第10話 アリと歴史

 薄羽神社は、村の中央から少し離れた小高い丘……低い山の上に建っている。


 その低い山の頂上に神社があり、神社を通り抜け、反対側の石階段を降りると、村から出ることが出来るバス停にたどり着く。


 俺は石階段を登り切ってから、鳥居を抜け、境内にたどり着いた。


 既に周囲は真っ暗だが、段々と暗闇に目が慣れてくる……といっても、ほぼ周囲は見えないのだが。


 俺は境内の端の方に向かって歩いていく。境内の端には石碑が立っていた。俺はスマホのライトを付けて石碑を照らす。


「『薄羽神社と有野州村の歴史』か……」


 既にその石碑は何度も読み返している。


 石碑の内容は簡単にまとめれば、この神社と村の関係である。神社が村の中心となって、これまで祭りなどが行われてきたこと、そして、神社で祀っているのは「カゲロウ様」という村独自の神様であるということ……。


 何度読み返しても他愛無いことが書いてある。


「……あれから二年立てば、この石碑がまるで意味のないものだということが、よくわかるな」


 俺は思わず独りで笑ってしまいながら、ライトを消した。


 石碑に書いてあることは、間違ってはいない。


 この村には薄羽神社しか神社はないし、カゲロウ様という神様を祀っているのも本当だ。


 問題は……薄羽神社と薄羽千影のことが何も書いていない。正確には薄羽神社と薄羽の家のことである。


 千影は現在、神社から少し離れた家で一人暮らしをしている。幼い頃から両親がいない千影は村人全員で育てられてきたようなものだ。


 元々、薄羽家は村で神社を管理する家柄だったらしい。実際、千影の母親は神社を管理する巫女だったというし、千影も神社の境内を時々掃除している。


 いつから薄羽の家が神社を管理する家柄となったのか、そして、なぜ、薄羽の家が神社を管理することになったのか。


 俺はふと本殿の方を見てみる。本殿の中にはその詳しい情報が乗った書物があるのかもしれない。


 そこには、俺が知っている本当のカゲロウ様の話以上に詳細な話も――


「士郎君?」


 いきなり声をかけられて、俺は飛び上がりそうになってしまった。


「……千影。お前……なんで、ここに……」


 振り返った先にいたのは、苦笑いしながら申し訳無さそうにしている薄羽千影なのであった。

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