第47話 二回戦

 武闘会、第二試合。


 クロエと男子生徒がぶつかり合い、圧倒的な実力でクロエが敵を薙ぎ払った。


 さすが悪役令嬢。俺との冒険でさらに実力を伸ばした彼女は、ノルンカティアを除けば女性で一番強かった。


 ぱたぱたと走って控え室に戻ってきたクロエに、俺は手を上げて迎える。




「お疲れ様、クロエ嬢」


「ありがとうございます、オニキス様! 見てくださいましたか?」


「見てたよ。すぐに終わっちゃったな」


「ふふん! オニキス様と同じように相手を圧倒しました」


 胸を張るクロエ。


 相手のレベルは武闘会に選ばれるだけあって決して低くはなかったが、彼女の凍結系スキルを前に何もできなかった。


 足を凍らされ、機動力が落ちたところを突かれる。最速で確実なやり方だ。


「このままどんどん生徒を倒してわたくしがオニキス様を破りますわ!」


「ふふ。その前に足を掬われないよう気をつけなよ?」


「もちろん油断はしませんわ。誰が相手だろうと対処します」


 そう言ってクロエは闘争心をめらめらと燃やす。


 ちなみに彼女がああ言ってるのは、この武闘会の形式が普通のトーナメント制とは違うからだ。


 普通のトーナメント形式なら、次の俺の相手は勝ち上がったクロエということになる。


 しかし、クロエの順番は二番目でも、トーナメントの配置は一番右だった。俺が一番左だから、彼女と当たるのは最後になる。


 要するに、順番とトーナメントの位置は完全ランダム。


 おかしな仕様だが、どういう順番で誰と当たるのか直前まで解らなくするのはありだと俺は思った。


 クロエが二回戦で散ったら悲しいしな(負ける気はさらさらない)。




「続いて、第三試合を行います」


「ん」


 もう次の試合が始まる。


 時間も限られているし、さっさと回すっぽい。


「第三試合は——」


 会場内に響き渡る司会役の女生徒の声を聞きながら、俺は次々に刃を交える生徒たちの姿を見える。


 その中には、当然ヒロインのアリサや、原作主人公のリオンもいる。


 二人ともモブには負けない。順当に勝ち進んでいった。


 そして、全員分の最初の試合が終わって二回戦が始まる。




 俺の最初の相手は——奇しくも、原作ヒロインのアリサだった。




 ▼△▼




「まさか、こんなに早くオニキス様と当たることになるとは思っていませんでした」


 訓練場中央。俺と向かい合うアリサが、どこか悲しげに言った。


「俺も残念だよ。アリサには早々にリタイアしてもらうことになるからね」


「負ける気はありませんよ」


「俺もない。あとは実力で結果を示すだけだ」


「確かに」


 お互いに手にした木剣を構える。


 アリサの表情は曇っていた。何度か俺と剣を交え、何度も地面に倒れた過去の記憶が脳裏を過っているのだろう。


 彼女は一度も練習で俺に勝てていない。惜しいところまでいってすらない。


 実力差は明白だ。それでも負けじと木剣を握るのは、強い意志があるから。


 その意思に敬意を払い、俺は全力で彼女を倒すことに決める。




「それでは二回戦、第一試合! 始めッ!」


 審判の男性が腕をおもいきり下げる。


 試合開始の合図が聞こえ、俺もアリサも同時に地面を蹴った。


 正面からぶつかり合う。互いの木剣が、吸い込まれるように重なった。


 直後、


「——きゃっ⁉」


 アリサは俺の腕力に負けて後ろに吹き飛ばされる。


 なんとか空中で回転を挟み地面に着地すると、がりがり地面を削りながら止まる。


「さ、さすがに腕力勝負では勝ち目がありませんね」


「そうだな。次は技と速度か?」


「はい!」


 再びアリサが地面を蹴る。


 今度は俺が彼女の攻撃を捌く番だ。その場に留まり、剣を構える。


 アリサは剣をレイピアのように構えて突き技を放った。


 悪くない選択肢だな。


 面による攻撃は、攻撃範囲が広い代わりに防御されやすい。そうなると腕力差で彼女は俺に勝てない。


 であれば次は点。点による攻撃は、攻撃範囲が狭い代わりに防御が難しい。何より速い。もちろん躱されやすいという欠点もあるが、俺はいい判断だと思った。


 しかし、


「ッ! 当たらない!」


 アリサの攻撃は俺に一度も当たらなかった。


 ひらひらと全て避ける。


 俺からしたら、突き技は見えてる分躱しやすい。脅威にはならない。


「はああッ!」


 さらにアリサは果敢に攻める。


 姿勢を下げ、足による払いを繰り出した。


 それを木剣を地面に刺して防御する。


「なっ⁉」


 まさかの防御にアリサの表情が驚愕に埋まる。

 剣術戦闘はスキルの発動も許可されているし、剣じゃなくて拳や足で殴り蹴ってもいい。


 だからこれもありだ。


 秘策の足払いをガードされたアリサに、逆に蹴りを入れて吹っ飛ばす。


「きゃっ!」


 彼女は腕で俺の攻撃をガード。地面を転がりながらもすぐに体勢を立て直す。


「膂力も、技術も、速度も勝てなかったな。次は——スキルか?」


「……どうやら、そのようですね」


 彼女は木剣を構えながら「ふぅ」とため息を吐く。


 その後、周囲の空気がわずかに震えた気がした。




———————————

あとがき。


明日、12月21日(木)に新作を投稿します!

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