第42話 魔剣、解放

 訓練場に姿を見せた原作主人公リオン。


 またしても俺とアリサの関係を誤解した彼に勝負を挑まれた。


 前に実力差を教えてやったのに懲りない奴だ。何度も何度も絡まれて鬱陶しいし、そろそろ俺の相手にならないことを彼の体に刻んでやろう。


 前回と違い、今回は徹底的に心を折るつもりでいく。


「で? 今回もスキルは使わないのか?」


「いや……今回はスキルを使わせてもらうぞ」


「つまり、それは俺の魔眼に勝てる根拠があるってことか?」


 目元を覆っている布を外す。


 じろりと真っ赤に輝く瞳をリオンに向けると、リオンはわずかに肩を震わせた。


「ッ。あ、ああ……お前がそんな力で俺に勝って嬉しいのかは知らないけどな」


 にやりとリオンが笑う。


 今回はそういう手段できたか。


 あえて俺を挑発し、魔眼スキルを使わせずに勝つ、と。


 だが、スキルの使用が禁止されていない以上、俺はリオンが相手だろうと魔眼スキルを抑える必要は無い。


 同時に、リオンの態度から魔眼スキルの対処法が無いことが明らかだった。


 このまま戦えば間違いなく俺が勝つ。


 しかし、それでは確かに面白みには欠けるな。


「ふっ。いいだろう。お前の安い挑発に乗ってやるよ。俺は魔眼の効果を使わない。お前程度だったら、魔眼を封印した状態でも勝てるからな」


「おもしれぇ。剣術スキルだけで俺に勝てるならやってみろよ!」


 リオンは近くにいた生徒から木剣を奪う。それを構え、ギラギラと闘争心を剥き出しにしていた。


 対する俺は、木剣を手に、切っ先をリオンへと向ける。


 近くにクロエがやってきた。


「いいんですか、オニキス様。相手はスキルありなのに、オニキス様は魔眼を使わないなんて」


「ああ。魔眼を使うとあっさり終わるからな。剣術スキルと風魔法スキルがあればあいつくらいは倒せると思う」


 万が一、リオンのあのスキルにてこずるようなら、奥の手を出せばいい。




「どうした! さっさとかかってこい! 来ないならこっちから行くぞ!」


「落ち着けよ。いつでもいいぜ?」


 クロエを離し、戦闘態勢に入る。


 すると先にリオンが地面を蹴って俺に肉薄した。


 スキルを使わずに剣を振る。それを避けて蹴りを入れた。


「ぐあッ⁉」


 地面を転がりながら倒れるリオン。


 リオンを見下ろし、俺はため息を吐いた。


「おいおい……スキルの制限は無いんだぞ? お前のスキルは剣術スキルだけじゃないことは知ってる。さっさと出せよ、——聖剣」


「なっ⁉ どうしてお前が俺のスキルを知ってる!」


「そんなことはどうでもいい。それとも隠したいスキルだったのか? 違うだろ」


 あのスキルをわざわざ人前に出したくない——と言うなら、わざわざスキル制限無しで俺に勝負を挑んだりしない。


 スキル無しで俺と戦いたい、という理由でもなければ。


 だが、正直、前回から何も成長していない。何百回剣を交えようとそれでは俺には勝てないだろう。


「くぅ! いいだろう……どうやら、剣術スキルだけじゃ前と何も変わらないみたいだからな。けど、先に言っておく。——殺しても恨むなよ?」


「嘘吐け。ヤる気満々のくせに」


 リオンから濃密な殺気を感じる。主人公が出していいものじゃないだろ。


 ため息を吐きながら、俺は剣を構える。


 リオンのスキル『聖剣』は、対モンスターに特化した浄化の剣。


 悪しきモンスターを消し去ることに特化しているが、当然、人間に対しても破格の効果を発揮する。




 リオンが魔力を放出し、右手に黄金の剣が現れた。


 原作でも見た形だ。あれが聖剣。


 目の前にすると面白いくらいの魔力量だな。どことなく俺の持つ魔剣に似ている。




「はあぁッ!」


 リオンが地面を蹴った。


 まっすぐに向かってくる。


 振り上げた聖剣が鋭い一撃を落とした。


 それを横に跳んで躱す。


 地面が吹き飛ぶ。衝撃が俺の体をさらに後ろへ飛ばした。


 土煙が舞い、視界が悪くなる。そこへ追撃を行うリオンが飛び出してきた。


 さらに聖剣を振る。


 しかし、勇者の剣は俺には届かない。


「大振りがすぎるな」


 なまじスキルの威力が高すぎて魔力に振り回されている。


 まともに使えないスキルの攻撃など、ただ後ろに下がるだけでいい。


 風属性魔法も使ってリオンを吹き飛ばすと、彼は苦悶の表情を浮かべた。


「クソッ! どうして俺の攻撃が当たらないんだ!」


 使い方が悪いんだよ——とは言わない。


 本来、あの聖剣スキルはただ攻撃のためだけの力じゃない。使用者の身体能力を底上げしたりもできるが、魔力の制御が甘すぎて十全に扱えていない。


 それでは俺には届かない。本来の主人公としての役目も果たせない。


 もう少し、スキルの練習をするべきだったな。




「ハァ……こんなもんか」


 正直期待外れもいいところだ。


 このまま魔力切れを待ってからボコってもいいが、それだと、スキルには敵わなかったという暴言を吐かれる可能性がある。


 リオンの心をへし折るには、あの聖剣スキルすら凌駕する必要があった。


 そのためには、俺の最強の攻撃を当てる。


「不甲斐ないお前に特別に見せてやろう。本当の力がどういうものかをな」


 黒羽根の剣を収納空間へ送る。


 いつの間にか俺の手には、赤黒い不気味な剣が握られていた。




「魔剣——解放」


 剣に魔力が集束する。赤色の光が走った。

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