第35話 ダンジョン攻略

 ダンジョンの一番奥にいたボスの一人、白銀鎧をまとった女性騎士を討伐する。


 残るは赤色の鎧をまとったガタイの良い男性騎士のみ。


 俺は急いで男性騎士と戦っているクロエの方へと向かった。




 ▼△▼




「クロエ嬢! 無事か」


 急いでクロエの傍に戻ると、彼女はクラリスと連携してボスと刃を交えていた。


 すでに体の至るところがボロボロになっている。


 生傷こそクラリスの能力で治癒しているが、服や鎧はかなり乱れていた。


「オニキス様ッ。こちらに来たということは、あの白い騎士を倒したのですね」

「ああ。クロエ嬢とクラリス様のおかげでなんとか勝てたよ」


「さすがですわ。わたくしも頑張った甲斐がありましたね——ッ」


 がくん、とクロエ嬢の足が曲がる。


 彼女は限界に達しようとしていた。崩れるクロエの肩を掴む。


「大丈夫ですか、クロエ嬢。あとは俺に任せてクラリス様の下へ」


「いいえ。まだ相手は一体、目の前に残っています。——わたくしは、まだ負けていませんわ!」


 クロエが剣の切っ先を前方に向ける。


 スキルが発動し、こちらに迫って来ていた赤い鎧の騎士の動きを止める。


「クロエ嬢……」


 彼女が無理をしているのは明白だ。


 顔にはびっしりと汗が滲んでいるし、傷を治しても隠しきれないほどの疲労が、震える四肢から伝わってくる。


 そうまでして戦おうとするのはなぜなのか。


 少しだけ気になったが、いまはそれよりやるべきことがある。


 二本の脚で立ち上がった彼女の隣に並び、剣を構える。


「個人的には休んでほしいけど……しょうがないね。気持ちはよく分かる」


 それに、相手は明らかに炎を使う魔物。氷の魔法スキルが使えるクロエがいれば楽に倒すことができるだろう。


「ありがとうございます、オニキス様。決して足を引っ張らないように頑張りますわね」


「必ず守ります。遠慮しないで」


「下腹部がキュンキュンしますわッ」


「真面目にね」


 叫んだクロエを諫める。


 こんな状況でも彼女は変わらない。そして俺もまた、そんなクロエが嫌いじゃなかったりする。


 お互いに剣を構え終わると、凍結を無理やり溶かして再び走り出した赤色の騎士とぶつかる。


 刃が交差し、相手の攻撃を避けながら次々に連撃を仕掛けた。


 幸いにもクロエは魔力を温存しながら戦っていたらしい。まだ魔力は残っている。


 彼女が相手の機動力を落とし、その隙を俺が突く。


 何か合図してるわけでもないのに、クロエも俺もお互いの気持ちが読めているかのように素早く攻撃のタイミングを合わせた。


 仲間を失い、二対一になった赤色の騎士は——意外なほどあっさり、地面に倒れることになる。


 討伐完了だ。




 ▼△▼




「お疲れ様でした、オニキス様」


 へろへろ、とそう言ったクロエが腰を地面に下して座り込む。


 何がお疲れ様だ。本当にお疲れなのは彼女だろうに。


「クロエ嬢こそ、お疲れ様。よくクラリス様と二人で持ち堪えたね」


 戦った感じからして、あの赤色の騎士は攻防に優れた個体だ。


 正直、強さだけなら俺が倒した白い騎士より上かもしれない。


 そんな相手を前に彼女は一歩も退かなかった。


 回復役のクラリスがいたとはいえ、大健闘したものだ。


「クラリス様の治癒スキルが無かったら早々に終わってましたけどね」


「そんなことありませんよ。クロエ様は相手の動きを読み、オニキス様のために時間を稼ごうとしました」


「だそうですよ、クロエ嬢。素晴らしい功績だ」


「そこまで褒められると素直に嬉しいですわ。一人では勝つことなどできなかった

のに」


「相手は強敵だったからね。俺もあの二体を同時に相手していたらヤバかった。二人が一緒で安心したよ」


 魔剣レーヴァテインを使えばそんなに苦労せずに勝てただろう。だが、魔剣無しだとかなり苦しい。


 それほどの強敵をたった一人で足止めしたのだ。彼女がMVPである。


「オニキス様は褒め上手ですこと。そこまで言われたら恥ずかしいですわ」


 かあぁっと顔を真っ赤にするクロエ。珍しい表情に思わず俺は面食らった。


 彼女も恥ずかしくなることとかあったんだ。




「——ん? お、オニキス様!」


 急に、何かを見たクラリスが驚愕の声を上げる。


 彼女がびしりと指を向けた。そちらへ視線を向けると……二つの装備が地面に落ちている。


「あれは……もしかしてドロップ品?」


「ダンジョンではごく稀に貴重なアイテムが落ちるという話は聞いていましたが……あれがそうなんでしょうか?」


「わざわざボスの傍に落ちているんだから間違いないかと。拾って持ち帰り、鑑定スキルを持った職人に見てもらいましょうか。もしかすると掘り出し物が手に入る可能性がありますよ」


「掘り出しもの……」


 キラキラとクラリスが目を輝かせる。


 いまだ腰を下ろしたままのクロエも瞳を輝かせていた。


「落ちているのは指輪とネックレスですね。どんな効果が秘められているのでしょうか!」


「それを知るためにも、今日はさっさとダンジョンを出ましょう。帰りは俺がすべての魔物を倒すから、クロエ嬢はゆっくり休んでてくれ」


 彼女に手を差し伸べ、全員でダンジョンを出る。

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