第48話 初見ではない
原作主人公リオンの幼馴染、アリサが持つスキルは——〝暴風〟。
風を生み出し、風を操る類のスキルだ。
俺のスキルと似てるな。
しかし、決定的に違う点がある。
それは——。
「気をつけてくださいね、オニキス様。このスキルは……手加減できませんから」
風が吹く。
でたらめに周囲を刻み、無差別の斬撃を放った。
それを回避しながら後ろに下がる。
そう。彼女のスキルは俺のスキルと違って制御ができない。
アリサを中心に風が発生し、外側へ向かって攻撃が放たれる。
ゆえに、集団での戦闘には向かない。
前に彼女がスキルを使っていなかったのは、近くにいたリオンを巻き込まないよう配慮した結果だ。
制御ができない分、彼女のスキルは非常に攻撃力と殺傷力が高いからな。
普通に防御したら、俺の木剣ではまともに防ぐことはできないだろう。
こういう時、武器を木剣にした主催者に文句を言ってやりたいな。
まあ、主催者からしたら、スキルはスキルで防げって言いたいんだろうが
。
「さて……どうしたものかな」
迫りくるアリサの攻撃を右に左と躱していく。
風の刃は基本的に不可視だ。見てから避けるのは不可能。かと言って、魔力反応さえしっかり追えていれば避けられないほどの攻撃じゃない。
一旦距離を離し、アリサの様子を窺う。
彼女は、自分のほうから攻撃したくはないのか、スキルを発動してから動く様子がなかった。
近づいてくる俺を徹底的に迎撃するらしい。
だとすると……。
「いいね。その挑戦、受けよう」
俺は地面を蹴った。
木剣を手にしたままアリサに近づく。
「ッ!」
当然、アリサに近づけば近づくほど彼女のスキルが牙を剥く。
鋭い不可視の斬撃が無数に俺に迫った。
それを全て躱す。
別に同時に複数の斬撃が飛んでくるわけでもないし、慣れれば簡単だ。
ひらひら最低限の動きで避けながら近づいてくる俺の姿に、アリサは徐々に焦りを浮かべていた。
「ど、どうしてあんな簡単に私のスキルを……!」
「対処法を知ってるからな」
お前のスキルを見るのはこれが初見じゃない。
厳密には見るのは初めてだが、前から知っていた。
その弱点も、利点も原作には書いてある。
だから俺にとっては馴染みのあるスキルだ。避けるのに苦労しない。
やがてアリサと俺の距離が完全に潰れる。
あとは木剣を薙いで彼女に軽く当てれば俺の勝ち。
——そう思っていたが、直後にアリサがにやりと笑う。
「ふふっ。これも知ってましたか?」
爆発が起こった。
爆発だと錯覚するほどの風圧が、アリサを囲むように外側へ向かって放出される。
彼女の奥の手。
風を起こし、基本は中距離からの斬撃に徹し、相手が近付いてきたらスキルを強制解除する。その際、発生したアリサのスキルは外へ向かって一気に放出される。
まんまと近接戦闘を挑んだ者は、最後の最後でその防御不可能の一撃を喰らい、遠くへと吹き飛ばされてしまうのだ。
それで決着がつけばよし。つかなくてもまた最初からやり直せる。
原作で何度もアリサの窮地を救った技だ。当然、——それも知っている。
「もちろん、知っていたさ」
「なっ⁉」
飛んできた風が——消滅した。
わずかに横へ拡散し、俺に当たることなく消え去る。
直後、彼女を押し倒して木剣を首に添えた。
俺の勝ちだ。
「ど、どうやって……どうやって最後の一撃を⁉」
「見たことあるだろ? 俺のスキルだよ」
「オニキス様のスキル? ……まさか、あの風を操るスキルで⁉」
「ああ。俺の風をお前の風に当てて相殺した。俺も威力には自信があったからな」
「そんな……」
偶然にも俺は彼女と相性のいいスキルを持っていた。
最初からそれを使っていれば俺の勝ちはもっと楽だったろうが、なるべく手札は温存しておきたい。
何より、スキルで戦っていたら魔力消費が多くてこのあとの戦闘で困る。
まだ強敵は何人も控えているからな。
「完敗です……さすがオニキス様ですね。ずっと近接戦闘ばかりだったのですっかり忘れてました」
「だろう? 切り札は隠しておかないとな」
「私のあれ、普通は初見なんですけどね。いつ見たんですか?」
「あ……そ、それは秘密だ」
前世で、なんて言えないしな。
怪訝な顔を浮かべる彼女から逃げるように、俺は控え室へと向かった。
背後では、試合に夢中だった司会役の女性が、遅れて俺の勝利を告げる。
これで二回戦も突破。残すはあと二試合くらいかな?
おそらく上がってくるのはリオンとクロエ。最終的に誰が俺の道を阻むのかは……まだ解らない。
仮にどちらが上がってきても、俺は必ず勝利するけどな。
続いて第二試合が始まろうとしていた。
———————————
あとがき。
よかったら新作の
『最強の悪役が往く~実力至上主義の一族に転生した俺は、前世の知識を使って世界最強の剣士へと至る~』
を見てくれると嬉しいです☆
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