第36話 初めての報酬
クロエ、クラリスの二人とともに王都へ帰還する。
彼女たちを伴って鑑定師がいる店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。本日は鑑定のご依頼でしょうか?」
扉を開けて中に入ると、早速、美人な女性が俺たちを出迎える。
家の家紋付きのハンカチを見せると、
「この家紋は……アクロイド公爵家の」
「オニキス・アクロイドだ。今日はダンジョン産のアイテムの鑑定を頼みに来た」
「ダンジョン!? ダンジョン産のアイテムをお持ちなんですか!?」
「ああ。それも先ほど手に入れたばかりの物をな。頼めるか?」
「はい! アクロイド公爵子息様の頼みであれば断ることなどできません」
「では頼む。鑑定を頼みたいのはこの二つのアイテムだ」
そう言って俺は、懐から取り出すフリをして、収納空間に保管しておいた二つのアイテムを取り出す。
そして彼女に手渡した。
「これはまた……何か力を感じますね」
「そうなのか?」
「ええ。私も鑑定スキルを持つ鑑定師ではありますが……このアイテムの鑑定をするには力量が足りませんね。店長に確認してもらいますので、少々お待ちください」
従業員の女性は二つのアイテムを手に店の奥へ引っ込んだ。
近くに置いてある椅子に三人で腰を下ろす。
「あのアイテム、高価な代物だと良いですね。なおのことオニキス様が強くなれる」
「ん? いや、あれは俺の物じゃない。俺には必要ない物だ」
持っておくに越したことはないが、手伝ってもらった手前、二人にも報酬を出したい。
「どういうことですか?」
「あれはクロエ嬢とクラリス様の物だ」
「え!?」
「な、なぜ私たちに!?」
「言っただろ? 俺には必要ない物だと」
「しかし……ダンジョン産のアイテムは高値で取引されるほど貴重な物ですよ? それをすべて譲るなんて……」
「別に譲るわけじゃないさ。あれはクロエ嬢とクラリス様への報酬でもある」
「報酬?」
「二人にダンジョン攻略を手伝ってもらったのに、何の見返りもないのは酷い話だとは思わない? だから二人は遠慮せずに受け取ってほしい。俺は別の物が手に入ったから」
「別の物?」
「何か他に手に入れた物が?」
「ああ。だから遠慮しなくていいんだ」
僕にはチュートリアルからの報酬が入る。
ダンジョン攻略なんて規模の大きなクエストだったし、きっと報酬も期待できる。
魔力回復薬だったらチュートリアルに抗議したくなるが、まあそれでも最悪いいか。回復薬はいくらあってもいいからな。
「…………オニキス様がそこまで仰るなら」
「ありがとうございます、オニキス様」
ぺこりとクロエもクラリスも俺に頭を下げる。
お礼を言われるほどのことでもないけどね。
むしろあの二つのアイテムをすべて俺が懐に入れると思われたのかな?
そんなにがめつくないよ。
▼△▼
「大変お待たせしました」
時間にしておよそ十分ほど。
奥の部屋から従業員の女性が戻ってきた。
結構早かったな。
「もう終わったんですか?」
「はい。ダンジョン産のアイテムは珍しいので、店主が急いで確認をしました。その結果……こちらの指輪には魔力を高める効果があります。ネックレスには聖なる加護が」
「聖なる加護?」
「状態異常への耐性や治癒スキルの向上など、複数の効果を発揮する力ですね」
「なるほど」
偶然手に入れたにしては、まるでお膳立てされているかのようにピッタリなアイテムだった。
俺にも使えるが、何よりクロエとクラリスに役立つアイテムだ。
従業員の女性に鑑定料金を支払い、アイテムを受け取る。
店を出ると、早速、俺は指輪をクロエに。ネックレスをクラリスに渡した。
「はい。約束通りそのアイテムは二人に上げるよ。ちょうど良かったね。二人にピッタリのアイテムだよ」
「ありがとうございます、オニキス様! オニキス様から指輪をいただけるなんて……婚約者としてこれ以上の幸せはありません」
「婚約者じゃありません」
「クロエ様が羨ましいですが、私もこのネックレスを一生大事にします。死んでも離しません! ありがとうございます、オニキス様」
「ちょっと重いかな」
なんで二人はこんなにテンションが高いのだろうか。
確かに貴重なアイテムではあるが、そこまで喜ぶほどの物だろうか?
店内で少しだけ俺が装備してみたが、正直上昇率はそんなに高くない——ように感じた。
魔剣を手に入れた時とは違う。
正直、少しだけ期待外れだった。
しかし、二人は本当に嬉しそうだ。水を差すわけにもいかず、俺は二人に返事を返しながら帰路に着く。
他の報酬が俺のことを待っていた。
▼△▼
クロエ、クラリスの二人と別れて自室に戻る。
メイドにお茶をもらうと、いまかいまかとチュートリアルの報酬を待った。
すると、紅茶を飲み切ったタイミングでウインドウが表示される。
【クエスト達成:報酬として『英雄たちの記憶』をプレゼントします】
「…………英雄たちの記憶?」
これまでと違い、今回の報酬はスキルでも武器でも回復薬でもなかった。
文字を何度読んでも意味不明。
そう思った直後、脳裏にある情報が刻まれた——。
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