第31話 ダンジョン攻略へ
「か、風属性……魔法!?」
目の前に現れたクエスト報酬の画面。
それを見た瞬間、周りにクロエやクラリスたちがいるのも忘れて俺は声を出してしまった。
「? どうかしましたか、オニキス様」
隣に並ぶクロエが首を傾げる。
「いま、風属性魔法って言いましたか?」
クラリスもばっちり俺の呟きを拾っていた。
「あ……いや……なんでもないよ。ただの独り言さ」
このタイミングはまずい。
急にスキルを授かったなんて二人には言えないし、風属性魔法に関しては次の——そう、ダンジョンの時にでも教えよう。
ここは嘘を吐くことにした。
「そうですか。後は学園へ帰るだけですし、独り言ではなく、わたくしたちと語り合いましょう?」
「最近の流行を調べておきましたよ! 話題は任せてくださいッ」
くすくすと笑うクロエ。謎に張り切るクラリス。
二人は俺の様子に特に違和感を覚えることなく話題を切り替えてくれた。
そのことにホッと胸を撫で下ろしながら二人の話に合わせる。
胸中では、いますぐにでもスキルの検証がしたかった。
▼△▼
学園に戻ってクロエたちと別れる。
彼女たちは女子寮に。俺は男子寮にある自室へ向かった。
「おかえりなさいませ、オニキス様」
「お茶を頼む。それとしばらく用はないから、使用人の部屋に戻れ」
「畏まりました」
メイドに遠回しに「一人にしてくれ」と伝えてソファに座る。
俺はメイドがお茶を持ってくるまでの間に、チュートリアルに訊ねた。
「おいチュートリアル」
『回答:なんでしょうか』
「風属性魔法はどんな魔法だ?」
一応聞いておかないと。
『回答:風を生み出し、周囲の風を操ることができるスキルです』
「中級は具体的にどれくらいのことができる?」
『回答:中級風属性魔法は、自身を浮かせたり突風を生み出したりできます。一般的に攻撃にも移動にも防御にも使えるかと』
「なるほどな……結構便利な能力じゃないか」
それに風属性っていうのがいい。
風属性は基本的にどこで使っても弱体化することがない。
炎なら森で使用が躊躇われる。
土だと水辺で弱い。
水か風の属性が欲しいと思っていたが、もしかしてその気持ちを汲んでくれたのか?
ジッとチュートリアルが表示する文字を見つめるが、返答は返ってこない。
まあいいかと視線を逸らした。
「いまはこの能力をどう使うかを考えるか」
風の汎用性の高さは逆に選択肢を狭める。
ここは思いつくかぎりの技をメモに残しておく。
しばらくして紅茶を持ってきたメイドに、追加でペンと紙を持って来させる。
一人になってから、その紙にいろいろな技を書き殴っていった。
「風による斬撃。剣と組み合わせて殺傷力と攻撃範囲の拡張。浮遊と移動。風を周囲に起こして防御……一時的に自分を加速させる」
次々にアイデアが浮かぶ。
特に戦闘に関しては本当に便利なスキルだ。
中でも俺が目をかけているのが、攻撃範囲の拡張。
これがあると無いとでは、攻撃の幅が天と地ほど変わる。
駆け引きにも使えるし、今度は要練習だな。
「あと気になるのは……防御能力の高さか」
風属性魔法による防御が高ければ高いほど、以前からの俺の弱点である防御力の低さを補える。
だが、これには攻撃してくれる相手が必要になる。
外で魔物相手に試すか?
いや……それはリスクが大きい。
他の生徒——知り合いに攻撃してもらいそれを防ぐ方が安全かつ確実だろう。
本当はダンジョンに行く日まで隠そうと思っていたが……クロエに協力を求めるべきだ。
明日、午後の授業で彼女に相談することにした。
「それ以外は自分で試せるし、ダンジョンは洞窟型だ。いきなり初陣で使えるな」
くくく、と思わず笑い声が零れた。
いまから楽しみでしょうがない。
▼△▼
数日後。
あらかた検証を終わらせた俺は、クロエとクラリスを伴って外に出る。
休日、ダンジョン攻略の日だ。
「これから我々三人だけでダンジョンを攻略すると思うと、少しだけ緊張しますわね」
「クロエ嬢でも緊張することがあるんだね」
「もちろんですわ。初めてのダンジョンですから」
「私も緊張してます……治癒役で戦闘はできませんが」
「平気ですよ。俺たちなら問題なくダンジョンを攻略できる。いざとなったら俺がお二人を守るのでご安心を」
「キュンッ。オニキス様素敵……」
「こ、興奮しそうでしたわ……下着の替えはないのに」
クロエの言葉はスルーする。
二人が少しでも緊張を解してくれるといいな。
足取りは軽やかに。俺たちは一時間ほどかけてダンジョンの入り口まで向かった。
▼△▼
「——オニキス様! そちらに行きましたよ!」
「分かってる。問題ない」
クロエの横を通り抜けていった魔物の首を斬り裂く。
血飛沫を上げて魔物は絶命した。
これで合計十体の魔物を討伐する。
「ふう……なかなか数が多いですね」
「でも弱いですよ。これなら奥までいけそうだ」
「私はいまのところ出番がありませんね。出番がなければないだけ嬉しいですが」
「すぐに出番は来ますよ。この先に何かオーラを感じます」
三人でダンジョンを潜って数時間。
結構奥までやって来たが、出てくるのは小型の雑魚ばかり。
そろそろ中型や大型が出てくる頃かな? と思っていると、洞窟の奥から嫌な気配がした。
これまでより強い魔物がいそうだ。
俺を先頭にさらに奥を目指す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます