第2話 初めての出会い

 「んんっ、うっ...ここは...?」気がつくと僕は黄色の草むらの中で寝ていた。周り一面には赤い彼岸花が咲いていて、夜なのにまるで日が差しているかのように明るかった。そうして周りを見渡すと、その先には海が見える崖があって、そこには白い着物を着た色白の少女が一人で立っていた。僕に気づいて振り返った彼女の唇は、そこらに生えていた彼岸花よりも赤い色をしていて、頬は薄いピンク色をしていた。そうして数秒の沈黙の後、少女が口を開いた。


「私の事をおぼえてて。此の景色を、此の姿を。」


 次に気が付くと、僕は布団の上に寝ていた。時計のアラームが鳴っていたのですぐに止めて、僕は静かに今のを考えた。あの子は誰だったんだ?あそこは一体...ただの夢だったのか?そう考えていると、お母さんがふすまの扉を開けて入ってきた。

「あれ、起きてたの?それなら早く来なさい。もう朝ごはんできてるわよ。」今のは夢か...僕はそう考えて、記憶の片隅にとどめておきながら、スリッパを履いて居間に行った。そこには、おばあちゃんが作った焦げ気味のトーストパンが2枚と、牛乳がコップ一杯あった。


 黒いランドセルを背負って、僕はお母さんと一緒に学校へ向かった。ここの学校は昔の作りの旧校舎とあたらしい新校舎があって、木造の二階建ての旧校舎と渡り廊下で繋がっていたが、今はもう旧校舎を使っていないらしい。そうして職員室で新しい担任の先生と出会ったら、お母さんはすぐに車で仕事に向かった。仕事先は、下の港町の保健所らしい。


 「さ、ここが君の新しいクラスだ。入っていいよ。」と先生に言われたが、流石に緊張してしまい、僕は下を向きながら静かに入っていった。

「皆さん、この子が新しく来たクラスメイトですよ。上野くん、皆に自己紹介をしてくれないか。」と言われたので、「あ...えっとどうも初めまして、上野春斗です。神奈川県の横浜市から来ました。これから...よろしくお願いします。」と僕は下を向いたまま言った。すると、一人の男の子が僕に言ってきた。

「なんじゃ、大都会から来るけぇぶち面白いやつじゃと思うたそに、期待外れじゃのぉ。」するとクラスの皆はクスクスと笑った。担任の先生は、「こら野手のと、緊張してるんだからそう強く言うな。」と彼を叱った。僕はなお、下を向いたままだった。


 授業が終わって、お昼の給食になった。近くの席の子と机を寄せて食べていると、一人の女の子が話しかけてきた。

「ねぇねぇ、なんで都会からこの地方に来たの?こねーなところ、なんにもないでしょ?」僕はその子に言った。

「ここは都会と違って山や畑がある。ビルしかない都会と比べれば、こっちの方がたくさんあって面白いよ。」すると彼女は笑って答えた。「そうなの?なんかそう言われると住んでるうちも嬉しくなってしまうな。えへへ。」彼女の名前は水野千弦みずのちずる、この地域に五歳から住んでいるらしい、どうりで、他の子に比べて言葉の訛りが少し弱いのか。新参者の僕も、それなりに理解することが出来た。


 その後の授業も終わって学校から集団下校で帰る時、僕はあの子と一緒に途中まで帰った。この地域にきて初めての友達になれたその子に、僕はつい質問をしてしまった。

「ねぇねぇ、み、水野ちゃんって、その...好きな人とかいるの?」

「えっ?どうしたん急に?」

「いや...その〜、知りたいなって...思って...」彼女は少し考えながらこう言った。

「う~ん...まだおらんかなぁ。でも、もし結婚するなら春斗くんみたい優しい人がええなぁ。」僕は目をパチクリさせてびっくりした。つい、顔を赤くして照れてしまう。

「そ...そうなんだ、ふぅ〜ん...」すると、分かれ道についた。彼女とはここでお別れだ。

「あっ、もうついてしもうた。なんか友達と話しながら帰っちょると楽しゅうて早う終わってしまうよね〜。じゃ、バイバイ!あと、うちの事は千弦って呼んでね、約束だよ!」と言って、彼女は坂道を走って降っていった。

 

 「そ、そんなの...好きな人に、馴れ馴れしく言えるわけないじゃないか...」僕は一人帰る中で、顔を赤らめながらそう思った。


 

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