ROUTE:小田ひなた
第13話 いつか見た夢
『ねえ……パ? ママはど……にいったの? わたし、ママに会……い』
『……マはね。遠い所に……ったんだよ。だ……ら今は会い……けない……だ』
『どう……て?』
『よく聞き……さい……た。ママは────』
「っ……!」
耐え難い頭痛により
こう何度も見せられては覚えてしまうのも必然的。顔やハッキリとした話声は覚えてないが、見る度に段々と鮮明になってきている。父親のような男が子供を説き伏せる夢。その夢は、私の過去に結び付けられている気がしてならない。
「行ってきます」
返事などない。私は逃げるように家を出ていく。
────
──
「うおおおぉぉ佐藤〜!! 我が心の友よ〜!!」
「うがっ……離せ暑苦しい!」
放課後
「うむ、確かに受け取った。歓迎するぞ佐藤クン、ようこそ新聞部へ」
先生はそう言って俺の肩に手を置く。そう、俺は新聞部へと入部する決意をした。先週までどの部活へ入ろうか迷っていたが、今週新聞部の見学をして一目惚れをしてしまったのだ。ただ新聞を作る部活かと思いきやとんでもない。様々な地域、他県、あるいは国外へと赴き取材をし、情報をまとめて自身らで編集作業を行う。そして一年をかけて1部の盛大な新聞を作るんだ。その壮大な計画のもと作られた新聞は、一般の新聞と一緒に売りに出されるという。ちなみに配達、印刷などのにかかる巨額の費用は全て理事長……父さんの私財で賄われている。どんだけ金あんだよ。
まあ、とにかく俺は新聞部の仲間入りを果たした訳だ。面白そうな活動内容も決め手の一つだが、何より顧問が担任、クラスメイトが二人いるという安心感も大きかった。この学校に転校しに来て初めてできた友人、そして唯一の友人でもある
「今年のテーマはもう既に決まっていてな。それはズバリ、食だ。地域、国、古今東西のありとあらゆる食文化を追及する。それが、今年我が部が取り組むネタさ」
「食、すか。テーマがかなり広いですね。漠然としてて、どういうネタになるのか分かんないですけど……」
「漠然としているその分、ネタの幅は多様さ。食べ物そのものを取り上げてもいいし、各地のテーブルマナー、食の歴史などな」
そう言うと先生はツカツカとホワイトボードの方へ歩いて、部員たちに向き直る。
「では、これより班分けを行う。一年諸君や新入部員の皆の為に今一度説明するぞ」
「センセー、一年はいないし、新入部員は佐藤だk──」
近くにいた木柴がそう言い終える前。ゴシャァという鈍い音と共に、彼の顔面は北条先生の拳によって鮮血で染まりきる。頬でも頭でもない、顔面ど真ん中。引くほど躊躇のない
「班は主に編集班、取材班の二つに分ける。今年は7人か……編集4人、取材に私を入れて4人でいいだろう。せっかくだ、佐藤クン君が好きな方を選んでくれ」
先生は拳についた血を舐めながら俺にそう促す。ううむ、編集作業も楽しそうだが、色んなとこ駆けずり回る方が面白そうだ。ここは取材班に回ろう、見聞を広めるにはいい機会だしな。その意思を伝えると、先生は微笑み、俺の頭に手を置く。くう、頭を預けるような年齢でもないし、皆の前でやられるのは正直恥ずかしいんだが、それ以上に先生の頭撫でが心地よく感じている俺がいる……。
「よし。では君は私と各地の取材だ。あと二人はそうだな……クラスメイトであるサルとひなたサンが妥当だろう。二人ともよろしく頼むぞ」
「……! はい、分かりましたっ」
「あ″……あ"い″……ゴフッ」
血反吐を吐く木柴を横目に、小田さんと目が合う。彼女は薄く笑うと、宜しくねと小声で言う。俺はそれに相槌で答える。反則だぜその笑顔は……思わず彼女の顔をまじまじと見てしまう。それに気付いた彼女は、少し恥ずかしそうに笑うと、再び先生の方へと向き直る。
「編集の方は他の四人に任せた。三年の
「「はい」」
班分けを終えた後は、机を並べて簡易的な会議をし、今日の活動は終わった。来週から本格的な活動に入るとの事。取材か、どこに行くんだろうな。俺は内なる高揚を抱えながら部室を後にする。
扉を開け帰ろうとした矢先に、角の隅で北条先生と小田さんが小声で話し合っているのに気が付く。何話してるんだろう? 悪いとは思っていたが、俺は興味本位で立ち聞きすることにした。
「ありがとうございます先生。私の我儘を聞いてくれて」
「いいんだ。本来は教師として止めるべきなんだろうが、私はできるだけ君の本意を尊重したいからね。だが、くれぐれも無理はしないように。少しでも異変を感じたら、私にすぐ報告するんだぞ」
「はいっ」
やり取りを終えた後、二人はそのまま過ぎ去っていった。うーん、断片的すぎて何の話をしてるのか分からなかったな。異変ってなんの話だ?
「佐藤君、だったかな。ちょっといいかい」
部室の方、すぐ後ろで俺を呼ぶ声が聞こえる。振り返ると、やたら身長の高い男が俺に向かって小さく片手を挙げていた。確か三年生で木柴以外にいる唯一の男、風間と呼ばれていた人だ。
「あ、大した用事じゃないんだけど。一応部長として挨拶をね。僕は風間
「あ、はい。宜しくお願いします」
眉目秀麗の偉丈夫。見た目からして頼りになりそうな先輩だが、何故その恵まれた体格で運動部にいかなかったのか不思議だ。うーん。そうして俺が腕を組んだと同時に、木柴が扉からひょっこり顔を出してきた。
「おーい、佐藤ー。一緒に帰……あれ、フーマ先輩じゃん。二人で何喋ってたんだ? まあいいや、せっかくだし先輩も一緒に帰りましょうよ」
「うん? ああ、いいよ。どうせ寄り道するんだろうけど……」
「へへっ、そりゃモチロン。ほら行くぞ佐藤……って、おま!」
突然木柴が俺達の後方を指差して叫ぶ。指の先には角で腕を組み、じっとこちらを見つめる色黒で筋骨隆々の大男がいた。な、なんだあの筋肉……ホントに高校生か? あ、こっちきた。
「木柴……そろそろ決心ついたか?」
男はドス低い声で木柴に声をかける。なんだこの男。決心って一体なんだ? 闇金に手を出したけど返済出来ないから、マグロ漁船に乗るという決心なんだろうか?
「だーもう、しつけーんだよ水黒! 俺は新聞部の善良な生徒なんだ、いい加減諦めろっつーの!」
木柴はイライラした様子で男をビシッと指差す。オイオイ大丈夫かよ、そんな言い方して……漁船乗らされるだけじゃなく腎臓も取られるぞ。
「くそ、もう知るかよっ。ほら、とっとと帰ろうぜ2人とも!」
「え、いいのかい? 彼は君に話があったんじゃ……」
「いいんすよ! あんなゴリラほっといて帰りましょう!」
そう吐き捨てると、彼を一瞥した後にスタスタと歩いて行ってしまう。あーあ。アイツもう腎臓とついでに網膜も取られたな。俺と風間先輩は顔を見合せてため息をつくと、頭をボリボリ掻きながら、木柴の後を追った。
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