第30話 魔法スキル

 王都近隣の森の中を歩いている最中、俺たちはダンジョンを見つけた。


 ——ダンジョン。


 それはこの世界特有の異世界。


 ひとたび足を踏み入れれば、そこは未知の世界が広がっている。


 人はダンジョンを神の奇跡、神の気まぐれ、神の試練などと呼ぶ。


 要するにファンタジーものの定番だ。


 魔物がいてアイテムとかドロップする感じ。


 ダンジョンだけゲーム要素が強いんだよなぁ……原作に関わってくるわけでもないし、完全にボーナスステージだ。


 場所によっては珍しい装備などが見つかったりする。


「まさかこんな所にダンジョンがあるなんて……」


「どうしますか、オニキス様」


「どうするって……ダンジョンを攻略するか否かですか?」


「はい。オニキス様はこういうの好きじゃありませんか?」


「……好き、ですね」


 クラリスの言葉に肯定を示す。


 彼女の言う通り俺はちょっと心を惹かれている。


 ダンジョンは強さを求める俺にはもってこいだ。恐らくチュートリアルもクエストなんかを発注してくれるだろう。




【クエスト発生:ダンジョンを攻略せよ】




 ……ほらな。


 前の報酬は魔力回復薬だけだったが、今回はまた魔剣クラスのいい装備かスキルがもらえることを祈っている。


 ——つまり、俺は攻略する気満々ってことだ。


「ではダンジョンを攻略する、ということでよろしいでしょうか?」


「クロエ嬢とクラリス様も参加するんですか?」


「オニキス様がよろしければ私も頑張りたいですね。サポートはお任せください!」


「わたくしは最初からそのつもりでしたわ。オニキス様とダンジョン攻略……凄く楽しそうですもの」


「なら決定ですね」


「とはいえ今日は戻った方がいいでしょう。授業の最中にダンジョンに潜って、教師たちに心配されても困りますし」


「そうだね。クロエ嬢の言う通り、今日は諦めて帰ろう。次の休日に三人でダンジョンを攻略しようか」


 ダンジョンはかなり広い。


 正直、俺一人で攻略できる気はしない。だから、彼女たちが手伝ってくれるなら大幅に時間を短縮できるだろう。


 俺たちは踵を返して来た道を戻る。




 ▼△▼




「きゃあぁぁッ!」


「ん?」


 帰り道。


 ゆっくり歩いていると、前方から女性の悲鳴が聞こえてきた。


「いまの声は……誰かが魔物に襲われているんでしょうか!?」


「分かりませんが……助けに向かうべきでしょうね」


 正義感の強いクラリスが真っ先に反応を示し、三人で急いで声のした方へ向かう。


 木々の隙間を超えて走ると——複数の中型の魔物に襲われている女子生徒たちを見つけた。


 彼女たちの体には傷や血の滲みが見える。




【クエスト発生:クラスメイトの女子生徒たちを助けろ】




「ッ。クラリス様は彼女たちの治療を。クロエ嬢は俺と一緒に魔物を倒してください!」


 ここに来て二つ目のクエストが表示された。


 言われなくても助けるよ。


「了解しました!」


「お任せください」


 クラリス、クロエの順番で答え、二人はそれぞれ行動を始める。


 俺も黒羽根の剣を抜いて中型の魔物——オークの群れに立ち向かった。


 オークたちの手にする剣や棍棒を避けて急所を的確に攻撃する。


 クロエも氷魔法スキルを使って優位に戦況を進めている。


 およそ十分ほどで数体のオークを討伐し終えた。


「クラリス様、彼女たちは平気ですか?」


 剣を鞘に納めてクラリスたちの下へ。


 すでに治療は終わっているように思える。


「問題ありませんよ、オニキス様。対応が早かった分、皆さん軽傷でしたから」


「よかった……」


 ホッと胸を撫で下ろす。


 まだ若い彼女たちが命を落とすところなんて見たくないからな。


「オニキス様、クロエ様、クラリス様。このたびは助けていただきありがとうございます。オニキス様たちがいなかったら、いま頃私たちは……」


 パーティーを代表しておさげの女性が頭を下げる。


 理知的な女性だ。まだわずかに体が震えている。


 無理もない。いましがた魔物に殺されかけたのだ。恐怖が完全に治まっていないんだろう。


「いえいえ。ご無事で何よりです。それより、どうしてこんな森の奥まで?」


 魔物は基本的に人里から離れれば離れるほど数を増す。


 担当の教師にあまり奥まで行くなと言われていたはずだ。


 俺たちも言いつけを破ってはいるが。


「すみません……私が結果を求めるあまり、友人たちを危険に晒してしまいました」


「何言ってるんですか! 私たちだって構わないって言いましたよ!」


「一人で責任を取ろうとしないでください!」


 わーわーとおさげの女性に言い寄る友人たち。


 命の危機に瀕してもなお、彼女の肩を持つということは、それだけ絆が深いってことだ。


 俺はフッと笑って言った。


「自分がしたことを分かっているならいいんです。次は気を付けてくださいね」


「は、はい! 本当にありがとうございました」


 もう一度深々と彼女たちは頭を下げて、全員で王都の正門近くまで帰った。


 帰り道、魔物は一匹も現れなかった。




 ▼△▼




 魔物に襲われていたクラスメイトの女性たちを助けて、全員で森を抜けて王都に戻る。


 俺たちのパーティーは中型の魔物などをたくさん討伐していたので成績は当然トップ。


 ドヤ顔を浮かべるクロエと嬉しそうなクラリスとともに学園へ帰還した。


 その道中、




【クエスト達成:報酬として中級スキル『中級風属性魔法』をプレゼントします】




 俺が一番求めていた遠距離用のスキルを獲得した。

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