第27話 敗北と新たなヒロイン

 リオンの剣を防ぐ。


 リオンの剣を弾く。


 リオンの体を蹴る。




 たったこれだけの動作で、原作主人公は地面を転がった。




 あまりにも弱い。


 あまりにも単純。


 あまりにも脆い。




 剣術スキルに余程の自信があったのだろう。わざわざ俺に挑んでくるくらいには。


 しかし、結果を見ればお互いの実力差はもう明らかだった。


 俺のほうがリオンより強い。


 魔眼がなくても、魔剣がなくてもリオンは俺には勝てない。


 たしかに魔眼による動体視力の補正などはあるが、それはあくまで副産物。


 封じることができないのだからしょうがない。


「くッ……まだ、まだだ!」


 リオンは立ち上がった。


 瞳に鋭い憎しみの色を浮かばせて剣を構える。


「諦めないのか? 充分に実力差を見せつけたと思ったが……」


「たった一度の剣戟くらいで勝敗は決まらない! 現に俺は……立っている!」


「それは俺が手心を加えたからだ。追撃しようと思えばできた」


「どうだかな! 俺の反応が思ったより早くてびっくりしたんじゃないか?」


「…………やれやれ」


 リオンは先程のやり取りをそういう風に解釈したのか。


 確かに反応は悪くなかった。予想より早いという指摘も間違っていない。


 だが、所詮はその程度。


 俺が追撃していればあっけなく勝敗はついていた。


 リオンのプライドのためにあえて見逃してやったんだが……その必要はなかったな。


 降参しないなら、次は確実に終わらせる。


「お前はもう少し相手の力量を測ることを覚えたほうがいい。自分の力に自信を持つのは悪いことじゃないけどな」


「うるさい! 俺は……絶対に強くなるんだッ!」


 再びリオンが地面を蹴った。


 素早く俺に肉薄する。


 先程の攻撃が通用しなかったからか、今度は俺の側面に回って攻撃を行う。


 ——学習能力は丸、だな。


 指摘された欠点を直そうとする姿勢は嫌いじゃない。


 まあ、だからどうという話でもないが。


「間合いの管理がヘタクソすぎる」


 薙ぎ払われたリオンの一撃を、涼しい顔で防御する。


 俺はまだ一歩も動いていない。


 ただリオンの攻撃を防いでカウンターを打ち込んでいるだけだ。


 それだけ勝敗は決する。


「——ぐえッ!?」


 左右からでたらめに打ち込まれるリオンの攻撃を捌きながら、先程と同じローキックを喰らわせる。


 リオンの体勢が崩れた。


 さすがの二度目になると復帰がさらに早くなる。


 慌てて木剣の切っ先を放った。刺突だ。


 首を傾げてかわす。


「顔面かよ。えげつかないな」


 もう一度リオンを蹴った。


 割と強く蹴ったからリオンは吹き飛んでいく。


 俺は剣術をまともに使っていない。


 蹴りだけでリオンを圧倒していた。


「もう終わりだ。お前といくら戦っても得られるものはない。スキルを封じたのが逆に枷になったな」


 リオンの真骨頂は剣術とは別のスキルにある。


 それを自ら封印するなんて愚かとしか言えなかった。


 あのスキルがあれば、魔眼ありでも少しは健闘できたかもしれないのに。


「リオンッ」


 俺が試合終了を告げると、幼馴染のアリサが倒れたリオンの傍に駆け寄る。


 そのシーンが原作において正しいヒロインと主人公の姿を現していた。


「収まるところに収まる……か」


 クラリスはリオンに対して好印象を持っていないが、アリサがいれば物語は順調に進むだろう。


 どこか眩しいと思える光景に、俺は目を細めてから踵を返した。




 その時。


 背後からリオンの癇癪が聞こえる。


「離せ、アリサ! 俺はまだ負けてない! 俺はまだ戦える!」


 ちらりと背後を見ると、アリサに押さえつけられているリオンの姿が。


 木剣を手に必死に俺のことを睨んでいた。


 ——どうして、あそこまで頑張ろうとするのか。


 単に俺を毛嫌いしてるわけじゃない。


 きっと、幼馴染のアリサを奪われたくないという気持ちの表れだろう。


 こちらとしてはウザいが、気持ちは理解できる。


 アリサの意志はアリサのもので、リオンが力ずくで奪っていいものではないが、どうせ原作通りあの二人はくっ付く。


 未来を知っている俺だからこそ、焦るリオンに呆れてしまう。


「ハァ……」


 やめだやめ。


 これ以上、俺とリオンは戦う理由がない。


 踵を返してさっさと別の相手を探そう——と思った時。


 パシーンッ。


 背後から乾いた音が響いた。


 アリサがリオンを平手打ちした音だ。


「いい加減にしなさい! オニキス様がせっかくリオンの相手をしてくれたのに……リオンは自分のことばっか!」


 アリサの怒声が続いて響く。


 俺も他の生徒たちもその様子を静かに見守った。


「オニキス様は魔物から私たちを助けてくれた恩人。噛みついて、何度も何度もしつこく挑むなんてどうかしてるッ! なんで相手の優しさにつけこめるの!? リオンはそんな人じゃなかったでしょ!」


 叫びながらアリサは立ち上がると、俺の横を通ってどこかへ走り去ってしまった。


 その背中を見送ってから視線をリオンへ戻すと、彼は呆然と地面を見下ろしていた。


 その表情に、黒いものが見える。




「……どうなってんだ、この世界」


 ますますおかしくなってきたな。




 ▼△▼




 訓練場から飛び出してしまったアリサを追いかける。


 リオンともっとしっかり仲良くなってほしい。


 俺が仲裁するのも変な話だが、信頼を勝ち取ってるからこそできる気がした。


 廊下を速足で進む。


 曲がり角を曲がって中庭のほうへ出ようとしたら、——その前に見知った顔の女性が俺の前方を塞いだ。


「——あらぁ? 誰かと思ったら、有名人のオニキス様じゃない」


 鮮やかな朱色の髪を揺らし、オレンジ色の瞳が俺を捉える。


「あ、あなたは……」


 なんでこんな所に彼女がいるんだ。


 アリサを探す予定が、まさか——別のと遭遇するなんて。


 俺は関わると面倒だな、と思い、


「すみません。ちょっと急いでるので」


 と彼女の横を通り抜けようとする。


 だが、それを彼女が横にズレることで阻止された。


 にんまりと彼女は笑う。


「まあまあ。私の用件はすぐに済むから、話を聞いてよ。彼女さんと喧嘩したのか分からないけど、あの子はそっとしておかないといけないだろうしね」


 こいつ……アリサの行く先を知ってるのか。おまけに恋人だと勘違いされている。


 訂正するのも面倒だからさっさと用件を話せと彼女を睨んだ。


 余計に女生徒は嬉しそうに笑った。


「用件は単純よ。オニキス様……あなた、に入るにつもりはない?」




———————————

あとがき。


パソコンが壊れたぁ!?と慌てていたら投稿するの忘れてました!

毎日投稿はまだまだ続きますよ~


【作者からのお願い!】

最近は他の作品がもの凄い勢いでランキングは落ちてしまいましたが、まだまだ上位!

どうかまだの人は★★★やレビューをいただけると作者のモチベーションになります!

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