目を覚ました男

@maccha-bari

第1話

目を覚ますと、どういうわけか、自分の部屋ではなかった。

暗がりの中ではあったが、確かにここは自分の部屋ではなかった。


戸惑いながらも体を起こし、ぐるっと辺りを見渡してみる。



――――広い。


それが、まず第一に抱いた印象だった。

壁が見えないほどに広い。


ふと視線を足へと落とせば、今自分が横になっていたものが真っ白なシーツと、薄手の掛け布団であることがわかった。


いや、待て、誰かいるぞ。


僕は立ち上がって、もう一度、今度は注意深めに辺りを見渡した。


僕のと同じようなシーツが並んでいて、おそらく中には同じく誰かが眠っているのだろうと予想できた。

そして、どうやらここは体育館のような建物らしいということもわかってきた。

床には、様々な色のラインが引かれていて、それは奥の方にある壁までずっと続いているようだった。

その線を追って、視線を徐々に上げていく、出口があるはずだと、思った。

そして、確かに出口はあった。


新月なのか、この暗闇のせいか、あるいはその両方か、とにかく視界は悪い。

それでも、僕は扉へ向かうほかなかった。

出口を抜けると、やはりそこは体育館だった。

でも一体どうして?体育館は、異様な静けさに包まれている。


僕はあまり考えないことにした。こういうのは底なし沼みたいなもんで、考えれば考えるほど、謎は深みにはまっていく。


外廊下のような通路を進んで、校舎の中に入る。

外を見て分かったのだが、ここには街灯すらない。

おそらく、今は夜中なのだろう。


校舎は、かなり新しく見えた。それは、単に綺麗という意味ではもちろんなく、劣化したり傷んだりした箇所がまったく見当たらないという意味でだ。

廊下は板張りで、裸足に心地いい。


すると遠目に、矢印の書かれた張り紙を発見した。

よく近づいてみてみると、矢印の隣に、「死体安置所」と書かれている。

それもどういうわけか、その矢印は僕が進んできたほうを指している。




――――いや、どういうわけか、という表現は適切ではないだろう。

僕は考えないことにした、底なし沼は、浸かりさえしなければただの泥にすぎない。


僕は矢印とは反対の方向へ歩き出した。


ややあって、また矢印を見つけた。今度は「避難所」


とても、嫌な予感がする。しかし、今の僕にはその矢印の奴隷になるほか選択肢がない。




避難所では、白熱電球による明かりと、人々の話声で充満していた。


避難所の一角の会話

「いやあ、まさかこんなことになるなんて」

「ああ、まったくだ。まさか自分がこれに巻き込まれるとは思ってもみなかった」

「でも、家族がみんな無事でよかったな」

「ああ、ほんとによかったわ。」

「お母さん」

「ああ、大丈夫、あなたが無事で本当によかった」

「今、何か音しなかった?」

「そうかしら」

「きっと、不安なんだよ」


彼は、光を浴びてしまったがために、成仏してしまったのだ。


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