これは現実?
帰り道。
来た時と同じように鳥居を潜って、あやかし横丁へ帰る。
「まあ、仕事はこんな感じで妖怪達の所へ荷物を配達するんだけど」
「これでミッションクリアみたいな感じですか?」
「みっしょん?」
「このアトラクションも、けっこう濃密で楽しめましたし、これで、クリアでいいですよね? さあ私を元の場所に帰して下さいっ」
「ああ、幽世から現世に帰りたいってことか」
「かくりよ? うつしよ?」
「この妖達が住む世界が幽世、まゆりが普段暮らしている世界が現世」
「ああ、そういう設定でしたね」
「設定?」
役に没入してるんだなあ、乱歩さん。
「ああ、いえいえ、何でもないですよ」
「じゃあ、これからもよろしく頼むよ、まゆり!」
恐らく「またのご来店お待ちしてます」って意味だよね。でも残念、私は今日で京都ともオサラバなんだよね。
「ごめんなさい、乱歩さん。私、この世界とは今日でさよならなんです。だって京都と東京は新幹線で2時間も離れていますから。もう、しばらく京都の伏見稲荷には行かないかなって」
「かくりよへの入り口はそこだけじゃないよ。まゆりのすぐ側にもある」
またいつでも会えるよ的なことを言いたいのかな。
「前のバイトには渡してたんだけど……」
乱歩さんが店の奥から何やらアイテムを持ってきた。記念品的な?
「この遠眼鏡を逆さにして視るんだ。そうすることで幽世へ行ける」
乱歩さんが私にくれたものは古びた双眼鏡だった。それを普通、目を当てる側ではない方で覗けというのだ。
「あ、ありがとうございます」
「ああ、そうだ。まゆり、携帯電話は持っているかい?」
「はい、持ってますけど……」
「連絡先を交換しておきたいんだ。これで出勤連絡とかするからね」
乱歩さんが持っているのはガラケーだった。今時、スマホに替えていないのは珍しい。
ラインで友達登録したり、トゥイッターのフォローしたりするとクーポンが届くとか、そういうのの延長線かな?
乱歩さんは慣れない手付きでガラケーを操作しながら、私と連絡先を交換する。古のメアド交換だ。
「じゃあ、改めて、これからよろしく、まゆり!」
「あっ、はい、よろしくお願いします……」
このアトラクションは楽しかったけど、こんなにリピートの営業されることってあるのかな?
「今日はこれで終いだね。また出勤してほしい日にはメールするから、よろしく」
「あ、あの、そろそろ本当に帰りたいんですが……」
「ああ、そうかい。その遠眼鏡を通常の向きで覗くんだ。そうすれば帰れる」
私は言われるがまま、双眼鏡を覗いた。
すると、私の身体が双眼鏡に吸い込まれるような感覚がして、気付いた頃には見知った伏見稲荷大社の入り口が見えた。
「戻れたの? え、え、え、どんな仕組みで?」
私の頭の中はハテナでいっぱいだった。
もしかして、あの出来事はアトラクションなんかじゃなくて、本当に、現実に起こったことなんじゃ? 嘘嘘嘘、有り得ない! だって妖怪だよ⁉
確かめなくちゃ、と思った私は、乱歩さんからもらった双眼鏡を逆さで覗いてみた。
また、双眼鏡に吸い込まれるような感覚がして、気付いたら「あやかし道具屋 黒蜥蜴」の店の前にいた。
「乱歩さん!」
店の中に入った私は乱歩さんに詰め寄る。
「何だい、まゆり。まだ出勤連絡はしていないよ」
「乱歩さんは人間じゃないんですか⁉ 本当に⁉」
「何を今更、言ってるんだい。私は妖だよ」
「あの弥生ちゃんや雨月君、化野白夜さんも⁉」
「狐の妖だね」
「う、嘘……」
「本当さ」
梅村まゆり、高校2年生。
私のバイト先は、あやかし道具屋です。
あやかし道具の配達屋さん 夢水 四季 @shiki-yumemizu
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