金欠パーティー5
茂みに身を隠したシグルズとパーティーメンバーは大きく口を開けた洞窟入り口を見ていた。
そこで入り口を守っていたのは、明らかに人ではないモンスター。人型の二足歩行で頭は蜂、先端部分がランスのような形状をした尻尾は長く波打つように伸びている。手に携帯してた武器は尻尾のと同じ形状ではあったが、こちらの方が円錐部分は大きい。そして背には蜂のそれと同じ羽が生えていた。
そんなモンスターが五匹。洞窟の入り口には立っていた。
「あー、フィリアさん。俺は割のいい依頼って言ったよな?」
「だから報酬の良い依頼を選びましたよ」
「お前これ……。ヴェスパーの巣駆除じゃん」
「はい。報酬ちょーよかったんですよ」
それ程よかったのかフィリアのテンションは明らかに上がっていた。
「それはこの仕事がめんどくさすぎて誰も受けないからだね。一匹一匹は何とかなるけど数が異常だから」
「え!? そうなんですか? ごめんなさーい」
さっきのテンションとは一変し、その声は落ち込んでいたもののどこか軽い。
「いや、頼んだの俺だし気にするな。実際報酬がいいのも事実だし。――確かヴェスパーって尻尾と手に持ってるウェイルっていう武器で戦うんだよな?」
「そうだね。ゴホッ。あと飛ぶからそれにも気を付けないと」
「めんどくさいけど受けたものはしょうがない」
軽く首を回し戦闘準備をし気を引き締めたシグルズ。
「そんじゃいっちょやりますか。まずおっさん。入り口の五匹の排除よろしく」
「うむ。あのような虫ケラ我が筋肉の敵ではない」
そう叫びながら立ち上がったクロムスは鈍器のような杖を大剣のように担ぎ走り出した。
「ちょっ! 待て! 魔法でって意味だよ!」
だがクロムスは伸ばした手からどんどん離れていくばかり。
「嘘じゃん。行っちゃったよ」
「行っちゃったね」
「行っちゃいましたね」
「さすがクロムスさん。臆することなく先陣を切る背中は堂々として素晴らしい」
五匹のヴェスパーは自分達の方へ走って来る巨体の存在に気が付くとすぐさま戦闘態勢に入り威嚇の声を上げた。
だがクロムスはそんな事を気にも留めず、バネのような筋肉で地面を蹴って急加速しては五匹の内の一匹へと接近。そして相手が防御の姿勢を取るよりも素早く鈍器のような杖を振り下ろした。頭上から隕石の如く叩き付けられたヴェスパーは紫色の血をまき散らし、悲鳴のような声を上げながら倒れていく。
そんな仲間の敵討ちを取ると言うように他の四匹は一斉にクロムスへと襲い掛かった。
「いいだろう。まとめて掛かって来るがよい!」
クロムスは杖を構えると四匹の攻撃を避ける事も受け流す事もせず、正面から堂々と横にした杖で受け止めた。
同時かつ一方向からまるで津波のように掛けられる四匹分の力。それに対抗する力はたった一つだけ。単純に考えれば四つの力の方が強いはずだが、クロムスの桁外れの筋肉はこれをいとも簡単に覆してしまった。
「この程度、トレーニングにすらならんわ!」
そう叫びながら大人が子どもを押し返すが如く力技で突き飛ばす。
だがヴェスパーは羽を振るわせそのまま空中に留まる事ですぐさま次の攻撃を仕掛け始めた。それは四匹の内の二匹が少しタイミングをずらしながら動き出す時間差攻撃。
迎え撃つクロムスは先頭のヴェスパーに完璧なタイミングで杖をぶつけると間髪入れず襲い掛かるもう一匹に対し素手で対応した。通常の人の倍以上はあるであろう腕から繰り出されるパンチは宛ら大砲。
しかし今のところ全ての敵を一撃で沈めているクロムスに対して臆する様子を微塵も見せていない残りの二匹。そしてウェイルを構え勇敢にも立ち向かっていくが、その二匹もあっという間に杖の餌食となった。
「貴様らに足りてないのは筋肉だ! 鍛え直して来い」
するとその時、表の戦闘音を聞きつけてか巣の中からは更なる増援がぞろぞろと溢れるように姿を現した。その数およそ百匹ほど。
「いいだろう。儂がまとめて鍛えてやる」
だがクロムスはその圧倒的な数に怯えるどころか、むしろ不利があるとは思えないほど自信たっぷりに杖を構えた。
一方その様子を後方の茂みから見ていたシグルズ一行。
「あーあ。あんなに兵隊ヴェスパーが出てきたよ」
「クロムスさん! このアステリア。手助けいたします!」
酒場の時とは変わり漆黒の鎧に身を包んだアステリアは茂みから立ち上がるとクロムスの元へと駆け出した。その途中腰に差していた黒い剣を右手で抜きながら。
「うちらはどうします?」
そんなアステリアの後姿を眺めながらフィリアがシグルズに尋ねる。
「まぁ、あの二人なら大丈夫だろ。ちょっと様子見だ。元はと言えばあの二人の食べと飲み過ぎが原因だし。あとおっさんの借金」
そんな会話をしている間にアステリアも戦闘へと参戦していた。
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