第29話 発見
「聖遺物……?」
生徒会長の口から出た言葉に俺は首を傾げる。
知っているが、詳しくは知らない。
「不思議な力が籠められている物だそうよ。過去に見つかった物だと、光を放つ剣。魔力を生み出す杯などなど。どれも国宝に認定された代物ばかりね」
「その聖遺物の場所を……会長が知っているんですか?」
「噂程度の話だけどね」
「噂……」
「それをオニキス様にお話ししましょう。対価として、あなたには生徒会に入ってもらいます」
「なるほど……」
確かに俺には刺さる提案ではあるな。
原作において聖遺物はめちゃくちゃに重要な役目を担う。
特に主人公がやがて手に入れる聖剣も聖遺物の一つだ。
彼女が最初に言った光る剣——とはまた違った本物の聖剣を入手する。
そこから主人公リオンの無双が始まると言っても過言じゃない。
聖遺物とはそれだけ強力だ。
手に入れられれば魔剣並みの奥手になるだろう。
だが……。
「考えさせてください」
「あら。聖遺物の情報でも足りないの?」
「生徒会に入るのが嫌とかそういうわけではありませんよ。ただ……」
「ただ?」
「入ったことで起きる諸々の問題などを考えています」
「諸々の問題?」
「こちらの話なのでお気になさらず」
「は、はぁ……」
困惑する会長。
俺が主人公リオンのポジションに収まることで生まれるメリットとデメリットを考えなくちゃいけない。
ひたすら原作とは違うルートを辿ればいいというわけでもないからな。
「では、またオニキス様に返事を聞きに行くわね。やる気になったら、逆にオニキス様が私の下へ来てちょうだい。生徒会はあなたを歓迎します」
「分かりました。前向きに考えておきます」
「ふふ。嬉しいわ」
その後は他愛ない会話を挟みながら食事をした。
なんていうか、生徒会長の雰囲気は嫌いじゃない。会話も軽快だし無駄がなく、話していて楽しかった。
▼△▼
生徒会長ノルンカティアから生徒会役員に誘われて数日。
今日は生徒たち全員で街の外に来ていた。
午後の授業が課外活動になったのだ。
「オニキス様。わたくしと勝負をしましょう」
隣に並んだクロエが、微笑みながらそんな提案をする。
「勝負?」
「はい。どちらがより多くの魔物を倒せるか勝負です」
「メリットがないんだが……」
「オニキス様が勝利した暁には、わたくしの体を好きなようにしてくださいッ」
「断る」
「アァンッ! 今日もオニキス様はいけずです……」
「お前の頭もハッピーで何よりだよ。……ちなみに、クロエ嬢が勝った場合はどうなるんだ?」
「オニキス様を犯しますッ」
「選択肢が一つしかねぇ」
犯すか犯されるか。
行きつく先は同じじゃねぇか。
「——ズルいですよ、クロエ様。戦えない私に秘密で勝負なんて」
「あらクラリス様。聞いていたんですか」
「当然ですッ。私たちは同盟を結び、お互いにオニキス様と結ばれようと約束したではありませんか」
「分かっています。いまのはただの戯れ。オニキス様が勝負を受けてくださったら、クラリス様も呼ぼうと思っていました」
「それならいいんですけど……」
「よくない。全然、俺がよくない」
二人して思いきり俺の貞操を狙っている。
クロエとクラリスが手を組んでから、自らの好意を隠そうともしなくなった。
ある意味、一番の頭痛の種が二人だ。リオンより困る。
「そんなこと言って、オニキス様も殿方。悪い気はしないでしょ?」
「……そりゃあまあ」
クロエもクラリスも飛びきりの美少女だ。
その二人に迫られて嬉しくない奴はいない。
だが、一度でも気を許すと二人は暴走しそうだし、せめて悪役ルートを完全に回避したと分かるまで——学園を卒業するまでは答えは出せない。
いつフラグとぶち当たるか分からないからな。
「ふふ。妙なところで素直ですよね、オニキス様は」
「うるさいよ。それよりさっさと魔物を倒しに行くぞ。もう授業は始まっているんだ」
「分かっています。今回はグループでの活動。足を引っ張らないよう注意しますね」
「私も頑張ります! ——と言っても、治癒くらいしかできませんけどね」
「充分ですよ。クロエ嬢もクラリス様にも期待しています」
俺たちは並んで森の奥を目指す。
▼△▼
課外授業では少しでも危険を避けるために、複数の生徒がパーティーを組んで魔物を討伐する。
俺はソロでも充分な実力があるが、ルールなので従わざるを得ない。
問題は、組んだ相手がクロエとクラリスってこと。
人数的には他のパーティーが五人なのに対してこちらは三人。
その分、実力者が固まった形になるな。
「はあぁッ!」
クロエが鋭い刺突を魔物に喰らわせる。
小型のゴブリンは頭部を貫かれて絶命した。
見事な一撃だ。
「ナイス攻撃。クロエ嬢は魔法スキルを持ってるのに近接戦闘ができて凄いね」
「ふふんッ。それほどでもありますわ! わたくし、一つのことに傾倒しすぎないよう自分を戒めましたもの」
「普通は特化するのが常識なんですけどね」
「どちらも使えれば完璧。それがわたくしのスタイルですわ」
「立派ですね」
俺なんて遠距離用の攻撃スキルを持っていない。
ある意味、魔剣を使えば広範囲を焼き払えるが、魔力の消費が激しい上、威力が高すぎる。
もっと調整しやすいスキルが欲しかった。
「オニキス様に褒められるのも……んんッ! 気持ちいいですわね」
「興奮しないでください」
褒めても貶しても興奮するとか無敵だなこの人。
ジト目でクロエを睨みながらさらに先に進む。
しばらくはクロエが戦闘したいからと彼女に任せているが、そろそろ俺も体を動かしたいな……。
そう思っていたら、急にクロエが足を止めた。
「クロエ嬢?」
かなりの距離を移動してきたから、さすがに疲れたのかな?
「オニキス様……あれを見てください」
「あれ?」
スッと人差し指を前方に向けるクロエ。
その先に視線を移すと……崖があった。
どこにでもある平凡な崖だ。
しかし、そんな崖に似合わぬものが一つ。
ぽっかりと開いた穴があった。
「まさか……!?」
「ダンジョン、ですかね?」
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