第3話 怪奇調査団『うらめしや』
そうして数日後、やっとこの地域に溶け込み始めたある日のお昼、僕は水野さんに呼ばれて旧校舎の入り口にやってきた。歩いていくとそこには、転校初日で僕を笑っていた野手くんと、眼鏡をかけた女子、そしてクールそうな男子の三人が懐中電灯を持って待っていた。
「おっ?あの陰気な転校生じゃねぇか。水野、なんでこねーなヤツを呼んできたんじゃ?」野手くんはいつもの強めな口調で尋ねてきた。僕はそれに、つい下を向いて黙ってしまった。しかし、水野さんが野手くんの事を代わりに説得してくれた。
「何でってそりゃ...上野君は私の友達じゃけぇ、別にええじゃろ。それに、肝試しするなら人が多い方が面白いにきまっちょる!」
「でもなぁ...」そう言って分かりやすく渋る野手くんを、今度は隣りにいたクールそうな男子が続けて説得した。
「まぁまぁ、別に良いんじゃないか野手君。彼だって、水野さんから誘われてきたんだから。...上野君、クラスは確か別だったよね?僕は
「よ、よろしく...!僕は上野春斗。は...春斗でいいよ。」
「よろしく、春斗。」
「ほら、早う中に行くで。先生にバレると面倒じゃし、日が暮れると母さんに怒られる。」そう言ってせかした野手くんは、なんと躊躇せずに旧校舎の窓を開けて中に入っていった。流石にその行動に驚いた僕は、隣りにいた水野さんに確認した。
「ねぇねぇ、い...今からここに、何しに行くの?」それを聞いた水野さんは、ニコニコと笑っていった。
「幽霊調査じゃ!うち達いつも『うらめしや』っちゅう幽霊調査団で、こうやっていつも4人でやっちょるんよ。」
「ゆ...幽霊調査!?へ、平気なの...?そんなの、僕たちみたいな小学生だけで...」
「なに、普通に肝試しさ。ほら、春斗も早く入って。先生に見つかるとカンカンになって怒るんだ。」そう言って早瀬君は窓の中から、さっきと同じ様に手を伸ばしてきた。僕は一抹の不安を感じながらも、少年特有の未知への好奇心に駆られ、その手をしっかりと握り、窓を必死によじ登る。
ギィ〜っと軋む木の床に着地した僕は、その周りをじっくりと眺めた。旧校舎の部屋の中はしばらく使われていない様子で、床や棚には埃がたくさんあり、寂れた不気味な感じが、昼間なのにも関わらず周囲に漂っていた。
「ようこそ、『うらめしや』へ!ここは、昔の校長室やったところじゃ。ほら、まだソファと机がある!」そう言って水野さんが校長先生が座るソファと机を指さした。しかし、僕の隣りにいた野手君はそれに呆れたような顔をして、そそくさと部屋の扉へ歩いていった。
「そねーなのどねーでもええ。ほら、早う目的の『無限階段』まで行くで。時間はそねーにないんじゃ!」そう言って野手くんは部屋の扉を開けて廊下に出た。僕らもそれに釣られるように廊下に出た。廊下はさっきの部屋以上に不気味な雰囲気が漂っていて、イスや机が散乱し、割れた窓ガラスもそこらに落ちていて、まさに『いかにも』な感じだった。僕は早瀬君と水野さんの後ろにべったりついていきながら、ギィ〜っ、ギィ〜っと軋む廊下を五人でゆっくりと練り歩いた。
「ね...ねぇねぇ、早瀬君。」
「ん?どうしたの春斗。何かあったかい?」
「その〜。何か早瀬君、他の人に比べて、言葉の訛りが全くないなーって思ってさ...」それを聞いた早瀬君はニコッと笑って言った。
「あ〜なんだ、そんな事か。僕も君と一緒で、この地域の出身じゃないんだよ。」
「え?ど、どこ出身なの?」
「東京さ。小学校に上がるタイミングでこの地域にやってきたんだ。君は、どこの出身なの?」
「僕は横浜だよ。あの...神奈川県の。」
「へぇ〜!そうなんだ、だからこんなに親近感が湧くのかな?」
「そうなんじゃ、上野君も早瀬君と一緒で『シティボーイ』なんよね!」
「イヤイヤ、そんなんじゃないよ。あはは...」そんな会話をしていると、先頭の野手くんが手を出してピタッと立ち止まった。その視線の先には、小さな赤いステンドグラスの窓がある階段があった。その階段はかなり古そうだが何故かほこりが少なく綺麗で、少し異質な雰囲気を醸し出していた。
「ここじゃ。噂の『無限階段』は。よし...さっそく調査に行くで。」
「...あ、あの〜...」
「今度は何じゃ。まさかお前、今更怖くてビビっちょるそか?」
「いやそうじゃなくて。そのさっきから言ってる『無限階段』って、一体何なのさ?僕にも教えてよ。」そう尋ねると、さっきまで口を開いてこなかった眼鏡の女子が急に饒舌になって喋り始めた。
「『無限階段』は、この校舎に昔からある奇妙な噂のことよ。どれだけ行っても上の階がないし、どれだけ行っても一階に行けない。しかもその階段には、『階段おばけ』っていう黒いおばけのが居るらしくて。もし無限階段に囚われた人は、そこで一生階段おばけと鬼ごっこをしなくちゃいけないって言われてるの。」
「え...な、なにそれ...すごく怖そうなんだけど...」
「ハハハ!そねーなの嘘に決まっちょるじゃろ!何本気にしちょるんや。そねーな噂はありえんって事を、この野手
「...はぁ。...えっと、上野君でしたっけ?はい、懐中電灯。」そう言って懐中電灯を僕に渡してきた眼鏡の彼女は何も言わず、不機嫌そうな顔をしたまま階段を昇っていった。突然の事に呆気にとられていると、後ろから早瀬君が耳打ちで僕に話しかけてきた。
「初対面だし、やっぱり驚くよね。彼女は
「そ、そうなんだ...色々教えてくれてありがとう、早瀬君。」
「フフ、透でいいよ。」そう言って僕らも二人の後を追った。
壁の赤いステンドクラスの窓からは、恐ろしい二つの鋭い光がチラチラと斜陽していた。
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