金欠パーティー4

「いやぁ。それはほんとごめん。みんなとご飯食べてるとついつい楽しくなっちゃってお酒も進んじゃうんだよね。今度からちゃんと飲み過ぎちゃった分は払うからさ」


 そしてそのままアステリアはシグルズの丸まった背に手を回した。


「今までの飲み過ぎちゃった分とごめんねの気持ちを込めて何か欲しい物があるなら買ってあげるから何でも言って。あんまり高いのは無理だけど」


 その優しさの込められた言葉に、今にも泣き出しそうな顔を上げたシグルズは彼女を見上げた。


「そんな顔、シグルズには似合わないよ。でも、辛いなら泣いてもいいんだよ? アタシが傍に居てあげるから。だから気持ちが落ち着いたらいつもの素敵な笑顔で笑ってね」


 そのまま自然な流れで両手をシグルズの頬へと伸ばし顔を包み込んだアステリアは、相手を安心させるような微笑みを見せた。その笑みと言葉に、シグルズは荒れた心へ爽やかな風が吹くのを感じていた。


「それと今度から何かあったら遠慮せずに言ってね」

「アステリア……」


 ほんのりと頬を赤らめ別の理由に涙腺が少し緩む。今のシグルズにはアステリアがいつもの三倍増しでカッコよく見えていた。

 そしてアステリアは両手を広げ、それに応えたシグルズも両手を広げる。

 だがこの感動的シーン直前で監督からカットが入ったようにシグルズはふと我に返った。


「あぶなっ!」


 両腕を広げながらもアステリアから適度な距離を取った。


「ちょっと落とされかけたわ! あぶなっ! 勝手に人の乙女心を引きずり出しやがって」


 シグルズの両腕はそのまま身を守るように自分で自分を抱き締めた。

 一方で依然と両腕を広げその瞬間を待つアステリア。


「あれ? 仲直りのハグは?」

「そんなもんない」


 素っ気なく返すと両手を離したシグルズは立ち上がり皆の方へ視線をやった。

 そんな彼の横でアステリアは一人静かに広げた両腕を下ろしていた。


「とりあえず俺たちは金欠だ。その所為で五人もの人数が一部屋に寝泊まりしてるってのが現状だ」

「だから最近は一部屋なんですねぇ。まぁうちは寝ないからいいですけど」


 フィリアは納得した様子で頷いていた。


「儂も一向にかまわんッ」

「おい止めろ! うちに著作権料を払う余裕はない!」


 透かさずシグルズは突き刺すように指差した。


「僕も同じ部屋でも平気かな。ゴホッ。咳がみんなに迷惑かけてないといいけど」

「いやいや、おっさんのイビキに比べたら無音ですよ」

「アタシも今のままでもいいかなぁ」

「お前は一人でベッド使えるからだろ。俺なんてこんなガチムチと添い寝だぞ! 威圧感がすごいんだよ。朝起きた時とか特に」


 感情そのまま又もやクロムスを指差すが当の本人は笑っていた。


「それは仕方ないですよ。ベッド二つしかないし。うちは寝ないから使わない、ゴル君はソファで寝てる、アーちゃんはたまに寝ながら近くにあるもの殴るから、一緒に寝るのはロシアンルーレットだしね」

「おっさんの筋肉なら大丈夫だろ」

「儂の筋肉に敵無し!」


 自信に満ち溢れたクロムスはポーズを決め自慢の筋肉をアピールしていた。


「早朝血みどろ事件を忘れた?」


 その言葉にシグルズの脳裏ですぐに引き出された記憶は鮮明だった。


「あーそうだった。野宿した時におっさんとアステリアが隣同士で寝て、朝起きたら地面が血塗れだったことがあったな」

「あれかぁ。懐かしいな」


 物騒な内容であるにも関わらずそれを思い出すアステリアの表情は何故か和やかだった。


「確か寝ている間クロムスさんの胸板を殴り続けてたみたいだけど、クロムスさんは無傷で逆にアタシの拳がボロボロになっちゃったんだよね。さすがクロムスさんの筋肉です」

「今はあの頃より更に強靭になっていること間違いなし」


 更に別のポーズを取るクロムルからは圧倒的な自信が感じられた。そんな彼にアステリアだけが称賛の拍手を送る。


「結局このままだとガチムチと添い寝するしかないのか」


 一人シグルズは溜息と共に落胆の声を零した。


「アタシの隣はいつでも空いてるぞ。最近は寝相もいいし」


 そうクロムス同様に自信に満ちた表情を浮かべるアステリア。

 だがシグルズは眉を顰め露骨に嫌悪的な表情をしていた。


「嫌に決まってるだろ」

「なんでよー」


 少し口を窄めたアステリアの声は不満げ。


「前に一回、弾丸引いた時に歯がもってかれたからだよ。お前が一緒だと寝ることへのリスクが高すぎんだよ」

「そうなってくると我慢するかもっと部屋を借りるしかないと思うよ」


 言葉の後には相変わらずの咳が聞こえた。


「そうなんですよゴルドさん。だから依頼をこなして金を稼ぐぞ! ――フィリア。割のいい依頼は受けてくれたか?」

「はい。ばっちりいいのを選びました」


 白い指でグッドサインをしながら答えるその表情は恐らくだが少しドヤっている。


「よし! いざ、マネーゲット!」

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