黒蜥蜴
乱歩さんに連れられて着いた所は一軒のお店だった。
「あやかし道具屋 黒蜥蜴」
「くろ、何て読むんですか?」
「くろとかげ、さ」
乱歩さんと一緒にお店の中に入る。
何やら札や仏像、薬瓶やらが雑多に置いてあった。
「不思議なお店ですね」
「もしかして、あまり耐性がないのかい? こういうの見るのは初めて?」
「ええ、はい」
「でも、ここに迷い込んだってことは何かの運命、そうだ、きっとそうだよ!」
「乱歩さん?」
「最近バイトが進学で辞めてさあ、人手を探してたんだよ」
「はあ……」
「うちは陰陽師の使う札とか寺に納める仏像とか、そういう類のものを配達する店だよ」
「へえ」
何だか話が見えて来ない。
乱歩さんが一人で勝手に決めているような感じだ。
「まゆり、うちで働かないかい?」
そういうアトラクション?
ここは勿論……。
「ええ、働かせてもらいます!」
ノるしかないでしょう!
「そうと決まれば早速、仕事をしてもらおうかな」
「はい! やらせて下さい!」
「お得意様の化野白夜さんの所に行ってもらおうかな」
「あだしの、びゃくやさん?」
変わった苗字だなあ。
「最初だからアタシも一緒に行くよ。付いてきな」
乱歩さんは店の中から多分、商品の札や木の枝を漁って段ボールの中に入れた。
「何ですか、それ」
「これかい? 陰陽師が使う札と榊さ」
「へえ、やっぱり陰陽師とかもいるんですねえ」
そういう世界観、好きかも!
「そりゃあ、いるさ」
「では早速、その化野白夜さんの所にレッツゴー、ですか?」
「そうだね。行くよ」
乱歩さんは店を出る時に「出かけ中」の札を扉の所に下げていた。
「化野さんの所は稲荷神社から向かうよ」
「は~い」
「その狐面をしっかり被っているんだよ」
「は~い」
あやかし横丁の道路に出て、改めて周りを見る。
和風な妖怪達が練り歩いている。
本当によく出来たアトラクションだなあ。
「着いたよ」
来た時とは別の真っ赤な鳥居。
そこを潜っていくと、神社に着いた。
「あっ、乱歩さん、いらっしゃ、こちらの方は?」
狐の耳と尻尾の付いた可愛い女の子がいた。
私を不思議そうに見ている。
「新しいバイトさ。ほら、自己紹介しな」
「はいっ、梅村まゆりです!」
「私は弥生。よろしく」
「弥生ちゃん、よろしくね!」
「自己紹介は済んだところで。はい、今日の届け物だよ」
乱歩さんが店から持ってきた段ボールを渡す。
「ありがとうございます」
弥生ちゃんが荷物を受け取ると、がま口財布を出して、お金を乱歩さんに渡した。
現代日本の貨幣じゃない。このテーマパーク特有のお金かな。
「今日のおやつ、桜餅だけど、食べていく?」
「えっ、いいんですか⁉」
私は乱歩さんを見る。桜餅いただいちゃってもいいかな?
「いいよ。一緒に食べよう」
「やったー! ありがとうございます!」
途中で、おやつが食べられるなんて、なんて素敵なアトラクションなんだろう!
「それじゃあ、まゆりさん、化野邸へようこそ」
私は弥生ちゃんに連れられて、神社の本殿の中に入った。
中は普通の日本家屋だった。
部屋に通されると、着物を着た金髪のイケメンがいた。彼にも狐耳が生えている。
「誰だ」
「あっ、私、梅村まゆりです! あやかし道具屋で働かせてもらってます」
「ふん」
愛想の悪いイケメンだった。
「こちらが白夜様」
弥生ちゃんが代わりに紹介してくれる。
「ああ、化野、白夜さん」
「桜餅、持ってきたよ」
次は狐耳の小さい男の子が台所から現れた。弥生ちゃんに似てる。
「双子の弟の雨月だよ」
また弥生ちゃんが紹介してくれる。
「二人とも可愛い! 尻尾もふもふした~い!」
「む。それはダメ」
雨月君が尻尾を押さえてガードする。
「え~、残念」
「こらこら、お客さんにお触りは禁止だよ。さっさと桜餅食べて退散するよ」
「は~い」
雨月君から桜餅を受け取った私と乱歩さんは、ちゃぶ台の側の座布団に座った。
「「いただきます」」
葉っぱを取って桜餅を半分に割って、口の中に入れる。
「はむはむ。美味しい~」
乱歩さんは豪快に一口で桜餅をぱくりと食べてしまう。
「ありがとう。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした!」
「じゃあ、荷物はもう渡したし、帰るとするかね」
「お邪魔しました~」
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