1-6 ではボクが椅子になりましょう

「フェチズマー……?」


 長身から放たれた聞き馴染みのない単語を、しほは、咀嚼するかのように復唱した。


「フェチズムくらいは知っているだろう。特定の対象に性的興奮を抱く嗜好のことだ。貴様らにわかりやすく言い換えると、性癖、というものになるか? 吾輩たちは——」


「待ってください! ルキ先輩!」


 講釈を垂れようとしていた長身の背後で、小柄なほうが声を挙げた。


 ルキと呼ばれた長身は、不機嫌そうに背後を仰ぎ見た。


「ルホ。貴様、吾輩の話を遮ろうというのか?」


「申し訳ないです! 罰は後で受けさせてください! でも、なんだか話が難しくなりそうだったので! ここしかチャンスはないと思いまして!」


「チャンスだと?」


 ルホと呼ばれた小柄が、「はい!」と元気よく返事をした。


「先輩のおっしゃる通り、ボクたちは、この子たちに、話し合いを持ちかけるためにやってきました! でも、今の状況をよく考えてください! 今にもコトを致そうとしていた二人は、ボクらの登場で未遂に終わってしまいました。それどころか、バリネコの子のほうが、先輩の硬いおしりの下で組み伏せられています!」


「誰がバリネコだッ!」


「誰が硬い尻だと?」


 向けられる鋭い眼光を、むしろ嬉々として受け止めながら、ルホは続ける。


「そんな状況が、果たして対等と言えるでしょうか! ボクらは『契約』を持ちかけに来たのであって、恫喝しに来たワケではありません! ここはひとつ、この子たちに話を聞いてもらうため、対等な状況にしたほうがいいと思います!」


「ふむ」


「つまり、ボクを、あなたの椅子にしてください!」


 そう言って、ルホはしほに向かって、土下座しながらずりずりと前進した。


「あたしを解放するんじゃねぇのかよ!」


「なるほど。ルホ、貴様の言うことにも一理ある。おい、長髪の娘」


「なにかしら?」


「どうやら、このお転婆の手綱を握っているのは貴様らしいな。ここは一度、吾輩と貴様が同じ目線に立ち、話し合おうではないか。その汚い椅子に座るが良い。座り心地は最悪だがな」


「是非に! 是非に!」


 ルホは媚びるように尻を振って、座られるのを待っていた。


 対等と言いつつ、向こうのペースで話が進んでいることは明白だった。


 それを踏まえて尚、しほはどかりと、ルホの背中に座った。ルキと同じように足を組み、不敵に見据える。


「わおん♡」


「椅子は鳴かないの」


 ルホの尻が、ぎりりと抓られる。


 与えられた命令を守るため、ルホは懸命に口を結び、溢れ出そうな嬌声をなんとか閉じ込めていた。


 しかし、その目は輝き、頬はこれでもかと緩み切っている。


 まごうことなき変態である。


「さて、これでようやく、話ができるな」


 ルキがそう宣言し、かくして、人間椅子に座った二人の会談は始まった。

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