第34話 二つの影

 黒騎士との二度目の戦い。


 またしても激闘になるかと思われたが——。


「面倒なんてさっさと終わらせたとさ」


 魔眼&風属性魔法による斬撃で瞬殺。


 戦闘時間は一秒ほどだった。


「い、いいんでしょうか……こんなあっさり。昨日は少しだけ苦戦したのに」


「もちろんだよクロエ嬢。この後にも魔物は出てくるんだ、こんな所で時間を消費してる暇はない」


 黒騎士の死体を跨いで俺たちは更にダンジョンの奥へと向かった。




 ▼△▼




「! 二人とも止まって」


 手で二人の動きを制して俺も止まる。


 眼前にやけにひらけたエリアが見えてきた。


「どうしましたか、オニキス様」


「あれを見てくれ」


「あれ? ……広いエリアですね、ずいぶんと」


「それがどうかしましたか?」


「俺の勘が言ってます。恐らくここがダンジョンの最奥。ラスボスがいますね」


「ラスボス……?」


「最後の魔物ですよ」


 ゲームあるある。


 ひらけた場所はボスが戦闘を行うためのエリアだ。


 ひしひしと妙な圧が加わってくるし、間違いないだろう。


「とうとうこのダンジョンも最後ですか。まさか二日で終わるとは……」


「まだ終わってないよ。むしろここからが一番大変だ」


 ゆっくりとエリアの中に入っていく。


 エリアの中には、二体の巨人がいた。


 身長は大体三メートルほどか。


 二メートルもない俺たちからしたら倍くらいある。充分に巨人と言えるだろう。


 片方は白金の鎧を着た女性騎士。


 もう片方は赤色の鎧を着た恰幅のいい男性騎士。


 まさかのボス二体体制。


 これには驚きを隠せなかった。


「厄介だな……ボスが二体か」


「強そうですね——ッ! 動き出しましたよ、オニキス様!」


 クロエが叫ぶ。


 石像のように固まっていた二体の騎士が顔を上げた。


 女性騎士は手元から氷の剣を。


 男性騎士は手元から炎の大剣を生やした。


 主張が強いなおい。


 女性騎士の方は冷気を操る能力を持っていそうだ。


 逆に男性騎士の方は炎か。


 まさに対極の騎士。クロエがいてくれてよかった。


「クロエ嬢」


「はい」


「赤色の騎士を任せてもいいかな? あれはクロエ嬢と相性がいい敵に見える」


「奇遇ですね。わたくしもそれがいいと思ってました」


「じゃあクラリス様はクロエ嬢の支援を。俺は一人で女性騎士を倒します」


「了解しました! くれぐれも気をつけてくださいね!」


「もちろんです」


 クラリスの言葉に答えた——途端。


 素早い動きで女性騎士が俺の目の前にやって来た。


「速いな」


 俺は女性騎士の一撃に合わせて剣を振る。


 互いの剣がぶつかり合って衝撃を生んだ。


「ッ」


 パキパキパキ。


 女性騎士の剣と鍔競り合う俺の剣が、彼女の凍結の影響を受けていた。


 剣身が徐々に凍っていく。


 慌てて後ろに下がると、すぐに女性騎士は追撃してきた。


 それを風属性魔法で妨害する。


「接触した相手の剣を凍結させる効果まであるのかよ」


 厄介すぎるだろ。


 普通に打ち合うとその内、剣を伝った冷気の影響を俺自身が味わうことになる。


 ここは——風属性魔法による攻撃範囲拡張を使い、中距離から剣を振った。


 すると、——パキパキパキ。


 女性騎士が大量の冷気を鎧から放つ。


 その冷気に触れた瞬間、俺の斬撃が凍り付いて勢いが遅くなった。


 女性騎士に当たる前に完全に停止する。


「マジかよ……」


 魔法——魔力すら凍らせる能力だった。


 スキルを解除して拘束を解く。


 そこへ女性騎士が距離を詰めてきた。


 今度は近付かれるだけで冷気の影響を受ける。


 体温が急激に奪われているのが分かった。


 ——まずいな。普通に戦うと能力がウザすぎて時間がかかる。


 魔眼を使えば勝つこと自体は楽勝だが、クロエ嬢たちの方も苦戦している。


 ここは多少危険だが、氷を解かすほどの熱量で迎え撃つしかないな。


 黒羽根の剣を収納空間へと送る。


 チュートリアルに頼み、収納空間から——魔剣レーヴァテインを取り出した。




「さて……お前の冷気は魔剣すら凍らせることができるかな?」




 魔剣にわずかに魔力を流す。


 レーヴァテインが怪しく発光し始めた。


 莫大な熱量が解放される。


 それを手に、俺は女性騎士へ迫った。


 体に付いた氷は解け、彼女の冷気効果すら無効化して剣を振る。


 女性騎士は剣を盾に防御を試みるが、相性が悪かったな。


 氷で作られた剣をバターみたいに斬り裂いて、半身になった女性騎士の左肩から左脚を切断する。


 体勢が崩れて隙が生まれた。そこを突けば終わりだ。


 もう一度魔剣レーヴァテインを振って——。


「——おっと」


 魔剣を振る前に後ろへ跳ぶ。


 俺が立っていた場所には、氷のトゲが生えていた。


 女性騎士が足許から生成したらしい。剣を生み出すだけじゃなく、ああして物体を作って攻撃や防御にも使えるのか。


 他にも、失った部位を氷を生み出して補強してる。


 魔力操作の一環だろう。義手と義足で動いた。


 距離を離してひたすら中距離から攻撃を仕掛ける。


 それをレーヴァテインでかき消しながら、俺はどんどん女性騎士へ迫った。


 なまじダンジョン内部っていうのが彼女の敗因に繋がる。


 いずれ、逃げられる場所に限界がくるからだ。


 もう一人の男性騎士が炎を放出してる影響もあって、あっさりと追い詰められた女性騎士を——今度は確実に殺した。


 縦に真っ二つ。


 声も出さずに女性騎士は消滅する。


 残るは男性騎士のみだった。

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