1-3 スパンキング・ペナルティ

「さて、みさき」


 二人きりになった途端、しほは口を開いた。


 夜の街の、路地裏。表通りから離れた暗がりにて。


 暗闇のせいでよく見えないが、その顔が愉悦に満ちていることを、みさきは知っていた。


「約束、破ったわね。もう二度と、人に暴力を振るわないって、誓ったのに」


「……あんたを、守ろうと思ったの」


「でも、暴力には違いないわよね?」


「だって、あんたが、」


「暴力、よね?」


「……はい」


 声音こそ穏やかだが、的確に急所を抉ってくる詰問に、ついにみさきは屈してしまう。


「約束を破った時は、どうするんだったかしら?」


「……好きにしろよ」


 みさきは、しほに背を向けて、尻を突き出した。ケツバットを受け入れるかのような体勢で、色気もへったくれもない。


 しほは、みさきのそんな態度に不満でも抱いたのか、あえて冷たい口調でこう言った。


「ちゃんと、言いなさい」


「……あたしに、罰を、与えてください」


「もっと、情けなく、媚びるように、言いなさい」


「こ、これ以上かよ! ここ、外だし、そんな、」


「言いなさい」


 どこまでも冷徹な声が、みさきの耳元で囁かれる。その語気には、一歩も退いてやらないという強い意思が込められていた。


 みさきはついに観念し、顔を真っ赤にして叫んだ。


「~~~! 悪い子のみさきちゃんに、おしおきください! お尻ぺんぺんしてくださいッ!」


「よく言えました」


 パァンと小気味よい音が、路地裏に響いた。


 みさきの尻が鳴らした音である。


「うぐぅ」


 痛みの代わりに、とてつもない羞恥心がみさきを襲った。


 夜の暗がりとはいえ、野外でスパンキングされているという純然たる事実が、彼女のプライドをズタズタにする。


「相変わらず、いい音鳴るわね」


 もう一発。


 しほの平手が、みさきの引き締まった尻を打った。


「さぁ、みさき。右のお尻を叩かれたら、どうするんだったかしら?」


「うう……」


 みさきはうめき声を漏らしながら、クイッと腰を動かして、しほの正面に左の尻を差し出した。

 

「そうね。いい子よ」


 快音が響く。


「どんどん行くわね」


 更にもう一発。続けざまにもう一発。またもやもう一発。


 パンパンぺちぺちパパパンパン。


 しほは、まるでボンゴのようにみさきの尻を叩き続け、リズムを奏でた。


「なんだか楽しくなってきたわ。もっとビートを刻むわよ」


「さっさと終わらせろッ!」


 みさきは、耳まで真っ赤にして、叫んだ。

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