第9話 アリと余計な行動

 そして、家への帰り道、またしても分かれ道までやってきた。


 その真中に、またしても同じような人影が立っている。


「なんですか。先程の行動は」


 薄暗い闇の中から低く冷たい声が聞こえてきた。


 美波は明らかに怒っているようだった。


「……何のことだ?」


 俺はとりあえず、はぐらかすように訊ね返す。


 美波は俺の方まで近付いてくる。顔をグッと近付けてくる。


「余計なこと、聞きましたよね。神様を信じるのか、とか」


「……あぁ。聞いた。それが悪いことなのか?」


 俺が悪びれる様子もないと、美波はさらにムッとする。


「この村が神様を信じている不思議な村って、餌に思われては不味いんですよ。それともアナタ……此の村がおかしいってこと、餌に思わせようとしています?」


 返答によっては、俺が不味い立場に追い込まれるかもしれない。そう思いながらも俺は冷静だった。


「……言わなくてもいずれわかるだろ。この村がおかしいなんて」


 俺がそう言うと、美波はムッとしたような顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。


「……もういいか? 俺も帰るぞ」


「それから、なぜ、連絡先など交換を?」


 美波が怪訝そうな顔で俺に尋ねる。俺は小さくため息を付いてしまった。


「……別にいいだろ。そんなことにも理由が必要なのか?」


「いえ、別に。ただ、餌と連絡をする必要なんてあるんですか?」


「……あるよ。『餌落とし』には必要なことだ」


 俺がそう言っても、美波はイマイチ理解できていないようだった。理解できないのなら、これ以上説明する必要はないだろう。


「……お前も俺をずっと監視するなんて大変だな。別にお前に監視されなくても、俺は『餌落とし』が滞りなく進むように努力するけど」


「ダメです。それは、私が……有吉家で私が与えられた唯一の役目なので……」


 急にしおらしくなる美波。小さい頃から、自分に少しでも都合が悪いことを言われると、急に弱々しくなる。


「……そうか。じゃあ、引き続き頑張ってくれ」


「アナタに言われなくても、続けるつもりです」


 そこまで言って、俺は美波に背を向ける。


「……この後は家に帰るだけだから、付いてこなくていいぞ」


 俺がそう言って美波の方を一度だけ振り返る。美波は俺のことをジッと見ていた。


 完全には俺のことを信用していないのだろう。まぁ、それも無理はない。


 俺はしばらく歩いてから今一度振り返る。既に美波の姿はない。


「……悪いな、美波」


 既に周りはかなり暗くなっている。しかし、俺は家の方向へは歩いていかなかった。


 俺はそのままの足で薄羽神社の方向へと向かっていったのであった。

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