金欠パーティー6
圧倒的人数差によりどうしても一対複数もしくは二対複数を余儀なくされる二人。
だがアステリアは足を止めず動き続けることでその不利を限りなく減らしていた。そして華麗で流れるようにかつ俊敏に――その身体能力を存分に活かし戦っていた。
剣で一文字を描きェスパーの首を刎ねたアステリアに休む暇などなく、左手から新手が襲い掛かる。しかし死角からの一撃だったにも関わらず、まるで見えているかのようなタイミングでしゃがみ躱すとそのまま足払い。受け身をとることもできず地面に倒れたヴェスパーは立ち上がる一瞬の隙すら与えられず頭を剣が貫通し止めを刺された。
するとその瞬間を見計らうかのように、アステリアの後方から更なる別の敵が狙いを正確に定めウェイルを突き出した。その攻撃に対し地面のヴェスパーへ突き刺したままの剣を支えに前転跳びでもするように反対側へ。攻撃を華麗に躱すととそのまま体の向きを敵の方へ変えた。
そして着地と同時に剣を抜きながら間合いを一気に詰め――両手で握った剣を一閃。
「ふぅ。にしても――」
だが真っ二つにされたヴェスパーが地面に倒れきるのを待たずして、上空からは二本のウェイルがアステリアを狙う。その気配を感じ取るや否や一息つく間もなくバク転で大きく退き先程のヴェスパーの死体傍へ着地。彼女がつい数秒前まで立っていた場所では、交差したウェイルが地面に突き刺さっていた。
そして空振りに終わったそのウェイルを持ちながら、二匹のヴェスパーの顔は同時にアステリアへと向いた。目が合うと彼女は先手を取り足元に落ちていたウェイルを拾い上る。それを二匹の内一匹へと投げ飛ばした。
そして着弾を待たずに自身はもう一匹へ狙いを定め走り出す。先に投げたウェイルが狙い通り敵を貫通したのに少し遅れ、アステリアはもう一匹を斬った。
だがそんな彼女の背後には既に新手が――しかしその脅威は更に背後から振り下ろされた杖によりすぐさま排除された。
「助かりました」
「うむ。だがまだまだおるぞ」
言葉を交わしながら背中合わせになるクロムスとアステリア。そんな二人をぐるっと囲い、地上や上空には数えるのが億劫になる程のヴェスパーが今にも襲い掛かってきそうな様子でウェイルを構えていた。
二人が着実に駆除し続けるものの、中々減らぬ敵の数に茂みにいたシグルズはそろそろ戦闘参加を検討していた。それはゴルドも同じだったようで、一足先に立ち上がると隣の二人を見下ろした。
「ゴホッ! 流石にあの二人に任せっぱなしっていうのも悪いからね。そろそろ手伝ってくるよ」
そう言うと戦いに行く者とは思えない後姿で二人の元へと歩き始めるゴルド。
するとそんなゴルドの存在に気が付いたヴェスパーが一匹、ウェイルを構え横から突進してきた。その存在に気が付くのとほぼ同時に彼の体はウェイルに突かれ飛ばされてしまった。
「あっ」
それを茂みから見ていたシグルズは軽い声を上げた。だがそれは特に焦りもないただ目の前の事実に対して反射的に出た声。シグルズの中にゴルドの実力に対する信頼がある証でもあった。
一方で突き飛ばされ何回転もしたゴルドは咳をしながら重そうに立ち上がる。
「いたいなぁ。ゴホッ。ゴホッ!」
あまり痛さを感じられない口調でそう言いながら服に付いた砂埃を落とし始めた。急襲されたのにも関わらず随分と落ち着いた様子のゴルド。
だがヴェスパーはそうではなかった。巣を守る為、脅威をいち早く排除しようと必死なのかもしれない。そんなヴェスパーはまだ服の汚れを落としている最中のゴルドへ羽を震わせ少し宙に浮きながら再突進。しかしその単調な攻撃がそう何度も通用する訳もなかった。ましてや不意打ちでもない正面からの突撃など。
突き出されたウェイルをゴルドは脇で抱えるようにして受け止めていた。そして焦ることなく顔を上げる。
「あまり好きじゃないんだけど、これしないと戦えないから仕方ないよね」
そう呟くゴルドのマフラーからは微かに湯気のような白い煙が立ち上り始めた。
するとヴェスパーは突然逃げ腰になるとウェイルをどうにか抜き取ろうと藻掻き出す。それは恐らく生物の本能が警鐘を鳴らし逃走しようとしていたのかもしれない。もしくは依然と巣を守る為に武器を引き抜こうと必死なだけだったのかもしれない。
だがそれがどのトウソウ心なのか答え合わせをすることは叶わず、直後、ゴルドの握った拳の一撃がヴェスパーの顔を捉えた。その一発は肉眼では捉えられぬ速度のジャブ。気が付けばヴェスパーの顔は消えていた。それは消えていたという表現がピッタリなほど一瞬の出来事だった。
「ふぅー。やっぱこれするとあっついなぁ」
そう言いながらゴルドが脇に抱えていたウェイルを離すと、顔のないヴェスパーの死体も一緒に地面へと倒れていった。
しかしそんなゴルドは既に大量のヴェスパーに囲まれていた。だが彼の様子は相変わらずで平然としたまま。
するとマフラーと服に手を伸ばしたゴルドは、同時に体から引き剥がすよう一気にそれらを脱ぎ捨てた。厚着の下から現れたのは六つに割れた腹筋と無駄な肉のない大胸筋に血管の浮き出た腕。見事に鍛え上げられたその上半身は、普段のゴルドの印象とは懸け離れたものだった。
そしてゴルドは服とマフラーの後に靴と靴下も脱ぎ捨てた。
「あんまり好きじゃないけど、不思議とこの時は気分がいいんだよね」
陽の光を全身に浴びるように少し両腕を広げそう呟く。
だがそんな無防備な彼へ上空から三匹のヴェスパーが急降下し襲い掛かった。
しかしそれでも動き出す様子のないゴルドは、そのまま三本のウェイルが巻き上げた土煙に呑み込まれるてゆく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます