第8話 こんにちは理事長
「なあ父さん、生徒会って部活両立できんのかな?」
帰宅後、のんびりコーヒーを飲んでる父親に尋ねてみる。まだどちらも入ると決めたわけではないが……新聞部も生徒会も興味があるのは確かだ。ダブり可なのかだけは聞いておきたい事なので、ここは光宙教職員の父を頼るとしよう。父さんはコーヒーを飲む手を止め、意外そうな顔をして俺に聞き返す。
「ほう……生徒会に興味があるのか? まあ両立できない事はないが、生徒会は相当忙しいからな。部活はあまり活動できないかもしれん。モテたいだけで入るつもりなら止めておいた方がいいぞ〜?」
父はニヤニヤしながら顎に手をやる。俺が生徒会にモテたいから入ると邪考察しているらしい。俺はムスッと、声音を若干強めにして言い返す。
「生徒会長の上杉にスカウトされたんだよ。俺が欲しいって、すごい言ってきたんだぞ」
「上杉が……? あーはっはっは! そうかそうか、はっはっはっはー!」
クソ親父は声高らかに笑う。このヒゲ……そのコーヒーPCにかけるぞコラ。もういい、両立出来なくはないという情報を得る目的は達成した。治ったとはいえ、今日は卒倒するくらいの怪我をしたのだ。もう休んで寝よう。俺は笑う親父におやすみを言わず自分の部屋に戻ることにした。
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翌朝、午前中の授業を終え、昼休みに入る所で、チョンチョンと肩を北条先生につつかれる。一体なんだろう、そしてなんで肩をつついていた指はほっぺに移動してるんだろう。痛い痛い、グリグリしないで。
「佐藤クン、ちょっといいかね My student」
「はひ、はんふぇすか……?」
「実は……今朝君に理事長のお呼び出しがあってね。お昼に校長室へ来るように言われているんだ。あの方は理事長であり校長でもあるけどね」
「え、なんかしたのかな……俺個人の呼び出しすか?」
「そうだ、理事長は佐藤クンをご指名だ。何、心配いらないさ。転校生だから不安もあるだろうから少しお話をとのご意向だ。あのお方は生徒に真摯に向き合うお人なのさ。フフ、優しいだろう?」
北条先生は少し顔を赤くして恥ずかしそうに目を背ける。うわちゃー、この人理事長にホの字なのか。分かりやすい人だな……人をさんざんからかうクセに自分の事になると少女みたいだ。俺の冷ややかな視線に気付いたのか、先生はわざとらしく咳をして俺に向き直る。
「さあ、あまり待たせては私が怒られてしまう。直ぐに行ってきなさいな。校長室の行き方は分かるかね? このまま娯楽棟にいってもいいが、一旦外に出た方が近道だ。まず教室棟を西に出て反対側から娯楽棟に行き、地下の光宙鉄道の入り口行って、そこのホームの9と4分の3番線に行くんだ。その方が早い」
「え、校長室って魔法学校なの?」
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色んな人に道を聞きながら、なんとか無事に校長室へたどり着く。北条先生のルートは意外にも言われた通り(後半は大嘘)近道だった。
大理石で敷き詰められた廊下を歩き、3mはあろう、厳格な雰囲気を見せる木製の大扉の前に立つ。見たことはないが、王城の謁見の間という例えが一番しっくりくる。この要塞学園都市を造り上げた敏腕理事長……一体どんな人物なんだ。俺は固唾を飲み深呼吸をし、扉をノックする。
「失礼します。2-Aの佐藤です。お呼び出しとの事なので伺いました」
返事はない。不在なのか? しかし鍵は空いている。俺は恐る恐る扉を開けた。
中は、生徒会城に似た豪華な内装であった。校内をあんな魔改造するような人物だ、自室がこんなでも今さら驚きはしない。けど、部屋の奥に佇むその白物を見た瞬間、俺は自らの目を疑った。ランボルだ。マジのやつ。3000万は軽く越えるスーパーカー。え、なんで? 何故その誰もが羨む高級車が室内に? てかどうやって持ってきたんだ?
