第51話 因果応報

「ははっ……!」


 目の前に現れたクエスト開始画面。

 今回は出ないのかとばかり思っていたが、どうやら運命の女神様は俺に勝利してほしいとみた。


 思わず喉を鳴らすと、前方でじろりとリオンが俺を睨んだ。


「何がおかしい!」

「いや別に。お前を見て笑ったわけじゃないよ。ただ……楽に終わると思うなよ? クロエを傷付けたお前には、相応の報いを受けてもらう」


 あれがただの試合内容であれば俺も文句は言わない。

 だが、リオンの攻撃には明確なルール違反と殺意があった。あのまま俺が彼の攻撃を止めていなければ、今頃クロエは死んでいた。


 許せるわけがない。

 彼女は、俺と同じように悪役ルートが抜け出したただの女の子だ。

 今を精一杯生きる普通の貴族令嬢だ。


 少しばかり我が強く傲慢な点も見られるが、決して殺されていい子じゃない。

 ゆえに、俺はお前を許さない。


 魔剣を収納空間に送り、腰に差していた木剣を構える。

 リオンの目付きがさらに鋭さを増した。


「オニキス……何のつもりだ? さっきの武器を使えよ。情けのつもりか⁉」

「は? 大会のルールを覚えてないのか? 真剣の使用は禁止なんだよ」

「ふざけるな! あの剣なしで俺に勝てると思ってんのか⁉」

「問題ないね。お前こそ、なんでもありなら俺のほうが有利だってこと、忘れたとは言わないぜ?」


 ずっと目元を覆っていた布を取る。

 真っ赤に煌めく魔眼がその姿を現した。

 直後、びくりとリオンの体が震える。


「魔眼……! それがお前の切り札か」

「ああ。警戒してるとこ悪いが、今回は普通に使うぞ、これ。そのなまくらで凌げるかな?」

「舐めるな! いつまでも怯える俺じゃねぇ!」


 審判の合図を待たずにリオンは地面を蹴った。

 まっすぐに俺の下に迫る。


「気が早いな」


 薙ぎ払われた聖剣を後ろに引いて避ける。

 さすがの俺も、生身であの聖剣を喰らったら無事じゃ済まない。

 ここは早速、魔眼でリオンをボコボコにするか。


 ——石化の魔眼。


 魔力を消費して魔眼の効果を発動。

 リオンの体がぴたりと停止した。


「まずは腕かな? 剣を握れなくしてやるよ」


 木剣を手にリオンの傍に歩み寄る。

 直後、リオンの体がわずかに動いた。


「ッ⁉」


 咄嗟に俺は横へ跳んだ。

 遅れてリオンが動き出す。聖剣をでたらめに振った。


 幸いにもその攻撃は俺に当たらない。

 空を斬り裂いて止まった。


「チッ! 仕留めそこなったか」

「お前……なるほど。俺の魔眼に対処できるくらいには強くなったのか」


 予想より成長が早いな。

 俺にボコられて頑張ったのか?


「もうお前の知る俺じゃない。魔眼だって超えた!」


 もう一度リオンが地面を蹴って俺に近づく。

 全力を籠めて聖剣を振った——が。


「甘いな」


 石化の魔眼。


 またしてもぴたりとリオンの動きが止まる。

 俺は木剣を薙いだ。

 その瞬間、リオンが動き出し——俺の攻撃が命中する。


「ぐあっ⁉」


 涎を撒き散らしてリオンが地面を転がった。

 聖剣は消失し、苦しそうにもがく。


「な、なんで……」

「馬鹿だなあ、お前。石化の魔眼自体は効いてるんだよ。一秒だろうと問題ない。タイミングを合わせて殴ればいいだけだ」


 一瞬でも無防備になるのは致命的すぎる。

 使い方を変えれば以前と同じだ。ほぼ一方的にリオンを殴れる。


「ふざっ……ふざけるなあああ!」


 立ち上がったリオンが、聖剣を生み出して走る。

 俺はため息を吐きながら連続で魔眼を使用する。


 石化。

 殴る。

 石化。

 殴る。

 石化。

 殴る。


 その繰り返しで、リオンは地面に倒れることなく三度も俺に殴られた。

 腕の骨が折れる。足の骨が折れる。血を吐き、無様に倒れた。


「あ、が……がっ」


 もはや痛みに悶えることすらできなくなっていた。


「どうした? もう立たないのか? お前の覚悟はそんなもんか?」


 クロエはどれだけ殴られても立ち上がったぞ。

 片方の足は無事じゃないか。立てないほどの傷は与えていない。


 俺はゆっくりとリオンに歩み寄り、その体に触れる。

 俺の手から薄緑色の光が放たれた。

 光はリオンの体を包み、徐々に損傷を治していく。


 ——中級治癒スキル。


 わざわざリオンの怪我を治してやる。

 そして、立ち上がって言った。


「ほら、傷は治してやったぞ。立て。また壊してやる」

「ひっ⁉」


 リオンを睨むと、彼は素早く俺から距離を取った。地面を擦りながら情けない姿で後退る。


 せめて立てよ。だせぇな。


「大丈夫。俺はお前と違って殺したりしない。死なない程度に何度も甚振るだけだ。そうしたら、少しはクロエの溜飲も下がるだろ?」


 リオンが俺から離れるなら、俺は離れた分だけ近づく。

 俺が近づくとまたしてもリオンは後退った。


 そのやり取りを何度かした後、やがてリオンの背中は訓練場の壁に付く。

 もう逃げ場はない。


「さあ。さあ。さあさあさあさあ! 立て。お前はまだ——無事じゃないか」


 上段に構えた木剣。それを、無慈悲に振り下ろす。

 狙いは正確にリオンの頭部だった。


「ああああああ!」


 情けない、リオンの絶叫が響く。


———————————

あとがき。


『俺の悪役転生は終わってる』

『最強の悪役が往く~実力至上主義の一族に転生した俺は、前世の知識を使って世界最強の剣士へと至る~』

新作二作も面白いのでぜひ見てください!

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