第46話 初戦
「さあさあ皆様、訓練場へようこそいらっしゃいました!」
拡声機能付きの魔法道具を使い、女生徒がキンキンと高い声を発する。
それを聞いていた観客——学園の広々とした訓練場に集まった生徒たちが、中央を囲むように設置されている椅子に座り、わーきゃーと盛大な歓声を送る。
その声に合わせて、司会役の女性は言葉を続けた。
「本日は学園のイベントが一つ、武闘会! 選ばれた生徒がしのぎを削る最高の一日が始まるぞー!」
「異世界も地球も、こういう所は変わらないな」
前世でいうマイクに近い道具を使い、司会役の女性が武闘会を盛り上げていく。
まさにスポーツ実況だな。みんな娯楽に飢えていると思われる。
「まずは一年生たちの戦いだ! 新入生たちはどんな試合を見せてくれるのか! 個人的には注目の生徒が多いので楽しみですね!」
武闘会の始まりは一年生同士の試合から。
次に二年生。最後に三年生が武闘会を締めくくる。それが伝統だ。
つまり俺の出番ってわけ。
事前に司会役の女生徒に伝えられている試合順が、いまから公開されていく。
「ではでは、記念すべき最初のカードを発表します! 一年生、一回戦、第一試合を行う生徒の名前は——!」
たっぷりと息を吸い、その名を告げる。
「一年生最強と名高い、魔物狩りで多くの大型を討伐した天才、オニキス・アクロイド様だああああ!」
「ん、俺か」
まさか初っ端から選ばれるとは。
訓練場内が割れんばかりの歓声に包まれる。
わざわざ俺の経歴みたいなものまで言わなくてもよかったのに。
盛り上がりはいきなり最高潮に達した。
「対する相手の生徒は、歴史ある名家の出身——」
視界役の女性が俺の相手を紹介する。
俺に比べれば歓声の勢いは落ちるが、それでも全生徒がこの武闘会を楽しみにしていたことが伝わってくる。
早速、木剣を手に訓練場中央へと向かった。
基本的に武闘会で真剣を使うのは禁止らしい。
どちらにせよ魔剣は使えなかったな。そんなルールがあるとは思いもしなかった。というか忘れていた。
まあ普通に考えて学生同士が真剣で斬り合うとかまずいか。
いくら治療スキルなんて便利なものがある世界でも、一撃で絶命したら治療はできない。
そして、蘇生スキルも存在しない。
「頑張ってくださいね、オニキス様!」
背後では待機中のクロエが俺にエールを送る。
グッと親指を立てて言った。
「ああ。行ってくる」
▼△▼
最初の一戦は、隣のクラスの生徒が相手だった。
男子生徒は、俺を見るなり絶望した表情を浮かべる。
恐らく、初戦でいきなり俺と当たるとは思っていなかったのだろう。
もはや負け覚悟で突っ込んできた。
そんな相手に、俺は容赦なく剣を振るう。
彼には悪いが、ほぼ一方的に俺が攻撃を打ち込み勝利を収めた。
「第一試合、勝者はオニキス様だ——!」
司会役の女性が大きな声で訓練場内を盛り上げる。
まだひと試合しかしていないのに、会場の空気は最高潮。
誰もが俺にエールを送る。
「お疲れ様でした、オニキス様」
控え室に戻ると、クロエが俺を出迎える。
その手にはタオルや飲み物が握られていた。
「ありがとう、クロエ嬢」
それを受け取り、喉を潤す。
「さすがオニキス様でしたね。ずいぶんと余裕な勝利で」
「まだまだ試合は続くからな。初戦から飛ばしていけないさ」
「確かに。次はわたくしが華麗に勝利を収めてみせますから、見ててくださいね? 優勝候補に土をかけるのは、このわたくしです!」
「ふふ。楽しみにしてますね」
胸を張るクロエには意外と俺は期待してる。
本来の悪役令嬢でなくなったクロエが、果たしてどこまで強くなり、どんな人間になるのか。
前世を知るからこそ、俺は楽しみだ。
そしてタイミングよく、次のカードが発表される。
「続いて第二試合の対戦カードを発表します。一人目は、クロエ・エインズワース様!」
「あら、わたくしですね」
次はクロエの番だった。
呼ばれた彼女は、笑みを作って俺を見る。
「行ってきます、オニキス様。ぜひ応援してくださいね? あなた様の応援でわたくしは誰よりも強くなりますわ」
「俺よりも?」
「それはもう」
「そっか。頑張ってくれ、クロエ嬢。君の勝利を祈ってる」
「ふふ。祈りは必要ありません。わたくしは、自分の実力で勝利をつかみ取りますから」
カッコいいこと言ってクロエは訓練場のほうへと向かっていった。
彼女の相手は俺の知らない男子生徒。おそらくモブだろう。
彼女が負けるとは思っていない。
俺は落ち着いた気持ちでクロエの試合を見守る。
——当然、クロエは男子生徒を瞬殺して勝利を掴んだ。
やはり悪役令嬢は強い。ヒロインや主人公を妨害できるほどの才能を秘めていた。
まあ、いまの彼女の強さには俺も関わっているっぽいが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます