第50話 光と陰

 原作主人公リオンが聖剣を解放する。

 片や対戦相手のクロエも、魔力放出量を限界まで上げて凍結スキルを放った。


 浄化の光と束縛の氷がぶつかり合う。

 凄まじい衝撃が発生し、観客席にまで冷気が飛んできた。


「きゃあああ!」


 他の生徒たちの悲鳴が聞こえる。

 爆発が起こり、激しい強風が舞った。


 しばらく痛いくらいの冷風に晒されたあと、氷は砕け、光が消滅して煙が張れる。


 その場に立っていたのは——リオン。と、クロエの両者だった。


「ッ! ハァ……な、なんとか直撃は避けましたね」


 クロエの体からは少なくない血が流れている。


 対するリオンは、体に霜がおりているだけで怪我のようなものはない。依然、鋭い視線でクロエを睨んでいた。


「ふんっ。その状態じゃ何もできねぇだろ。終わりだ」

「勝敗を決するには早くありませんか? まだわたくしの体は動きます。動けるなら、勝ちはゼロじゃない」


 クロエの体内から魔力が放出された。

 右手に剣を。左手に氷で生み出したもうひと振りの剣を持つ。


 二刀流スタイルだ。あれを見るのも初めてだ。


「わたくしは負けません。負けるわけにはいきません。どうしても、愛する人のために強くならなきゃいけないので」

「馬鹿が。死んでも知らねぇぞ!」


 再びリオンが聖剣スキルを発動する。

 魔力の塊が剣の形を描き、それを手に地面を蹴った。


 クロエの氷の剣とはわけが違う。聖剣はまさに魔力の塊だ。すべてが凝縮された魔力で構成されている。

 二度も打ち合えば、クロエが無事で済むはずがない。


「クロエ……」


 俺は思わず彼女の身を案ずる。

 しかし、クロエは笑った。にやりと口角を上げ、剣を構える。


「ふっ!」


 直後、彼女は剣を投げた。

 まっすぐリオンの顔面目掛けて氷の剣が飛んでいく。


 それをリオンは首を傾げて避けた。しかし、氷の剣はリオンの体を横切った瞬間、背後で炸裂した。


 細かい氷の粒が周囲に拡散される。


 散弾のように、遅れてリオンを襲う。


「ぐっ⁉」


 咄嗟にガード体勢に入ったリオン。

 大半の欠片は聖剣の光で蒸発したが、数本の刃がリオンに刺さる。


 軽傷だ。勝負を決するほどの一撃にはならない。

 だが、そこからクロエは続ける。


「まだまだあ!」


 足を伝って地面を左足から凍らせて、体を捻ったリオンの視界外から、氷壁をぶつけた。


 背中を強打するリオン。吹き飛ばされ、地面を転がる。


「勝ちを確信した瞬間、隙だらけになりましたね。甘いですよ、平民」

「て、てめぇ……!」


 先ほどの攻撃も致命傷にはならない。

 ある程度のダメージは負ったが、まだまだリオンは動けた。


 聖剣を手に、殺意を漲らせてクロエに接近する。


 氷の壁を張ってリオンの進路を妨害するが、聖剣の一撃であっさりと斬り裂かれた。

 もう小細工は通用しない。


「殺す!」


 聖剣がクロエに振るわれた。

 ギリギリスキルを使って防御を試みるが、その防御ごと斬り裂かれる。


「きゃあああ!」


 凄まじい衝撃を受けてクロエは吹き飛ばされた。

 地面をバウンドしつつ空中で体勢を整える。


 だが、そこにリオンが連撃をしかける。完全に彼のペースだった。


「おら、どうした⁉ こんなもんかよ、貴族!」

「ぐ、うぅっ!」


 何度も聖剣に弾かれる。

 防御も壊され、攻撃をしても聖剣の出力が高すぎて無意味と化す。


 もはや勝負はリオンの勝ちだった。

 それでもクロエが敗北を認めないのは、ひとえにプライドの高さゆえ。


 彼女は俺以外に負けることを恥じだと思っている。俺以外には負けたくないと思っている。

 そのプライドは、血を吐いて何度倒れようとも折れることはなかった。


 正直、


「カッコいいじゃん、クロエ」


 めちゃくちゃに男前だった。


 諦めない姿勢は素晴らしい。惨めにも藻掻く様子を、俺は高く評価する。


 もちろん、それで何かが変わるわけじゃない。

 変わらずクロエはボコボコにされていた。


 もういい。終わってくれ。きっと誰もがそう願っている。

 しかし、クロエは立った。笑みを張り付け、何度でも剣を構える。


「ッ! うぜぇ……その余裕の消えない顔が、癪に障る! 俺を虐げてきたあの野郎によく似てやがる!」


 終わらない戦いに焦れたのはリオンだった。

 聖剣の出力をさらに上げ、今度こそクロエを殺そうと剣を振り上げる。


 あれはダメだ。今のクロエが直撃したら確実に死ぬ。

 審判も異常事態を察知して試合終了を告げるが、その声はリオンには届かなかった。


 彼の凶刃が、満身創痍のクロエに落ちる——。






 前に。






 ギィィィンッ! という耳障りな音を立てて、防がれた。


 リオンの前に、俺が立ちはだかる。


「お、オニキス……様?」


 血だらけの彼女を抱き寄せ、片手だけでリオンの一撃を防いでいた。


「お疲れ様、クロエ嬢。君の戦いは見事だった。最高だった。何より、綺麗だった」

「そ、んな」

「だからもう休んでくれ。あとは、——俺が終わらせる」


 じろり、とリオンを睨む。

 慌てて近づいてきた審判役に、俺は告げた。


「おい、審判。これから決勝戦を始めてくれ。今、すぐだ」

「え? え⁉」

「明らかにこいつはやりすぎだったからな。クロエの代わりに、俺がぶっ飛ばしてやるよ」

「オニキス! 上等だ! その剣ごと斬り裂いてやる!」


 売り言葉に買い言葉。


 激昂したリオンを後ろに弾き、審判役の男性にクロエを預ける。

 同時に、俺の目の前にはあのチュートリアルの画面が表示された。




【クエスト発生:リオンに勝利せよ】


———————————

あとがき。


新作二つ、面白いよ!よかったら見てね!

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