ああ、あまりにも頭が痛い事がありすぎる。一体なんなんだこの学校……そしてその手前、後ろ姿で立っていたスーツの男がいるのに気が付く。扉を開けて目の前に写るランボルの破壊力が凄すぎて、人がいたのに気付かなかった。恐らくこの男がこの学校を造り上げた理事長兼、校長だ。その男はゆっくると振り返る。
「やあ、佐藤君。こんにちは」
威圧感さえ感じる漆黒のネクタイとスーツを着たその男は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。外見は、30代に見えるが50はいっている感じ。男は年齢にしては引き締まった身体をしており、白髪交じりの短髪、鋭い眉と眼光、お洒落を意識したアゴヒゲを蓄えたよく知っている男だった。俺は数秒の間を置き、魂の叫びを室内に響かせる。
「なんでいるんだ親父ィィィィィッッーー!!!」
「あーっはっはっはー! どうだ、驚いただろう佑樹! 私が理事長兼、校長! 佐藤
「はあああぁーー!? マジで言ってるのか!? 父さんが理事長ォォ〜〜!?!?」
理解が追い付かない。この学校を魔改造した張本人、要塞学園都市のトップが実の父親……? 今まで隠してたって事か……? とにかく、言いたい事がありすぎる! けど、父さんはそんな俺を待った、と手で静止させる。お見通しらしい。
「色々言いたいことはあるだろうが、それは家で話そう。HRもあるし、時間がないから本題だけ話すぞ佑樹」
時間無いなら事前に話しておけよ……いや、この父さんの性格だ。どうせ聞いても、息子の驚く顔を見たかったからだと鼻を高くして言うのが目に見えている。
「単刀直入に言うぞ佑樹。生徒会か部活に入るつもりはないか? 昨晩、上杉に生徒会に誘われたと言っていただろう? それを聞いて、丁度いい機会だと思ってな……」
はぁ? なんだそれ。昨日は入らない方がいいとか言ってたくせにこの親父はもう……会長に誘われたって話も結局信じてたのかよ。
「話が見えない。何が丁度いいんだよ」
「フッフッフ……それはまた別の時に話してやろう。さあ、入るか、入らないか? HRまで時間はないぞ」
……はあ。この人はいつもそうだ。俺に決断を迫る時は、絶対に時間が無い。曖昧な答えは許さず、その場で決めさせる策略は我が父ながら見事だよ。
「……分かった、入るよ。俺。元々入る方に傾いてたしな」
「そうか。よく決断したぞ佑樹。さすが私のキン○マから出てきただけの事はある!」
「言い方考えろ! ったく、後でホントに理由教えてくれよ?」
「ああ、言うとも言うとも。よし、早速これを渡しておこう」
父さんはそう言って懐から取り出した紙切れを俺に渡す。なんだこれ? 紹介状? えーっと、ゲーム部と茶道部……?
「生徒会はまだしも、部活動は新聞部だけの選択肢だけでは無いからな。辛うじて入部出来る部活を見つけてやったぞ。さっそく今日放課後行ってみろ……まあ、その3つ以外は満員か締切らしいが、そこは転校生の宿命として受け入れてくれ」
「ふーん、まあいいけど……」
紙をポケットに入れると、同時にHRの予鈴が鳴る。うわあ、マジで時間無かったんだ。俺は父さんに行っていいよなと目で合図をする。
「ああ、理事長の息子として遅刻は許さん。行った行った。あ、くれぐれも私とお前が親子だという事は内密にな。さもなくばお前を転校させるから」
「言わねーって。どこに転校させる気だよ……」
「パプアニューギニアだ」
「パプアニューギニア!?」
「国立パープリンファッキンハイスクールだ。通称パプ高だ」
「パプ高!?」
南太平洋の学校に飛ばされる前に早く教室に戻らなければ。俺は小走りしながら、ポケットから紹介状を取り出す。茶道部とゲーム部か……茶道部はなんとなく分かるけど、ゲーム部ってなんだ? eスポーツの部活なんだろうか? うーん、気になるな。日時を見ると、今日がゲーム部の見学で、明日が茶道部の見学になっている。ふうん……ま、行ってみるか。俺は紙をポケットに再びしまい、走りを早めた。
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