第44話 闇堕ちしそうな主人公

 原作主人公リオンとの試合が終わった。


 お互いにスキルや武器を解放した結果、殺し合いに近い形にはなったが、最終的には俺が一方的にリオンをボコって治療。誰も怪我一つしてない状態になった。


 プライドを壊され、恐怖を抱いたリオン。彼は木剣を拾うことすらせずに訓練場を後にした。


 幼馴染であるアリサが哀愁を漂わせる彼に一瞬だけ手を伸ばすが、リオンの視界に自分が入っていないことを理解すると腕を下げた。


 その横顔が、どこか寂しく見える。


「いいのか、アリサ」


「え?」


「リオンを追いかけなくて。幼馴染なんだろ?」


「それは……いいんです」


 アリサは俺の問いに対して首を左右に振った。


 迷いを振り払い、確かに言う。


「いまのリオンに声をかけても、きっと何も届かない。そんな気がします」


「そっか」


 アリサがそう決めたなら俺は余計なことは言わない。


 魔剣を鞘に収めてホッと息を吐いた。




「それにしても、相変わらずその武器は凄いですね」


 アリサがちらりと俺の魔剣を見る。


 彼女は前にモンスターに襲われた時、この魔剣によって助けられている。


 さらに会場近くに押し寄せていたモンスターを薙ぎ払ったのもこの魔剣だ。その強さをまじまじと目にしている。


「いきなり真剣を使ってちょっと反則だったかもしれないけどね」


「そんなことありません。リオンだってスキルとはいえ武器を出しましたし」


「アリサはリオンの聖剣スキルを知ってるの?」


「はい。子供の頃に何度も見せてもらいました」


「アリサは知ってるのか……なるほど」


 知られているのに前は使わなかったってことか。


 やっぱりモンスター戦の時は油断していたな、リオンの奴。




「オニキス様!」


「おっと」


 急に背後からクロエが俺の体を抱きしめる。


「どうした、クロエ嬢」


「この後はどうしますか? あの平民との戦いも終わりましたし、夕食にします?」


「そうだな。せっかくだし、みんなで夕食でも摂るか」


「だったら私が用意しましょうか?」


 生徒会長ノルンカティアが提案する。


「会長が?」


 その提案にクラリスが首を傾げた。


「ええ。前にもオニキス様に振舞ったことがあるわ。お墨付きよ」


「前に……振舞った?」


 じろり、とクロエの視線が俺に向く。


 俺は視線を逸らして答えた。


「ああ、脅迫された時のことか」


「脅迫⁉」


「まあ。人聞きの悪い。私は脅迫なんてしてないわよ?」


「加害者はみんなそう言うんだ」


「誰が加害者よ! それより、夕食の準備は私がする——でいいのよね?」


「俺は異論ありません」


「オニキス様との夕食の件は気になるところではありますが……私も構いません」


「では私も」


「あ、その……私は……」


 俺、クロエ、クラリスと続き、最後の一人アリサがおずおずと口を開く。


 その様子は、平民の自分如きが貴族である俺たちの食事に混ざってはいけない、と言ってるように見えた。


 しょうがないので俺が口出しする。


「もちろんアリサも一緒に食べるだろ? 学園では貴族も平民も関係ないぞ」


「オニキス様の言うとおりね。私は全然構わないわよ、アリサさん」


「オニキス様……ノルンカティア会長……」


 胸の前で両手を握り締め、彼女は感動したように目をうるうると濡らす。


 その後、頭を下げて感謝を告げた。


「ありがとうございます、皆様! 恐縮ではありますが、私もご一緒させてもらいます!」


「じゃあ行こうか」


「部屋は私のメイドに取らせます。——先に行きなさい、あなた」


「畏まりました」


 傍で控えていたノルンカティアのメイドが、足早に訓練場を立ち去っていく。


 その背中を見送りながら、俺はふとリオンのことが脳裏を過っていた。


 これが、俺の望んだ未来の光景なのか、と。


 誰も答えは知らない。正しいなんて、俺も解らなかった。




 ▼△▼




 日々は過ぎる。


 俺がリオンをボコった後も日常は変わらない。


 しいて言うならリオンが俺のことを見なくなった。


 心に恐怖を打ち付けられた影響か、絡んでこなくなったのだ。


 むしろ落ち込んでいる気配すら感じた。アリサも、そんなリオンを心配して声はかけているらしいが、反応はほとんどないらしい。


 このままだと主人公が闇堕ちしそうだな、と思いながらも俺は気にしないでおく。


 原作主人公が悪役になるパターンはないだろう。俺という悪役がいるのに。


 それより、忙しない日々が過ぎ去っていき、とうとう一ヶ月。




 学年別トーナメント——武闘会当日になった。




———————————

あとがき。


新作投稿したよ~。

『冤罪で追放された元悪役貴族は、魔法で前世の家電を再現してみた~天才付与師はスローライフを所望する~』

毛色の異なる悪役転生もの?だからよかったら読んでね!

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