file.14 活路

「……真音、いい着眼点だね。おかげで活路が見えたよ」

「へ? アタシなんかした!? でもしゅきぴが嬉しそうだからアタシも嬉しい!」


 自称宿敵が狙うのはシンギュラリティに達したアンドロイドなら、きっとそれになんらかの意図があるはず。


 メンテナンスのついでにそれを解明して、必ずワトソンを守り抜いてみせる。


 俺は一旦思考を放棄し、作ってもらったオムライスを食べることにした。


「美味しいよ真音」

「やったー! ママに小さい頃から料理ならっててよかったぁ」


 濃すぎず、ベチャ付きのないケチャップライスを丁寧に卵で包んだシンプルな一品だが、シンプルゆえに作り手の技術が求められる卵料理。


 そんな料理を手際よく作り上げた真音は相当な腕の持ち主だろう。

 いい巡り合わせだったね。自然公園に行ってよかったとすら思っている。


「ご馳走様、本当に美味しかったよ」

「これからももっと美味しいの作るね!」

「楽しみにしているよ」


 後片付けをしてくれる真音に、事務所で仕事することを伝えて、俺はワトソンのいる事務所へと向かった。


「――マスター、食事は済んだんですか?」

「うん、美味しかったよ」

「それは良かったです」


 ワトソンは着々と紙の資料を整理している。


「ワトソン、自称宿敵に対抗できる策を思いついたんだけど、乗る?」

「……私はマスターの指示ならなんでも従います」


 ワトソンは俺の目を見ると、そう言った。


「今回に関しては今後を左右しかねないからワトソンに決めて欲しいんだけど……そうだね。ワトソンはそう言うと思っていたよ」

「で、何をするんですか?」

「有り体に言えば、魔改造かな」


 ワトソンはまぶたパーツをパチクリと動かした。


「嫌な予感がしますね」

「大丈夫、成功さえすれば失敗しないから」

「……バカ丸出しな発言ですね」


 呆れるようなワトソンはある程度察したのか、「整備室へ行きますか?」と尋ねてきた。


「いや、まだ準備が整っていないから明日以降かな。知り合いに声かける」

「今回は大掛かりなメンテナンスになりそうですね」


 知り合いのやさぐれ医師に声をかけての作業になる、いつもよりは大掛かりだ。


 断られる選択肢は考慮していないが、金を積めば応じてくれる。


「とりあえず電話してくる」

「あまり無茶な要望をしてはいけませんよ、迷惑ですから」


 迷惑をかけるのはもはや俺の専売特許では?


 そう考えながら、俺は机に置かれる固定電話で、ある番号に連絡する。


「あ、もしもしドクター? 俺だよ。元気にしているかな?」

『はぁ……今回はどんな面倒ごと持ってきた?』

「えーひどいなぁ、面倒ごとじゃないよ。頼み事」


 初手からため息をつかれたのは、おそらくこのドクターがやさぐれているからだろう。

 その直後に響く無気力な低音ボイスからは、圧倒的に怠惰な大人を象徴している。


「とりあえず今から言うもの持って明日、事務所に来てくれる? 交通費も食費も俺が持つからドクターの一日をまるまる俺に頂戴。もちろん作業費も振り込むよ」

『仕方ないな、早くいるもの言え』


 そこからは話が早かった。

 とんとん拍子で進む会話はわずか数分で終わり、ドクターは明日の六時にこの事務所に来ることが決定した。


「ワトソン、メンテナンスだけど明日一日中かかるから、長い間動けない想定でいてね」

「わかりました。作業は大体片付いているので、問題ないです」


 よし、あとは真音に食事や家事をやってもらっていれば、一日中整備室にこもれるな。

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