サッカー・ウォー ~インドア文化部男子VSサッカー部のエース

三ツ谷おん

サッカー・ウォー

 突然だが、俺は今とんでもないカオスに巻き込まれている。

 周囲の仲間たちが、次々と叫び声を上げながら敵に突撃していく。

 そして俺も今、そこに加わろうとしていた―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 事の発端は一か月前だった。


「お前ら、今日からサッカーをやるぞ!」


 熱血漢として有名な体育教師が宣言し、クラスカースト上位の男子たちがいつも通り騒ぎ出した。


「ちなみに、最後の授業ではクラス対抗の試合を行う! 優勝したクラスにはトロフィーを贈呈する! 結構高い奴だぞ! 皆、全力で練習する事!」


 体育教師が大声で言い、呼応するようにカースト上位の男子たちが叫びを上げた。

 はぁ、くだらねぇ。

 俺は心の中でため息をついた。

 サッカーというスポーツは、プロの選手がやるからスポーツとして成立するんだ。野蛮な学生がやったらそれはもう、ボールを持つ者に徹底的に突っ込んでいくだけの蛮族の戦いになるに決まっている。

 こんなのはサッカー部だけが無双すると決まっている。適当に隅の方に隠れておいて、さっさと敗退しよう。そう思っていた。


「谷田も、優勝目指して頑張ろうな!」


 クラスのリーダー的存在の男子、一ノ瀬に話しかけられてしまった。

 彼の目を見れば分かる。コイツ、滅茶苦茶燃えてやがる。


「お、おう…。頑張ろう、うん……」


 そんな熱そうな姿を前にして、やる気が無いなど言えるはずがないだろう。俺は適当に合わせる事しかできなかった。

 まあでも、インドア文化部の俺にボールをパスしようとする奴などいないだろう。だから俺は、ボールを巡った蛮族の戦いに巻き込まれることはない。そう確信していた。

 あとは、さっさと敗退してくれる事を祈ろう。

 俺は適当に練習期間を過ごしながら、そう考えていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ……はずだったのに、何故か俺のクラスはどんどん勝ち上がってしまっていた。

 今回のクラス対抗試合はリーグ戦。俺達一年生は全部で八クラスだ。

 俺達三組男子チームは、初戦で七組、二回戦で四組を破り、何故か決勝戦まで進んでしまった。


「ここで勝てば優勝だ……! お前ら、気合い入れていくぞ!」


 一ノ瀬の掛け声に呼応して、男子達が咆哮を上げる。俺も一応力の入っていない声で「お~」と言っておく。


「そういやさ一ノ瀬、お前何でそんなに気合入ってるんだ?」


 決勝前だからこそ聞いておきたいと思ったのか、一ノ瀬の取り巻きの一人、西山が聞いた。


「……俺がサッカー部なのは、お前らも知ってるよな。中学の時も、サッカー部だったんだ。三年の夏、俺はチームのキャプテンに選ばれて、総体に挑んだ。俺達は順調に勝ち進んで、県大会まで行けたんだ。そしてそこの最終戦、関東大会への切符をかけた戦いだった。

……負けちまったよ。一点リードされて、試合時間残り五秒で俺にパスされたボール。アイツらは俺に賭けてくれた。でも、俺はそれに応えられなかった……! これから俺が活躍することが、その事に対する罪滅ぼしになるとは思ってない。でも、サッカーで同じ思いは、二度としたくないんだ……」


 一ノ瀬が語った怒涛の過去に、皆何も言えなくなっていた。

 彼の覚悟を聞いて、俺は今までの自分の考えを思い直した。

 適当にやり過ごしたい。さっさと敗退したい。そんな事が、コイツの前で言えるか?

 俺だって、一ノ瀬には何度も助けられている。ここでそれに報いないのは、人として間違っている気がした。


(一ノ瀬……、俺も全力を尽くすよ)


 声に出すことはできなかったが、俺は心の中でそう誓った。


 決勝を戦う相手は六組だった。その中の一人を見た一ノ瀬の表情が凍った。


「お前は……、風間!」


 その名前は俺も聞いたことがあった。

 風間秀斗。

 サッカーにおいて圧倒的な実力を持ち、先日の大会でも上級生を抑えてレギュラーポジションを勝ち取った猛者だ。

 そして、一ノ瀬と風間の間には何やら因縁があるようだった。


「こうして決勝戦で戦うことになるなんてな、一ノ瀬。一年ぶりだな」

「あの日、県大会でお前率いるチームに負けたこと、一日たりとも忘れたことはない! 風間、今日こそお前に勝つ!」

「さて、お前にそれができるか、一ノ瀬」


 どうやら風間は、一ノ瀬が負かされたチームのキャプテンだったようだ。

 これは最早、クラス対抗試合なんてチャチな物じゃない。最強たちの、一年越しのリベンジマッチだ。そしてそこに、インドア文化部男子である俺が巻き込まれてしまった。

 これは……、まずい!


