あなたのせいだったの? こんな状況になったのはわからない、わからないよ。




 何考えてるかわからないけどそろそろ自分が嫌われてるかもって思い始めたかな。



「ついたぞ」

「ここに寝たらいいんですね」


 あえて敬語で距離を取る。私なりのせめてもの仕返しだ。


「今日は主に検査だ今日はそこまでは痛くないからな」

「はい、分かりました」

「ただ体に微弱な痛みが来るからそのタイミングで合図を出すから、その時は痛みに耐えるよう頑張れ」

「はい」

「じゃあ装置かぶせるぞ」

「はい」


 と被せられ、視界が閉ざされる。何も見えないし、怖いけど、今日だけは我慢する。何より今のあいつに変に大丈夫か? などと言われたくない。




「でだ、お前何かあの子に話したのか」

「ああだから今日はそういった実験にしたんすか」

「いやそれはたまたまだ。聞くのはいつでもできる」

「で、何を話したかですよね」

「ああ」

「特に何も話してないですよ」


 看守は一呼吸置いて……


「じゃあなんで今日はあんなよそよそしいんだ」

「ああそのことですか」

「なんだ?」

「十年前のことを言っただけですよ、別に大したことではないですよ」

「大したことじゃないだと? そんなわけないだろ! なぜ言った」

「先輩がおかしくなっただけです、もともとのせんぱいはもっと冷酷だったと、聞いています、研究対象はしょせん研究対象だった。そうじゃないですか。今は違う、ただ贔屓してるだけだ」

「そうか。もういい」


(俺は違うんだ、決して決してひいきしてるわけじゃないんだ)


 と、心の中で考えながら看守は彼女の元に戻った。


「そろそろ来るぞ!」

「くぅぅ」


 思ったより来るじゃん。微弱な痛みなんて噓じゃんむかつく。


「つぎ来るぞ!」

「痛い」


 くそ我慢しようと思ったのに。


「痛いんだったら叫んでいいぞ」


 なめやがって。私は絶対我慢するんだ!


「悲鳴を出すのは嫌だ」

「ハハハ我慢してもいいことないぞ」

「うるさい」

「そろそろ聞かせてくれないか? なぜ機嫌が悪いのか」

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