「では、試合を開始する!」


 先生の笛の音が、試合開始の合図となった。


「どけオラァ! ゴールを決めるのはこの俺だ!」


 開始早々、風間がリフティングでこちらに迫ってきていた。


「させるか!」


 風間の前に一ノ瀬が立ちふさがるが、風間の高度なテクニックでいなされてしまった。


「ヤバい! 誰か止めろ!」


 一ノ瀬が叫ぶが、エースである彼が止められなかった男を止められるはずがなかった。


「谷田! 蹴れ!」


 誰かが俺に向かって叫んだ。前を見ると、風間が高速でこちらに接近してきていた。


「退け!」


 風間が野太い声で俺を威嚇した。


「クソがァ! こうなったらもうヤケクソだぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は叫んで、適当に足を蹴り上げた。


「な、何だと!?」


 風間の驚く声が聞こえてきた。彼が保持していたハズのボールは、明後日の方向へと飛んで行っていた。


「ナイスブロックだ、谷田!」


 一ノ瀬がガッツポーズをしながらそう言った。

 どうやら、俺の足が偶然風間のボールに当たり、コートの外に吹っ飛ばしたらしい。


「谷田、その調子で頼むぞ!」


 一ノ瀬が俺の肩を叩いて言った。

 その時、俺は自分が何をすべきか何となく理解した。

 やっぱり俺は、一ノ瀬を勝たせたい。そのためなら、蛮族にも堕ちてやる。

 俺は覚悟を新たに、試合に臨んだ。

 ボールがスローインされ、再び風間の元に渡った。


「させるかよォ!」


 俺はすかさず、そこに突っ込んだ。


「何だお前、めんどくせぇな!」


 俺が立ちふさがり、動きが一瞬止まる。

 俺はフェイントをかけられ、風間の再走を許してしまったが、走り出しで一ノ瀬が颯爽とボールを奪っていった。


「一ノ瀬! お前ら、一ノ瀬を追え!」


 風間が指示を出すが、一ノ瀬は巧みなパスワークでそれらを全てかわしていた。


「行ける! 決まるぞ!」


 一ノ瀬のシュートはキーパーによるブロックを許さず、三組は一点を手に入れた。


「ナイス一ノ瀬!」

「谷田も良かったぞ!」


 一ノ瀬に交じってしれっと俺も褒められて、良い気分になっていた。

 その後、変わらず俺はボールを持っている相手にひたすら突っ込んでいったが、風間の機転により一点決められてしまった。

 そしてそのまま時間切れとなり、勝負はアディショナルタイムに持ち越しとなった。


「ここで決めた奴が勝者となる……。最後の勝負だ、一ノ瀬!」

「お前が何と言おうと、勝つのは俺達だ。お前じゃない!」


 最終決戦、ボールは早速風間の手に落ちていた。

 だが、皆この試合を通して動き方を理解したのか、風間の動きを多少は牽制することができていた。


「チッ…、ちょこまかとうっぜぇな!」


 だが風間の方も、確かな技術で一人一人いなしていた。


「皆! ここは俺が止めるから全員上がれ!」


 一ノ瀬の決死の指示が、戦場に響き渡る。

 俺達は一ノ瀬を信じて、敵側に上がっていった。


「お前に俺が止められるか、一ノ瀬!」

「止めなきゃ負ける、それだけだ!」


 一ノ瀬と風間が衝突する。

 次の瞬間、ボールが飛んでいったのは―――


「皆! ボールそっち行ったぞ!」


 一ノ瀬のブロックが成功していた。ボールはこちら目掛けて飛んできていた。


「谷田! お前がやるんだ! お前ならできる!」


 一ノ瀬が叫ぶ。ボールは俺の方に飛んできていた。


「やるしかねぇ…! 俺が決める!」


 俺はボールを受け取り、全力でボールを蹴る―――!


「………あれ?」


 確かに蹴ったハズだ。だが、感覚が無い。

 皆の絶望した視線を感じた。


「俺……スカしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 そしてそのまま、風間にシュートされて、俺達は負けてしまった。


「ああ……畜生、俺のせいで……!」

「気にすんな。お前に無理させた俺の責任でもある」


 うなだれていた俺に、一ノ瀬が語り掛けてくれた。

 一番悔しいのはお前だろ。それなのに、それなのにお前は……!

 俺は感じたことのない気持ちを覚え、気付けば泣きじゃくっていた。

 そして、次こそは必ず勝つ、と誓ったのだった。














 という夢を見たので、その反省を活かしてボールを蹴る練習を沢山した。

 そして本番で同じ状況になった時、俺は力強くシュートを撃ち、トドメの一撃を喰らわせた。


「谷田―! よくやった! お前のお陰だ!」


 一ノ瀬を始めとしたクラスの全員から、俺は英雄として称えられた。

 うん、やっぱりサッカー最高!

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谷田や一ノ瀬が活躍する蛮族シリーズはこちらからどうぞ!

https://kakuyomu.jp/users/onn38315/collections/16817330665664130136

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